持久力と筋力は、私たちの生活と深く関わっています。
例えば、持久力があると日常生活で疲れにくくなりますし、筋力が高ければ重いものを持ち上げることや、姿勢を保つのが楽になります。
この2つの機能を高めるために、多くの人は有酸素運動をした後、そのまま筋トレを行うといったように、一度のトレーニングで両方を高めたいと考えるでしょう。
しかし、厄介なことに、同時に両方の運動を行うと、一方の運動の影響によって、もう一方の運動効果が妨げられることがあります。
今回、ドイツ・フリードリヒ・アレクサンダー大学エアランゲン=ニュルンベルク(FAU)に所属する研究者らは、トレーニング直後にプロテインを摂取することが、両方の効果を得るために役立つことを明らかにしました。
この研究成果は、学術雑誌『Nutrients』に8月15日付で公開されています。
目次
- お互いの効果を邪魔する干渉効果とは?
- 有酸素と筋トレを同時にする人たちにオススメする直後のプロテイン
お互いの効果を邪魔する干渉効果とは?
筋力と持久力を高めることは、どちらも健康に役立ちますが、筋力アップには筋トレ、持久力向上には有酸素運動と、それぞれ適したエクササイズがあります。
この際、大抵の人は、有酸素をして、そのまま筋トレを実施するように、1度のトレーニングで両方を済ましたいと考えるでしょう。
実は、1度に両方の運動を実施するトレーニング(同時トレーニング)では、一方の運動がもう一方の運動効果を妨げる可能性があります。
この現象は「干渉効果」と呼ばれていて、特に有酸素運動を行った後に筋トレをすると、筋力の成長が妨げられることがあります。
今回、研究グループは、同時トレーニングを実施しても、持久力や筋力が十分に向上するために、筋タンパク質の合成を高め、筋肉のリカバリーを手助けするプロテインをトレーニング直後に飲むことが役に立つという仮説を立てて、実験を進めました。
実験では、運動習慣のなかった男女(平均年齢27歳)をプロテイン群とプラセボ群に分けました。
この際、プロテイン群は40gのタンパク質が含まれるプロテインを150mlの低脂肪乳で割ってトレーニング直後に飲み、プラセボ群は同じカロリーを含みますが、タンパク質が5gしか含まれない食品を同じように低脂肪乳で割って飲みました。
これは、タンパク質の摂取量とは別に、エネルギー摂取量の差が結果に影響しないようにするためです。
また、すべての参加者は、自分の飲み物がプロテインなのかどうかを知らない状態で摂取し、プラセボ効果(参加者の期待や思い込み等が結果に影響を与えること)を防ぐための配慮もされています。
肝心なトレーニング内容は、1回1時間未満で、はじめに1分間の高強度を行い、その後1分間の低強度で休むというインターバル形式の有酸素運動をエアロバイクで5セット実施します(簡単なウォームアップとクールダウンを含みます)。
その後、上半身2種目(チェストプレス、ラットプルダウン)、体幹2種目(ローワーバック、アブドミナルクランチ)、下半身1種目(レッグプレス)からなる筋トレを各種目3セットずつ行います。
このようなトレーニングを週2回、8週間続けた結果、プロテインを飲むことで、どんなメリットがあったのでしょうか?
有酸素と筋トレを同時にする人たちにオススメする直後のプロテイン
早速結果を見てみると、トレーニング直後にプロテインを飲んだグループでは、上半身、体幹、下半身の筋力がまんべんなく向上しました。
一方、プラセボ群では上半身や体幹の筋力は向上したものの、下半身には変化が見られませんでした。
この結果は、有酸素と筋トレを一度に行う場合、トレーニング直後にプロテインを摂取することが下半身の筋力向上には重要なことを示しています。
研究グループは、トレーニング直後にプロテインを摂取することで、干渉効果を防ぎ、下半身の筋力向上が見られた理由について、次のように考察しています。
まず、プロテインを摂取することで筋肉の修復や成長に必要なアミノ酸が供給され、筋肉の合成が促進される可能性があります。
また、トレーニングによる筋肉の微細な損傷をプロテイン摂取によって早く修復することで、次のトレーニングにより良い状態で臨めます。
さらに、プロテインの摂取は筋肉の成長を助けるホルモンの分泌を促したり、神経機能を改善したりする可能性があり、これらの要素も今回の結果につながったと考えられます。
一方、持久力を示す最大酸素摂取量という指標は、両グループで同じぐらい向上しました。
ノルウェー・ノードランド大学のある研究でも、有酸素運動と筋トレをどっちからするのかに関わらず、持久力向上の効果が得られることが指摘されています。
この結果も踏まえて考えると、マラソン選手のような持久力が高いアスリートは別としても、健康愛好家レベルでは、有酸素から実施しても、筋トレから実施しても、持久力を向上する効果は十分に見込め、干渉効果を受けにくいと言えるでしょう。
まとめると、今回の研究は、1回1時間、週2回のトレーニングで持久力と筋力を同時に向上できることを示しています。
そして、そのトレーニング効果を最大限に得るには、トレーニング直後のプロテイン摂取が役に立ちます。
持久力と筋力を同時に高めたい方は、終わった後のプロテインをご褒美にして、同時トレーニングに挑戦してみてはいかがでしょうか。
参考文献
Protein shake enhances muscle strength in sedentary individuals: Study
https://www.nutraingredients.com/Article/2024/08/20/protein-shake-enhances-muscle-strength-in-sedentary-individuals-study
元論文
Protein Supplementation Increases Adaptations to Low-Volume, Intra-Session Concurrent Training in Untrained Healthy Adults: A Double-Blind, Placebo-Controlled, Randomized Trial
https://doi.org/10.3390/nu16162713
ライター
髙山史徳: 大学では健康行動科学、大学院では体育学・体育科学を専攻。持久系スポーツの研究者として約10年間活動。 ナゾロジーでは、スポーツや健康に関係する記事を執筆していきます。 価値観の多様性を重視し、多くの人が前向きになれる文章を目指しています。
編集者
ナゾロジー 編集部