近年、都会では大雨や洪水による水害が増えてきている実感があるかと思います。
その要因は世界の”都市化”にあるのかもしれません。
米テキサス大学オースティン校(UT Austin)はこのほど、世界各地にある1000以上の都市の降雨量を調べた結果、都市の60%以上は近隣の農村部よりも降雨量が顕著に多くなっていることを発見したのです。
なぜ都会は田舎よりも雨が降りやすくなっていたのでしょうか?
研究の詳細は2024年6月7日付で科学雑誌『PNAS』に掲載されています。
目次
- 都市化で起こる「気温の異変」とは?
- 都会の方が降雨量が多くなる原因とは?
都市化で起こる「気温の異変」とは?
都市化は私たちが暮らす環境に多大なる変化をもたらしています。
よく知られているものの一つが「ヒートアイランド現象」でしょう。
これは都市部の気温が周辺の地域よりも高くなる現象を指します。
気温の分布図を描いてみると、高温域が都市部を中心に「島」のような形に分布することから「ヒートアイランド」と呼ばれるようになりました。
都会が暑くなる要因はアスファルトやコンクリートで街を覆っていることにあります。
農村部に広がる草地や森林、土壌、水田などは水を保持する力(保水力)が高いので、常に水分を蒸発させながら熱を消費しています。
そのおかげで、地表面から大気へ与えられる熱が少なくなり、気温の上昇が抑えられるのです。
対照的に、都会のアスファルトやコンクリートは保水力がない上に熱しやすいので、夏場の日中などは表面温度が50〜60℃にも達します。
加えて、熱を溜め込む性質があるため、日中に蓄えた熱を夜間に大気へ放出し、夜になっても気温が下がりにくくなっているのです。
それから高層ビル群の乱立も大きな問題となっています。
高い建物が高密度で密集していると、天空率(空が見える範囲)が狭くなり、天井で塞がれているような状態になるため、地表面からの熱の放射冷却の力が弱まり、熱がこもりやすくなります。
さらに高層ビル群のせいで風の通りが悪くなるので、地表面に風が届きにくいのです。
また人的活動に伴う大量の自動車やエアコンなどの排熱もヒートアイランド化に繋がっています。
都市化で「ウェットアイランド現象」も起こる?
このように都市化が気温の上昇をもたらすことは十分に知られていましたが、降雨量にどのような影響を与えているかは詳しく解明されていません。
そこで研究チームは都市化が降雨量に与える影響を地球規模で調べてみることにしました。
チームは今回、衛星で集められた降雨量データセットを利用し、2001年から2020年までの世界の1056都市における降雨量を調べ、周辺の農村部と比較することに。
その結果、研究者らも驚いたことに、調査対象となった都市の60%以上が周辺の農村部よりも平均的な降雨量が多くなっていることが判明したのです。
特に気候が高温多湿の都市であるほど、この傾向は強くなっていました。
周辺の農村部に比べて特に降雨量が著しく多くなっていた都市のリストには、テキサス州ヒューストンやフロリダ州のマイアミ都市圏、それからベトナム南部の都市ホーチミン、マレーシアの首都クアラルンプール、ナイジェリアの港湾都市ラゴスなどが挙げられています。
(ちなみに、周辺の農村部よりも平均降雨量が少なかった都市には、ワシントン州のシアトル、日本の京都・大阪・神戸、インドネシアのジャカルタなどがありました)
研究者らも言及しているように、これはまさにヒートアイランド現象ならぬ、「ウェットアイランド現象(wet island effect)」と呼べるものでした。
では、どうして都市部は農村部に比べて、雨が降りやすくなっていたのでしょうか?
都会の方が降雨量が多くなる原因とは?
研究者らは、都会の多くが近隣の田舎よりも降雨量が多くなるのにはいくつかの要因があると話します。
その中でも重要なファクターの一つは「高層ビル群」の存在です。
ヒートアイランド現象の際にも説明したように、高層ビル群は風速を遅らせたり、風が通り抜けるのを妨げます。
すると空気が都心に向かって収束するように留まり、ヒートアイランド現象で暖められることで上空に向かって上昇。
この暖まった空気の上昇が水蒸気の凝結と雲の形成を促し、都市部に多くの降水をもたらしていたのです。
それに加えて、研究者らは人口の多さも都市部の降雨量の増加と相関している証拠を発見しました。
これはおそらく、人口密度が高くなることで、自動車やエアコンなどによる温室効果ガスの排出量が増えるため、空気の加熱が促進されるからだと説明されています。
これらの説明を踏まえると、ヒートアイランド現象に関わっている要因がそのまま「ウェットアイランド現象」にも繋がっていることがわかるでしょう。
この現象について、研究主任のデブ・ニヨギ(Dev Niyogi)氏は「都市上空で大きな水風船を破裂させるようなものだ」と例えています。
暖かい空気は冷たい空気よりも多分に水分を含むことができます。
つまり、都市に留まった暖かい空気の塊はまさに「水風船」のようなものと言えるでしょう。
あとはその空気塊が上空に運ばれて冷えるにつれて、気体が水滴となり、雨となって落ちてくるのです。
都市部の水害を増やさないために
しかもニヨギ氏らによれば、都市部の降雨量の増加は温暖化が進んでいる過去20年間において、より顕著になっていたといいます。
何らの対策もしなければ、世界の都市部では今後もますます大雨や洪水による水害が増え続けることが懸念されるでしょう。
そこでニヨギ氏は「都市部の水害を防ぐためにもグリーンインフラについて考え始めるべきです」と訴えました。
グリーンインフラとは、街路樹や緑道など、より多くの自然を取り入れた都市設計をすることです。
これにより気温の上昇を効果的に抑制しながら、大雨による水害の発生を防ぐことができると考えられています。
参考文献
Most Cities Receive More Rainfall Than Surrounding Rural Areas, Global Study Shows
https://www.jsg.utexas.edu/news/2024/09/most-cities-receive-more-rainfall-than-surrounding-rural-areas-global-study-shows
元論文
Global scale assessment of urban precipitation anomalies
https://doi.org/10.1073/pnas.2311496121
ライター
大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
編集者
ナゾロジー 編集部