オンライン百科事典「ウィキペディア(Wikipedia)」は今や、世界中で高い人気を誇るウェブサイトの一つです。
ありとあらゆる分野を網羅しており、「ちょっとした調べ物をするときは決まってウィキペディアを使う」という人はかなり多いでしょう。
そんな中、米ペンシルベニア大学(University of Pennsylvania)の最新研究で、ウィキペディアを使う人は主に3つのタイプに分けられることが明らかになりました。
研究者が提唱するのその3タイプを、「ビジーボディ」、「ハンター」、「ダンサー」と名付けています。
これはそれぞれどのようなタイプで、皆さんはどのタイプに当てはまるでしょうか?
研究の詳細は2024年10月25日付で科学雑誌『Science Advances』に掲載されています。
目次
- ウィキペディアの閲覧スタイル:「ビジーボディ」と「ハンター」
- 新たな3つ目の「ダンサー」とは?
ウィキペディアの閲覧スタイル:「ビジーボディ」と「ハンター」
研究チームは世界50の国と地域(全部で14言語)における48万2760名のウィキペディアユーザーを対象に、ウィキペディアの閲覧データを収集しました。
調査は2022年3月と10月に実施され、被験者がどのような目的でウィキペディアを使っているかを調べています。
同チームは2020年にも同様の調査を行っていますが、その際は149名という限られた英語話者のみを対象としていました。
今回は被験者数や国、使用言語において、それとは比べ物にならないほどの大規模調査となっています。
そして収集されたデータを分析した結果、ウィキペディアユーザーの閲覧スタイルは大きく3つに分けられることが示されました。
まず1つ目のスタイルは「ビジーボディ(Busybody)」です。
ビジーボディとは、英語で「詮索好き」とか「何でも首をつっこむ好奇心旺盛な人」を意味する言葉で、ウィキペディアの閲覧においては、気になったトピックの関連項目を幅広く調べるスタイルを指します。
このタイプは例えば、「ブラックホール」について調べていたのに、この話題から望遠鏡の歴史に興味が移り、最初に望遠鏡を作った天文学者のエピソードから、今度は地動説や当時の宗教問題へと興味が移っていってしまうなど、解説中に出てきた付属的な情報が気になってもともと調べていたこととはあまり関係ないトピックにどんどん関心が移ってしまいます。
ビジーボディはとにかく気になったことを次々に調べるためにウィキペディアを使う情報散策スタイルといえるでしょう。
続く2つ目は「ハンター(Hunter)」です。
ハンターはビジーボディとは対照的に、確固とした目的に沿ってピンポイントに調べたい事柄を狙い撃ちするスタイルを指します。
ビジーボディは、関連のある幅広いトピックを次々と調べるスタイルでしたが、ハンターは自分が抱えている知識のギャップを埋めるために意識して特定の情報だけを収集をします。
このタイプは例えば、「ブラックホール」とは何かを調べると、次にその理論を支える「相対性理論」を調べ、次に相対性理論と深く関わる「重力場」や「アインシュタイン」など、理解するために重要な関連性のある事柄を数珠つなぎで調べていきます。
ビジーボディと似たように見えますが実際は1つの事柄の理解のために新たなトピックを検索しており、調べ方に一貫性があります。
一方で、ビジーボディとハンターは前回の調査でも十分に明らかになっていたウィキペディアの閲覧スタイルでした。
しかし今回最も重要な発見となったのは、3つ目のスタイルである「ダンサー(Dancer)」が確認されたことです。
新たな3つ目の「ダンサー」とは?
ダンサーは先行研究で予想こそされていたものの、被験者数が少な過ぎたせいで、その存在を確かめることはできていませんでした。
では、ダンサーとは具体的にどのようなタイプを指すのでしょうか?
研究主任の一人であるペリー・ザーン(Perry Zurn)氏の言葉を借りると「ダンサーはあらゆる分野のトピックの間を創造性を持って移動する人」だといいます。
少しわかりにくいので、もっと噛み砕いて説明してみましょう。
ダンサーは一見すると、ビジーボディと似て、異なる分野を自由に移動して調べているように見えます。
ところがダンサータイプは独自の視点で、トピック間の繋がりを見つけて、直感的で跳躍的に検索項目を見出しています。
このタイプは例えば「ブラックホール」から「魔王・悪魔」、さらに「超能力」など、自身の創造性に従って直接は関係しないトピックへ自由に移動するような閲覧を行います。
ザーン氏はダンサーについて「彼らは決してトピック間をランダムにジャンプしているのではなく、新しい何かを作るために異なる分野を創造的に接続しているのです」と話しました。
閲覧タイプは「文化圏の違い」によって傾向がある
また興味深いことに、ウィキペディアの閲覧スタイルには、文化圏によって一定の傾向が見られることもわかりました。
具体的には、教育やジェンダーの点で不平等が大きい国では、より焦点を絞った調べ物をするハンタースタイルが多く見られ、反対に、教育水準が高く、男女平等が行き届いている国では、あらゆる分野を自由に行き来するビジーボディが多く見られたというのです。
これについて研究者らは正確な答えを見つけていませんが、次のような仮説を立てています。
それによると、教育水準が低く、男女平等の格差が大きい国では伝統的な価値観が根強く、学業や職業選択が狭い範囲に限定され、それが多くの人々の情報収集の仕方を制約している可能性が高いというものです。
こうした文化圏では、個々人が趣味や旅行など、いろいろな分野に興味関心を向ける余裕がないために、ウィキペディアの閲覧もハンター的なスタイルに近づいているのかもしれません。
対照的に、教育水準が高く、男女平等が行き届いた国では、個々人の学業や職業、趣味や娯楽の選択肢が多様に開かれているため、いろいろなトピックに興味を持ち、自由に調べるビジーボディが多くなりやすいと研究者たちは考えています。
もちろん研究者が述べているような傾向以外にも、もしかしたら日本では、「薬になる植物」から「中国の王朝」や「宦官」に興味が移る人がたくさんいてダンサーが多いと判定されることもあるかもしれないので、その国のそのときの流行りや文化によって、スタイルが左右される可能性もあるかもしれません。
いずれにせよこの研究の結果は、ウィキペディアの閲覧を通して、人々にはさまざまな好奇心のスタイルがあることを指し示したものであり、どのスタイルが優れていて、どのスタイルが劣っているというような話ではありません。
ここで得られた知見は、人々の関心の持ち方、引いては教育分野における児童や学生、研修生たちの個性に合わせた最適な学習スタイルを提案するために役立つと考えられています。
例えば、ビジーボディの人はあらゆる分野に興味が向きやすいので、1つの専門分野に凝り固まった授業よりも、分野間をまたいで様々な例え話や雑学を混じえた授業によってより成績が良くなるかもしれません。
反対に、ハンターの人は例え話や雑学を挟まれると「話がアッチコッチいってよく分からん…」となる可能性があるので、少し硬めでも、一本筋の通った授業の方が性に合うかもしれません。
実際、自分の場合は学校でこうやって教えてもらえればもっと成績が伸びたかもしれないのに、と感じる人は多いでしょう。
このように、個々人の好奇心のスタイルを知ることは学習効率を向上させ、教育の現場で学生たちが自分に合わせて学ぶための方法を議論する際にも役立つと期待されています。
参考文献
There Are 3 Different Kinds of Wikipedia User. Which Are You?
https://www.sciencealert.com/there-are-3-different-kinds-of-wikipedia-user-which-are-you
How Curiosity Styles Shape Wikipedia Use and Learning
https://neurosciencenews.com/curiosity-wiki-learning-neuroscience-27949/
元論文
Architectural styles of curiosity in global Wikipedia mobile app readership
https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.adn3268
ライター
大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
編集者
ナゾロジー 編集部