任天堂の『スーパーマリオブラザーズ』や『ヨッシー』のゲームをプレイしたことのある人は多いでしょう。
色鮮やかな世界を駆け回り、軽快な音楽に包まれながら、自然と気分が晴れていくような時間を味わった経験がある人も少なくないはずです。
実はそのワクワクした感覚が、若者の「燃え尽き」を遠ざけることと関係しているかもしれません。
イギリスのインペリアル・カレッジ・ロンドン(ICL)の研究チームによるこの研究では、スーパーマリオやヨッシーといった任天堂のゲームが呼び起こす「子どもらしい驚き」が若年成人の幸福感を高め、その幸福感の高さが燃え尽きリスクの低さと結びつく可能性が検討されています。
詳細は、2025年12月19日付で『JMIR Serious Games』に掲載されました。
目次
- 『マリオ』と『ヨッシー』のゲームは、若者の心に”子どもらしい驚き”を呼び起こす
- 『マリオ』をプレイ → 子どもらしい驚き → 幸福感向上 →燃え尽きリスク低下
『マリオ』と『ヨッシー』のゲームは、若者の心に”子どもらしい驚き”を呼び起こす
この研究の背景には、現代の若年成人が置かれている厳しい社会状況があります。
大学生から20代前半にかけての時期は、心理学では成人期への移行期と考えられており、進路選択や経済的不安、人間関係の変化といった課題が一気に押し寄せる時期です。
この時期には、学業や就職をめぐる競争、将来への不確実性、生活費の高騰などが重なり、慢性的なストレスを抱えやすいことが知られています。
さらに、スマートフォンやSNSの普及によって、他人との比較や常時接続のプレッシャーが強まり、「常に頑張り続けなければならない」という感覚が若者の心を追い詰めています。
研究チームは、こうした状況の中で生じる燃え尽きを、単なる努力不足や気力の問題としてではなく、心が休まる余地を失っている状態として捉えました。
そこで注目されたのが、「子どもらしい驚き(childlike wonder)」です。
この言葉は、幼稚になることを意味するものではありません。
研究で指しているのは、日常の中にある小さな出来事や細部に面白さや美しさを感じ、役に立つかどうかとは関係なく、純粋な好奇心で世界を眺める感覚です。
大人になるにつれて失われがちなこの感覚が、心の柔軟性や回復力と関係しているのではないかと研究チームは考えました。
では、どんな方法で、「子どもらしい驚き」を取り戻せるでしょうか。
研究チームは昔から愛されている任天堂のゲームに着目しました。
スーパーマリオやヨッシーのゲームは、明るい色彩や親しみやすい音楽、失敗しても深刻な結果にならない設計を備えています。
そのため、プレイヤーの心を評価や競争から一時的に解放し、子どもらしい驚きを自然に呼び起こすのではないかと仮説が立てられました。
そして実際に調査を行った結果、これらのゲームを通して子どもらしい驚きを感じやすい人ほど、人生全体に対する幸福感が高い傾向がみられました。
そして幸福感が高い人ほど、燃え尽きのリスクが低い傾向が示されました。
この結論がどのような調査によって導かれたのか、次項で詳しく見ていきましょう。
『マリオ』をプレイ → 子どもらしい驚き → 幸福感向上 →燃え尽きリスク低下
まず研究チームは、41人の大学生を対象に、詳細なインタビュー調査を行いました。
この調査の目的は、ゲームをプレイしているときにどのような感情や感覚が生じているのかを、数値ではなく言葉として丁寧に聞き取ることでした。
参加者の学生たちは、ゲームの色使いや音楽が安心感を与えてくれることや、雲の動きや背景の細かな演出に自然と目が向くことを語りました。
また、目標が明確で達成可能なため、失敗しても自分を強く責めずに済む点が、日常生活との大きな違いとして挙げられました。
中には、ゲーム体験を「温かい毛布に包まれているようだ」と表現する学生もおり、マリオやヨッシーの世界が心理的に安全な空間として機能していることがうかがえます。
次に研究チームは、336人の大学生を対象にアンケート調査を実施しました。
この調査では、ゲーム中に感じる子どもらしい驚きの程度、人生全体に対する幸福感、そして疲労感や冷めた感覚、無力感といった燃え尽きの兆候が測定されました。
統計分析の結果、ゲームによって子どもらしい驚きを強く感じる人ほど、人生全体を幸福だと感じている傾向が確認されました。
さらに、幸福感が高い人ほど、燃え尽きのリスクが低いことも明らかになりました。
ここで重要なのは、幸福感が部分的にではなく、燃え尽きリスクとの関係を説明する中心的な役割を担っていた点です。
つまり、子どもらしい驚きがそのまま燃え尽きを下げるというよりも、まず幸福感が高まり、その幸福感の高さと燃え尽きリスクの低さが結びついている形が示されたのです。
もちろん、この研究は「遊べば必ず燃え尽きが防げる」といった因果を断定するものではありません。
研究者たちは、スーパーマリオやヨッシーのゲームを、心を治療する特効薬のように捉えてはいません。
また、長時間プレイすればよいとか、社会的な問題を解決できると主張しているわけでもありません。
あくまで、適度で自発的な遊びが、忙しさや不安で硬くなった心を一時的にほぐし、幸福感を回復させる可能性を示したものです。
それでもこの研究は、長く愛されてきたスーパーマリオやヨッシーのゲームに、予想以上の温かな効果があることを示しています。
これらは単なる懐かしい娯楽ではなく、日常の中で、若者が「ふと感じるワクワク感」と「心の余白」を取り戻すきっかけになり得る存在なのです。
参考文献
Playing Super Mario Bros. and Yoshi games may reduce burnout risk in young adults, stud finds
https://www.psypost.org/playing-super-mario-bros-and-yoshi-games-may-reduce-burnout-risk-in-young-adults-stud-finds/
Super Mario Bros. help fight burnout: Study links classic games to boosted happiness
https://phys.org/news/2025-12-super-mario-bros-burnout-links.html
元論文
Super Mario Bros. and Yoshi Games’ Affordance of Childlike Wonder and Reduced Burnout Risk in Young Adults: In-Depth Mixed Methods Cross-Sectional Study
https://doi.org/10.2196/84219
ライター
矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。
編集者
ナゾロジー 編集部
