「若者の車離れ」なんて言葉が登場して久しいですが、一方で多くの子どもたちを惹きつけ続けるのが「のりもの」でもあります。
工業デザイナーで愛車はボルボ・XC40とトヨタ・セリカZZT231(最終モデル)というTOMさんは先日、「ブーブー」が大好きな息子君に、新しい車の児童書をプレゼントしました。
ところがそれは「子ども向け」とは何か、と考えさせられるほどガチの「教育書籍」だったのです。
■ 「for KIDS」ながらも内容はガチ
「ブーブーが好きな息子君の為にブーブーが沢山のってる児童書を買ってきたぞ
全編ひらがなでルビがあるので子供も読みやすい
世界のスポーツカーをざっと説明した後、『ブリッツのパーツでチューニングしよう!』みたいな様子がおかしいコーナーが始まる
児童書でブリッツ車高調を説明するんじゃないよ」
つぶやきとともに、購入した「じどうしゃのすべて」を紹介したTOMさん。そこには「世界のスポーツカー大集合!!」の見出しとともに、レーシングモデルを含めたスポーツカーがズラリ。さらにはダンプトラックなどののりものに、「事故をおこさないしくみ」といった啓発コーナーの紹介もされているようです。
YAMAHAが主に北米で展開しているROV(レクリエーショナル・オフハイウェイ・ビークル)「YXZ1000R」が、右下部分にちゃっかり掲載されていることを除けば全体的にオーソドックスなラインナップですね。全てルビをつけているあたり、「児童書」であることをより強調した構成となっています。
TOMさんによると、書籍内では当初、表紙の配分通りに数々のスポーツカーが紹介されていたそうです。そこに飛び込んできたのが、カー用のチューニングパーツを取り扱う「ブリッツ(BLITZ)」による「チューニング」の紹介コーナー。
フロントバンパー下部に取り付ける「リップスポイラー」に始まり、スポーツカー視点でのオシャレな後部マフラーの取り付け、より滑らかなカーブ走行を行うためのサスペンション(ショックアブソーバー)交換など、そのブランド名の通り“電撃的”に差し込まれています。車高調整サスによるビフォーアフター画像も掲載し、「映え」が分かるように意識しているのも、「SNSネイティブ」な現代っ子を強く意識したものとなっていますね。
他にはエンジン部分の詳細説明や、付録には日産・フェアレディZ(RZ34/2023年現在の最新型)のペーパークラフトと、まさに世のクルマ好きパパたちが、愛する子どもたちへの“帝王学”の一環で贈る「英才教育資料」として申し分ない内容。
「スゴイ本があるぞ!」と興奮したTOMさんは、自身のフォロワーに向けてTwitterに投稿。するとこれには、“大きなおともだち”も含めて数多くのユーザーが注目しました。
「『ネット上にはまだまだたくさんのクルマ好きがいるんだなあ』と驚きでした」
余談ですが、今回の投稿には発行元である「モーターファン」公式Twitterも反応しています。実はTOMさんのツイートにより、既に発売から1か月以上が経過していたにもかかわらず(2023年1月16日発売)、Amazonの売れ筋ランキングの「車・バイクカテゴリー」にて、1位に急上昇する反響を得たんだそうです。
■ 発行元も驚き「これがバズるってことなんだ」
「1位になっていることを発見したものの、当初はまったく理由が分からず、色々と調べていく中でTOM様のツイートに行き着いたんです」
こう語るのは、モーターファンを発行する株式会社三栄・モーターファン for KIDS編集部員の生江(なまえ)さん。ちなみにこのような経験は初めてとのこと。
「見つけた瞬間は、『ああ、これなんだ!』という気持ちでした。『これがバズるってことなんだ!』と感動しました。TOM様には感謝の気持ちでいっぱいです」
三栄が発行する自動車専門誌「モーターファン」ですが、創刊は今から100年近く前の1925年、アメリカ通信社(のちにモーターファン社、自動車日本社と社名を変更)から発行が始まりました。太平洋戦争の影響で1944年に休刊に追い込まれ、終戦後の1947年になって、休刊時の編集人だった鈴木賢七郎氏の手によって復刊。この際に設立された「株式会社自動車通信社」は前身の企業にあたります。
しかし、1996年7月に再度の休刊。その後2016年から翌17年にかけ隔月刊誌として一時的に復活を果たしますが、現在はWebメディアとして存続。紙媒体としては、ニューモデル速報や統括シリーズといった「モーターファン別冊」を不定期に、そして自動車のメカニズムを楽しく深掘りする「MotorFan illustrated(モーターファン・イラストレーテッド)」を月刊誌として刊行しています。
そんな中で、「子ども向け本格自動車雑誌」として発売されたのが「モーターファン for KIDS じどうしゃのすべて」。「子どもを素敵なクルマ好きに育てちゃおう!」というコンセプトのもと、現在も40以上のブランドを有し、「自動車誌業界ナンバーワン」に君臨する三栄が満を持して送り出した意欲作でした。
■ 反省点はある「本格的にしすぎてしまった」
言うまでもなく、モーターファン編集部の皆さんは大人向けモーター誌に携わるプロ中のプロ。さらに全員が関連誌の現役編集長という“精鋭部隊”です。
だからこそ「本格的」にこだわったのですが、少なからず葛藤もあったそうです。
「対象年齢層は『未就学~小学4年生』を想定していますが、本格的にしすぎてしまった部分もあるため、内容には賛否両論あることも覚悟の上で送り出しました。ここは反省している点でもあります」
「一方で、『少し易しめのクルマ雑誌』とも位置付け、多くのクルマ好きの皆さんにも楽しんでいただければと思います。そういう意味では『全年齢対象』かもしれませんね。欲を言えば、本書に興味を持っていただく方が増えていただければ嬉しいです」
生江さんの言葉通り、本書にはTOMさんをはじめ、幅広い年齢層の読者に支持されることとなりました。その影響を踏まえ、 モーターファン for KIDS編集部では「第2弾」も投入しようという機運が高まっているそう。7月ごろの発売を目標に、制作の着手に入ったとのことです。
余談ですが、実は筆者も一介のクルマ好きな人間。この度の反響に影響され、Amazonにて先日「購入予約」したことをここにご報告いたします。
<記事化協力>
TOMさん(@tom_kinoco)
<取材協力>
MotorFan[モーターファン](@MotorFanweb)
株式会社三栄
(向山純平)