喫煙が習慣化すると、体に悪いと分かっていても、なかなかやめることができません。
「タバコを吸い始めて10年、20年」という人もいれば、「50年吸い続けてきた」という人もいることでしょう。
では、長年喫煙を続けてきた人にとって、禁煙はもう意味のないことなのでしょうか。
アメリカのミシガン大学(University of Michigan)に所属するトウィ・レ氏ら研究チームは、喫煙が寿命に与える影響を35~75歳の人を対象に計測しました。
その結果、35歳で禁煙すれば8年寿命が延びると分かりました。
では、75歳で禁煙すると寿命はどれくらい延びるのでしょうか?
研究の詳細は、2024年6月25日付の学術誌『American Journal of Preventive Medicine』に掲載されました。
目次
- 「いつ禁煙すべき?」禁煙がもたらす効果を年齢別に分析
- 「何歳になっても禁煙するメリットはある」と判明
「いつ禁煙すべき?」禁煙がもたらす効果を年齢別に分析
タバコの煙には4000種類以上もの化学物質が含まれており、そのうち200種類以上は有害物質だとされています。
ニコチン、一酸化炭素、タールなどは、有毒物質の代表的な例です。
そしてこれらが、体内のほぼ全ての臓器に害を及ぼします。
そのため喫煙は、がん、脳卒中、心臓病、肺疾患と関連しています。
実際アメリカでは喫煙に関連する死亡者数が年間48万人以上にものぼると推定されています。
しかし、これら喫煙による早期の死亡は、「予防可能」であり、それゆえ多くの人々が禁煙することを勧めています。
そして喫煙に関する現状に関して、トウィ・レ氏は次のように述べています。
「過去10年間で、若年成人の喫煙率は著しく低下しました。
しかし、高齢者の喫煙率は停滞したままです。
そして私が知る限り、禁煙が高齢者にもたらすメリットを立証した研究はありませんでした」
確かに何十年も喫煙を続けている人にとって、タバコを吸うことは離れがたい日常生活の1つであり、強い動機付けがなければ禁煙には結び付きません。
喫煙を続ける多くの高齢者は、「今更禁煙したところでどうなるのだろうか。残りの短い人生を喫煙と共に楽しんだ方が良い」とさえ考えるかもしれません。
そこで今回、トウィ・レ氏ら研究チームは、がん予防の研究「Cancer Prevention Study II」、アメリカ国民健康インタビュー調査「National Health Interview Survey」における喫煙データ、アメリカの年齢別死亡率「United States life tables」などを用い、禁煙がもたらす影響を年齢ごとに調べました。
それぞれのデータは、イレギュラーな新型コロナウイルスの影響を排除するため、2018年のものが用いられました。
そして、35歳、45歳、55歳、65歳、75歳のそれぞれの年齢まで喫煙していた人が失う寿命や、禁煙によって延びる余命の程度を明らかにしました。
その結果、35歳で禁煙すると、平均で8年寿命が延びると分かりました。
では、75歳で禁煙するとどうなるのでしょうか。
「何歳になっても禁煙するメリットはある」と判明
まず、「タバコを吸い続けた人」と「全く吸ってこなかった人」の違いを比較してみましょう。
研究の結果、成人になってから、35歳、45歳、55歳、65歳、75歳まで喫煙を続けていた人は、喫煙しないままその年齢まで過ごしてきた人と比べて、余命がそれぞれ、9.1年、8.3年、7.3年、5.9年、4.4年少ないと分かりました。
35歳の時点で、喫煙してきた人と喫煙してこなかった人では、余命に大きな差が生じることが分かります。
そして当然ですが、その後も喫煙を続ける人は死亡率が高くなり、実際に多くの人が亡くなります。
一部の喫煙者は65歳、75歳まで生きますが、やはりその時点で喫煙したことがない同性代の人と比べると、余命には4~6年ほどの差が生じます。
これらの結果は、「タバコを吸い続けた人」と「全く吸ってこなかった人」では、残された寿命に大きな違いが出ることを示しています。
では、既にタバコを吸い続けてきた人は、現時点で禁煙することで、余命に何らかの影響を与えることができるのでしょうか。
研究の結果、35歳、45歳、55歳、65歳、75歳まで喫煙してきた人が、その時点で禁煙すると、平均して8.0年、5.6年、3.4年、1.7年、0.7年の余命の損失を回避できると分かりました。
これまで喫煙してきた人は、喫煙してこなかった人と同じ健康状態にはなれません。
しかし、禁煙することは無駄ではなく、できるだけ早くやめることで、そのままでは失われてしまう寿命を守ることができます。
35歳や45歳でタバコをやめれば、寿命が5~8年も伸びるという事実は、働き盛りの人々が禁煙するための強い動機付けとなります。
では、65歳や75歳で禁煙する人が、半年~2年ほどしか寿命が延びないのであれば、「やめる意味はほとんどない」と考えるべきでしょうか。
そうでもありません。
研究結果によると、65歳で禁煙した人の約10%が、やめなかった人と比べて、8年寿命を延ばしていることが分かったからです。
そして75歳で禁煙した人の8%が、やめなかった人と比べて、4年寿命を延ばしていたのです。
こうした数字は、長年喫煙を続けてきた65歳や75歳の愛煙家やその家族にとって、希望となるはずです。
たとえ「今更やめたところで」と感じたとしても、そこからできるだけ早く禁煙することで、余命が何年も延びる可能性があるのです。
何歳であったとしても禁煙にはメリットがあります。
参考文献
Quit smoking at 35 for 8 years more life – but what if you’re 75?
https://newatlas.com/health-wellbeing/quitting-smoking-life-expectancy-all-ages/
Attention Seniors! It’s Never Too Late to Stop Smoking
https://www.elsevier.com/about/press-releases/attention-seniors-its-never-too-late-to-stop-smoking
元論文
The Benefits of Quitting Smoking at Different Ages
https://doi.org/10.1016/j.amepre.2024.06.020
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
ナゾロジー 編集部