数字の「0(ゼロ)」は今や当然のように使われていますが、2500年前までは存在すらしていませんでした。
「何もない無」という状態が発見されていなかったからです。
いったい「無(ゼロ)」という数はいつ、どこで発見され、どうやって数学的な意味をもつようになったのでしょうか?
目次
- 世界最初のゼロはいつ、どこで生まれた?
- 数字としての力をもったゼロ
世界最初のゼロはいつ、どこで生まれた?
ゼロの歴史は、人と数字の格闘の歴史です。
しかもそれは、2つのゼロに出会うまでの物語でした。
つまり、何もないことを示す「記号としてのゼロ」と、計算に使える数学的特性をもった「数字としてのゼロ」です。
最初に現れたのは、記号としてのゼロでした。
バビロニア人が生んだ「記号のゼロ」
年が明けて2021年に突入しましたが、この「2021」に入っている0は、まさしく「記号としてのゼロ」です。
この0は、百の位に数字がない(空位)ことを示しており、これがなければ、2021年を221年とまちがえてしまいます。
こうした表記は「位取り記数法」と呼ばれ、BC1800年頃にバビロニア人が、季節と年数の経過を計算するために開発しました。
バビロニア人は最初、ゼロを示す方法としてただの空白を置いたのですが、そうすると「101」が「11」になるような混乱が起きがちでした。
そこで、「︎︎」のような2本の斜線記号で空位を表したのです。
これが世界で最初のゼロでした。
しかし、バビロニア人は記号のゼロを発見しても、その数学的な有用性には気づかなかったのです。
それでは、数字のゼロはどのように誕生したのでしょうか?
数字としての力をもったゼロ
ゼロを拒否したギリシャ、ゼロを受け入れた東洋
バビロニアで生まれたゼロは、その後ギリシャに届きました。
ギリシャ人は、ゼロ記号にギリシャ文字の「Ο(オミクロン)」を当てましたが、これがアラビア数字の「0」に似ているのは偶然であり、0の起源ではありません。
また、ギリシャ人はゼロという概念に否定的でした。
彼らにとって、数字は幾何学的な図形を表すためのものであり、「そこにないもの(ゼロ)」という図形は認められなかったのです。
世界観も独特で、「すべては地球を中心に動き、宇宙には虚空や真空が存在する余地はない」とされたため、「ゼロは無神論だ!」と非難されました。
ところが、東洋世界では「創造と破壊が永遠に繰り返される」という思想が根底にあったため、ゼロはすんなり受け入れられたのです。
インドで生まれた「数字のゼロ」
ゼロは、628年頃のインドで大きなターニングポイントをむかえます。
それは、天文学者のブラフマグプタが数学と物理について書いた本の中でした。
ブラフマグプタは、数字を物理や幾何学のような具体的なものと切り離し、抽象的な量としてあつかった最初の人物です。
そして、数字が抽象的な存在になるや、たちまち数学の新たな扉が開かれました。
負の数の世界です。
これにより、数字は正と負の両方向に好きなだけ並べられる、という数列の考えが出現しました。
そして、数列の真ん中、正と負の境界にあるのが「ゼロ」です。
こうして、彼は「正の数にゼロを足すと正、負の数にゼロを足すと負、ある数にゼロをかけるとゼロになる」といった、ゼロの加減乗除のルールの発見に成功しました。
ゼロの偉人たち
その後、ペルシャのアル=フワーリズミー(780〜850)が、ゼロを示す記号として「0」を正式に導入。
0は新たな数字として1〜9の仲間入りを果たしました。
ここから、0はあらゆる偉人たちの手によって数学的に進化していきます。
イタリアの数学者フィボナッチは1202年、0が桁の多い複雑な数の計算をするのに優れていることを明らかにしました。
フランスの哲学者ルネ・デカルトは17世紀、2つの数字を使って、空間内の位置を点で、数式を線で表す座標系を発明しました。その平面の中心点は(0、0)です。
ドイツのライプニッツ(1646〜1716)は、1と0を使う「二進法」を開発。これがコンピューターの基礎になります。
また、イギリスのニュートン(1642〜1727)は、微分・積分に0を用いて、運動と変化を理解できるようにしました。
それから、フランスのラグランジュ(1736〜1813)は、近くにある2つの天体が、互いに引力を打ち消しあって、差し引きゼロになる空間内での位置を計算しました。
これは、ラグランジュ点と呼ばれ衛星を打ち上げて安定した軌道に乗せるために使われています。
このように数学や科学は、ゼロの理解によって大きく進歩しているのです。
※この記事は、2021年1月に公開したものを再掲載しています。
参考文献
『NewScientist 起源図鑑』
https://www.amazon.co.jp/New-Scientist-%E8%B5%B7%E6%BA%90%E5%9B%B3%E9%91%91-%E3%83%93%E3%83%83%E3%82%B0%E3%83%90%E3%83%B3%E3%81%8B%E3%82%89%E3%81%B8%E3%81%9D%E3%81%AE%E3%82%B4%E3%83%9E%E3%81%BE%E3%81%A7%E3%80%81%E3%81%BB%E3%81%A8%E3%82%93%E3%81%A9%E3%81%82%E3%82%89%E3%82%86%E3%82%8B%E3%81%93%E3%81%A8%E3%81%AE%E6%AD%B4%E5%8F%B2-%E3%82%B0%E3%83%AC%E3%82%A2%E3%83%A0%E3%83%BB%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%B3/dp/4799322079
ライター
大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
編集者
やまがしゅんいち: 高等学校での理科教員を経て、現職に就く。ナゾロジーにて「身近な科学」をテーマにディレクションを行っています。アニメ・ゲームなどのインドア系と、登山・サイクリングなどのアウトドア系の趣味を両方嗜むお天気屋。乗り物やワクワクするガジェットも大好き。専門は化学。将来の夢はマッドサイエンティスト……?