日本オムニチャネル協会の活動をサポートする役割を担う「フェロー」。各方面の専門家が集まり様々な活動に取り組みます。今回はそんなフェローの1人で、企業のマーケティング支援と、自社事業としてDtoCなどの事業開発する株式会社シンクロ代表取締役社長の西井敏恭氏に話を聞きました。西井氏が考えるマーケティングの本質とは何か。西井氏のユニークな経歴とともに、マーケティングにかける思いに迫ります。
海外旅行中の経験からインターネットの世界へ
鈴木:経歴を教えてください。
西井:大学院在学中、旅行にハマり「若いうちにバックパッカーで世界一周したい」と思うようになりました。そのため卒業後に1年間は旅行資金を貯め、2年半ほど世界一周をしました。その当時SNSもなかったので、個人HPを開設し旅行記を運用していました。すると旅先で声を掛けてもらったりファンレターをもらったりするほど旅行記が有名になり、書籍化されるほどになりました。そのような経験から「インターネットって面白い」と感じ、帰国後はEコマースを手掛けるベンチャー企業に入社しました。そこでゼロからEコマースについて勉強しました。
その後、化粧品会社のドクターシーラボへ入社し、ほとんどの売上がオフラインの中、責任者として通販のマーケティングをしました。7年間働いた後、また1年間海外旅行をしたのですが、その頃にはSNSが出ていたので、海外旅行の様子を発信していました。するとインターネットに課題を抱える方々からコンサルティングをしてほしいと声をかけてもらうようになりました。そのため仕事をしながら旅行する1年間を過ごしました。
鈴木:当時リモートワークは珍しかったのではないでしょうか。
西井:非常に珍しかったと思います。ZoomもなくSkypeを使って仕事をしていました。その後帰国してからも様々な会社のマーケティングのコンサルティングをしていて、その1つがオイシックス・ラ・大地でした。そのためオイシックスの執行役員をしつつ、現在代表取締役を務めるシンクロを起業しました。起業から10年ほど経ち、現在はオイシックスのCMT(チーフマーケティングテクノロジスト)として関わりながら、NTTドコモのシニアマーケティングディレクターとしても活動しています。
マーケティングとは「買いたい気持ちをどうつくるか」
鈴木:西井さんにとって「マーケティング」とは何ですか。
西井:「お客様の買いたい気持ちをどうつくるか」がマーケティングだと思っています。買いたい気持ちをつくるために「お客様が求めているものって何か」を考えることの重要さをドクターシーラボの時に体験しました。当時のトップが配送センターの受注日数を短縮するために2億投資するなど常にお客様を第一に考えた意思決定をしていました。費用対効果ではなく、お客様のことを考えた意思決定をずっと見ていましたし、結果お客様が喜べば利益が上がる状況も見てきました。
やはり客様を考えてマーケティングに投資をしていくことを長期的に愚直にやっていくべきです。そのため私は「お客様がどうすれば喜ぶのか」「どうしたら買いたい気持ちになるのか」を常に実施し売上を上げていくマーケティングに価値があると思います。
鈴木:ここ最近、マーケティングというとテクニック論の話が多くなっているのではないかと感じます。「お客様が求めているものって何か」と興味を持つことが重要ですね。
西井:そうですね。デジタルが普及した時代、企業の売りたい気持ちがお客様に見透かされてしまいます。売りたい気持ちをどのように買いたい気持ちに変えるのか考えるべきです。
鈴木:経営を学問に落とすと統計学と心理学だと思っています。この両方のバランスで成り立っていると思いますが、費用対効果などの統計ではなく、「お客様が何を求めているのか」といった心理学の方を優先させた方がうまくいくのではないかなと思います。
西井:そうですね。そのため販路別の売上ではなく、顧客軸の売上として計算する指標に変えるようにアドバイスをしています。顧客軸をKPIにすることでお客様目線が変わり、顧客の信頼をつくっていけると考えています。
鈴木:「客数×客単価」から「アクティブユーザー×LTV」に変えていかないといけないと感じます。西井さんは外部CMOでありながら、半分“中の人”としてアドバイスをしているように組織に入り切っていないのもいいかもしれませんね。
西井:それはあると思います。インターネットが出始めで端に置かれていた時からやっているので、王道で出世することを経験していません。それに自分で起業もしているので、社内で出世争いを一度も意識したことがないので、「お客様にどうするか」でしか発言をしません。そのため社内で信頼してもらえることはありますね。
「デジタル×事業開発」で変わりゆく社会をより良いものに
鈴木:今後、どんなことをしていきたいと考えていますか。
西井:デジタルと掛け合わせた事業を開発することで人々の生活をより良いものにしていきたいです。
シンクロではバックパックやゴルフクラブをつくったり、サッカーチームを運営していたりします。しかしこれらはただものをつくっているのではなく、デジタルと掛け合わせて事業を展開しています。例えばサッカーチームの運営だと、従来はエリアごとにファンをつくっていましたが、ソーシャルメディアを活用することでエリア外にもファンをつくることに成功しています。アマチュアのチームですが2ヵ月間のクライアントファンディングで約1億円の資金を集めることができました。まさにDXです。
自分が起業する時もそうでしたが「具体的にこれに取り組みたい」と分かっている人は少ないと思います。そのためノウハウも提供してDXを活用した事業を増やすことで人々の生活がより良いものにしていきたいです。
鈴木:単にお金を出すのではなくノウハウやアイデアも提供していくのですね。起業まではいかないけど、自身で事業をつくりたい人は多くいると思います。
西井:そうですね。それに年功序列や終身雇用など日本の働き方が変わっている中で、従来の働き方の枠にはまらない人がいると思うので、その受け皿のような役割を担っていきたいです。マーケティングをやる人だとあるあるなのが、会社内で立場が上になると予算の承認やマーケティング戦略の概略だけ立て現場から離れた仕事が多くなります。しかし私は現場をきちんと見ることができているマーケターが優秀だと思いますし、そのような環境を確保したいという思いがあります。そのため事業開発をすることで実現していきたいですし、現場のことをいつまでも考えられるマーケターが増えやしたいです。
鈴木:シンクロが「今まで行ったことのある国の数」で出世が決まるのは非常に面白いですよね。一見面白半分ですが、それは様々な体験をしている人を採用しているということですよね。
西井:そうです。意外とロジカルに考えていて、絶対ではないですが、多くの国に行っている人ほど、活発的でいる視野が広く、時間のマネジメントが上手で、どこにでも飛び込めるので仕事ができる人が多いです。ちなみに私は150ヵ国訪れていて1番多いので社長をしていますね(笑)。
鈴木:150ヵ国を抜かすことは難しいですね(笑)。シンクロはフルリモートで仕事をしているとのこと。どのようにしてフルリモートで仕事をする環境をつくったのでしょうか。
西井:元々社員用のオフィスはあったのですが、フィリピン在住の人を社員に入れてリモートで打ち合わせをしないといけない環境をつくったり、コミュニケーションを図ったりするために3ヵ月に1回は合宿を開催。そして毎月のようにワーケーションをしています。オフィスに使う資金を社員のコミュニケーションに使っています。
鈴木:日本のリモートワークのように家の中に閉じこもって仕事をするのは良くないと思いますが、海外に出張しながら30分だけ打ち合わせに出るとかでリモートを使うのは非常に良いと思います。リモートの良さを活かして楽しそうに働いていますね。
西井:楽しくないと続かないですからね。 当たり前になって「オムニチャネル」という言葉がなくなればいいですね。
鈴木:現在、日本オムニチャネル協会のフェローとして活躍していただいていますが、様々な業界や立場の人々が集まっています。イノベーションは異質なもの同士がぶつかった時に生まれると思っているので、まさに西井さんは異質な存在として日本オムニチャネル協会に関わって下さりありがたいですね。これからもよろしくお願いします。 西井:異質なら任せてください(笑)これからもよろしくお願いします。
株式会社シンクロ
https://thinqlo.co.jp/
一般社団法人日本オムニチャネル協会
https://omniassociation.com/