朝の目覚めにコーヒーを飲む人は多いでしょう。
舌がその苦味を感じ、スッキリとした気分にさせてくれるかもしれません。
しかし実は、苦みを感じるセンサーを持っているのは舌だけではありません。
岡山理科大学生命科学部の研究チームは、舌と同じ「苦味受容体」が皮膚の角化細胞にも存在し、有害物質を検知し、排出する仕組みを持つことを世界で初めて明らかにしました。
皮膚は苦味を「味わう」わけではありませんが、外部からの脅威に対する防御機能として、この受容体が重要な役割を果たしているのです。
研究の詳細は、2024年8月27日付の科学誌『FASEB BioAdvances』に掲載されました。
目次
- 皮膚にも舌と同じ「苦味受容体」が存在する
- 皮膚の苦味受容体を活性化させて有害物質を排出する
皮膚にも舌と同じ「苦味受容体」が存在する

私たちは口にしたものが苦いと感じると、本能的に「これは危険かもしれない」と判断します。
苦みは毒を回避するための重要なシグナルとして機能するのです。
しかし、毒物は食べ物だけに含まれているわけではありません。
環境中の化学物質や汚染物質は、皮膚を通じても体内に入り込む可能性があります。
では、皮膚はどのようにしてこれらの脅威から身を守っているのでしょうか。
岡山理科大学の研究チームは、この疑問に答えるために皮膚の「角化細胞」に注目しました。
角化細胞は表皮の90%を占め、体の最前線で外的刺激から守る役割を果たしています。

そして私たちが舌に持つのと同じ「苦味受容体」を角化細胞に配置することで、体内に侵入した有害物質から体を守ります。
今回、研究チームは、角化細胞内部の小胞体に存在する苦味受容体が、どのように有害物質を検知し、排出するかを調査しました。
その結果、皮膚の苦味受容体は、角化細胞内部に侵入した有害物質を感知することで活性化され、「排出ポンプ」のスイッチをオンにすることで、有害物質を細胞外に排除すると分かりました。
皮膚の苦味受容体を活性化させて有害物質を排出する
この発見は、生理学的な興味を満たすだけでなく、スキンケアや医療の分野にも応用できる可能性があります。
例えば、苦味受容体を活性化する塗り薬が開発されれば、皮膚に付着した有害物質を効率的に排出し、炎症や皮膚障害を防ぐ助けとなるかもしれません。
特に、環境汚染やアレルギー物質にさらされやすい人にとって、この技術は有望なスキンケアアプローチとなるでしょう。

ただし、苦味受容体はすべての有害物質に対して反応するわけではありません。
一部の化学物質はこのシステムを回避して細胞に蓄積するため、さらなる研究が必要だといいます。
もし、これら「苦味受容体に反応しない化学物質」に対しても、人為的に苦味受容体を反応させることができるなら、蓄積された有害物質を排出できるかもしれません。
また、過去の研究では、苦味受容体が舌だけでなく、気道や腸にも存在し、それぞれの環境で異なる役割を果たしていることが示唆されています。
本研究はその知見をさらに広げ、皮膚における新たな機能を明らかにしました。
私たちは舌だけでなく、体全体で苦味を感じ、有害物質から身を守っているのです。
参考文献
「舌」と同じ苦味受容体が「皮膚」にも存在することを発見 世界で初めて 有害物質の感知・排出に重要な働き(PDF)
https://www.ous.ac.jp/common/files/202409051503170179876.pdf
元論文
Intracellular TAS2Rs act as a gatekeeper for the excretion of harmful substances via ABCB1 in keratinocytes
https://doi.org/10.1096/fba.2024-00074
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
ナゾロジー 編集部