「ウエイトサイクリング」という言葉、知っていますか?
ウエイトサイクリングとは、体重の増減を繰り返すことを指し、ヨーヨーの上下運動になぞえて「ヨーヨーダイエット」とも呼ばれます。
ウエイトサイクリングを経験すると、次にダイエットを試みる際には、体が痩せにくくなっていると言われることがあります。
実際、リバウンドを経験し、再度ダイエットを試みようとしている人たちの中には、「以前よりも筋肉量が減っているため、痩せにくくなっている」などと周囲から言われて、出鼻をくじかれた人もいるのではないでしょうか?
しかし、今年発表されたデンマーク・コペンハーゲン大学(University of Copenhagen)のファイドン・マグコス教授ら研究結果を見ると、必ずしもそういったデメリットはないようです。
この研究成果は、『Current Obesity Reports』に2024年1月3日付けで公開されています。
目次
- ウエイトサイクリングに関する一般論とエビデンス
- 一度痩せた後に、どうすれば維持できるのか?
ウエイトサイクリングに関する一般論とエビデンス
ウエイトサイクリング、ヨーヨーダイエットは、体重の増減を繰り返すことを言います。
極端な食事制限によって一時的に体重が減ったものの、その後に食べ過ぎてしまい、リバウンドをしてしまうのは典型的なウエイトサイクリングの例です。
ウエイトサイクリングに陥ると、一度飢餓モードを経験しているので、体が脂肪を蓄えやすくなったり、筋肉量が落ちたりするので、痩せにくくなり、長期的に見ると、ダイエットに悪影響という考え方はよく知られています。
ただ、この一般論は必ずしも正しいわけではないようです。
マグコス教授らは、このテーマを直接調べた既存の23の研究結果を集めた上で、ウエイトサイクリングが体重、体脂肪率、身体組成、安静時代謝に及ぼす影響を分析しました。
その結果、ウエイトサイクリング未経験者と比較しても、ウエイトサイクリングの悪影響を否定する研究の方が多いことが分かりました。
具体的には、体重増加を否定したエビデンスが81%、除脂肪量低下を否定したエビデンスが100%、安静時代謝の低下を否定したエビデンスが72%を占めていました。
これらの結果をもとに、マグコス教授らは、「体重の増減を繰り返すことが体重、体組成、エネルギー消費に対して悪影響を及ぼさないという証拠が示されているため、過体重や肥満に悩む人々は、体重減少の努力を諦めるべきではありません」とまとめています。
したがって、ウエイトサイクリングを経験した人であっても、次のダイエットに不利になるという心配を過度に持つ必要はないでしょう。
では、体重や身体組成、代謝に悪影響がなかったとしても、病気のリスクなど、他の健康面についてはどうなのでしょうか?
ウエイトサイクリングが病気のリスクに与える影響については、色々な結果が出ていて、その種類によっても振る舞いが変わるようです。
例えば、ウエイトサイクリングが糖尿病の発症リスクに及ぼす影響を調べた2020年のメタ分析によると、25万人以上のデータをもとに分析した結果、ウエイトサイクリングの経験を持つ人は糖尿病のリスクが23%高いことが報告されています。
一方で、癌、特に膵臓がんや大腸がんのリスクについては、ウエイトサイクリングの悪影響を否定するエビデンスが存在しています。
このようなエビデンスを積み重ねた上で、今年発表されたレビューでは、ウエイトサイクリングを経験すると、脂肪組織が変化したり(腹部など身体の中心に脂肪が蓄積しやすくなる)、脂肪組織にマクロファージが浸潤し、炎症を引き起こす物質が増加したりすることが指摘されています。
ただし、これらのメカニズムを追求した研究の多くは動物実験に基づくものであり、現在のところ人間に対する確固たるエビデンスは不十分なようです。
さて、ウエイトサイクリングの経験が今後のダイエットに悪影響を与えないとしても、病気のリスクが高まる可能性は否定できませんし、そもそも何度もダイエットをするのは大変なことに変わりはありません。
それでは、一度ダイエットに成功した後、どうすればリバウンドを避けられるのでしょうか?
一度痩せた後に、どうすれば維持できるのか?
一度ダイエットに成功した後、どうすればリバウンドを避けられるのかに答える興味深い報告として、最低でも5kgの減量に成功し、その後1年以上体重を維持している成人が登録するポルトガルの体重管理登録簿の登録者を対象とした研究があります。
この研究では、「あなたは週末に平日と同じ食事を維持しますか?」という質問への回答をもとに、週末と平日の食事制限の厳しさとリバウンド状況との関係を調査しています。
その結果、意外なことに、平日に比べて週末の食事制限を緩めている人たちの方が、体重を維持している傾向があることがわかりました。
なぜこのような結果が得られたのかというと、週末に食事制限を緩めることで心理的な負担が軽減され、長期的にメリットをもたらした可能性があります。
つまり、一度痩せるためには、ある程度厳しい食事制限を設けることが効果的である一方、それを数年にわたり続けようとすると、かえってストレスになり、リバウンドにつながる恐れがあります。
また、痩せるためには摂取カロリーを消費カロリーよりも抑える必要がありますが、体重を維持するためには両者が均衡していれば十分です。
そのため、平日はある程度の節制を行った上であれば、週末に食事を緩めても、リバウンドはしにくいと考えられます。
ということで、ウエイトサイクリングの経験者で今後ダイエットを計画している方は、次回は痩せた後に平日と週末の食事にメリハリをつけることを意識してみてはいかがでしょうか?
参考文献
Yoyo dieting alters gut health, driving weight regain and inflammation
https://www.news-medical.net/news/20240923/Yoyo-dieting-alters-gut-health-driving-weight-regain-and-inflammation.aspx
元論文
The Physiological Effects of Weight-Cycling: A Review of Current Evidence
https://doi.org/10.1007/s13679-023-00539-8
The Impact of Weight Cycling on Health and Obesity
https://doi.org/10.3390/metabo14060344
Does diet strictness level during weekends and holiday periods influence 1-year follow-up weight loss maintenance? Evidence from the Portuguese Weight Control Registry
https://doi.org/10.1186/s12937-019-0430-x
ライター
髙山史徳: 大学では健康行動科学、大学院では体育学・体育科学を専攻。持久系スポーツの研究者として約10年間活動。 ナゾロジーでは、スポーツや健康に関係する記事を執筆していきます。 価値観の多様性を重視し、多くの人が前向きになれる文章を目指しています。
編集者
ナゾロジー 編集部