「名前にその人の本当の姿が表れている」という意味を指して「名は体を表す」といいますが、これは本当かもしれません。
イスラエル・ライヒマン大学(Reichman University)はこのほど、人の顔は自分の名前に合うように成長する傾向があるという驚きの研究結果を発表しました。
参加者に画像中の人物の名前を当ててもらうタスクをしたところ、子供の名前は当たらなかったものの、大人の名前は偶然を上回る有意な確率で当てられたという。
これは私たちが子供から大人になるにつれて、自分の名前に合うような顔に成長することを示唆するものです。
研究の詳細は2024年6月11日付で科学雑誌『PNAS』に掲載されました。
目次
- 顔は名前に合うように変化する⁈
- 「思い込み」が顔を変える
顔は名前に合うように変化する⁈
私たちの名前は、人生の最も早い段階で付けられる社会的なタグです。
研究者たちはこれまで、名前についてある疑問を抱いていました。
それは「名前が赤ちゃんの外見にふさわしいものを基準に選ばれているのか」、それとも「何年もかけて、その人の外見が名前に合うように変化するのか」というものです。
これを明らかにすべく、研究チームは9〜10歳の子供と成人した大人に参加者として協力してもらいました。
実験では、子供と大人の顔写真をランダムに提示し、その下に記載されている4つの名前から「どれがこの人物の本当の名前であるか?」を選んでもらいます。
その画像のイメージサンプルは以下のようなものです。(実際の名前はおそらく個人情報保護のため明かされていません)
実験の結果、子供と大人の参加者は両方とも、大人の顔写真とそれに対応する本当の名前を偶然のレベルを大幅に超えて正確に一致させることができたのです。
しかし一方で、子供の顔写真については、どの参加者も本当の名前を正確に当てる確率が低くなっていました。
このことから私たちの顔は幼少期にはまだ自身の名前と一致していないものの、大人になるにつれて名前に合うような顔に成長する可能性があると示唆されました。
さらにチームはこの発見を裏付けるために、機械学習システムに大量の顔画像データを与えて、同じ名前を持つ人々の顔の類似点や相違点を分析させることに。
すると非常に興味深いことに、同じ名前を持つ大人の顔は異なる名前を持つ大人の顔に比べて、互いに似ている部分が多いと判断されたのです。
逆に子供の場合は同じ名前であっても、顔の有意な類似性は低いレベルに留まっていたといいます。
どうやら本当に私たちの顔は成長するにつれて、自分の名前に合うような顔立ちになるようです。
しかしどうしてこんな不思議なことが起こるのでしょうか?
「思い込み」が顔を変える
「大人になるにつれて顔が名前に合うように成長する」
この不可思議な現象のメカニズムを説明するのはとても難しい問題です。
しかし研究者たちは、ある一つの仮説を提示しています。
それが「自己成就予言(self-fulfilling prophecy)」という心理プロセスです。
自己成就予言とは「たとえ根拠のない思い込みや信念であっても、それと思い込んでいるうちに本当に実現してしまうこと」を指します。
要するに、自分の名前に込められた意味やステレオタイプ(たとえば、同じ名前を持つ偉人や著名人の性格や功績)を意識的であれ無意識的であれ、自分の中に内面化していくことで、本当にその名前の意味やステレオタイプを表すような外見に近づいていくというのです。
例を挙げるとすれば、「誠」と付けられたら誠実そうな顔立ちになり、「優子」と付けられたな優しそうな柔和な顔つきになるようなものでしょう。
あるいは「信長」と付けられれば野心的な風貌になり、「卑弥呼」と付けられればスピリチュアルな顔立ちになるのかもしれません。
欧米の名前は漢字のような文字ごとの意味はありませんが、基本的にはキリスト教の聖人名に由来して名付けられます。
例えばマイケルという名前は、天使の長ともされるミカエルから来ているため、英語圏の人には天使の美しいイメージや、悪魔と戦う勇ましいイメージを抱かれる可能性があります。
また単に顔立ちが変わるだけでなく、髪型や化粧も含めて、自分の名前に合うようなスタイルを選ぶようになるとも考えられます。
以上を踏まえて、研究主任のヨナト・ズウェブナー(Yonat Zwebner)氏は「私たちの研究は個人的な思い込みがもたらす多大な影響を浮き彫りにし、人は生まれたときに与えられた名前の固定観念に従って成長することを示唆している」と話しました。
もちろんこれは大多数を調べた場合に見られる傾向であり、個々の顔立ちは両親から受け継いだ遺伝子に大部分を左右されるので、名前だけで顔がガラリと変わるなんてことはあり得ないでしょう。
親が子供の将来を想って、カッコいい役者さんや好きなアイドルの名前をつけても同じような顔にはなりません。
ただ名前による長年の思い込みが、顔つきやその人の持つ雰囲気に少なくない影響を与えることは確かかもしれません。
参考文献
New Reichman University study reveals: People’s faces evolve to match their names
https://www.eurekalert.org/news-releases/1052820
Your Face Might Change To Match Your Name As You Age
https://www.iflscience.com/your-face-might-change-to-match-your-name-as-you-age-75329
元論文
Can names shape facial appearance?
https://doi.org/10.1073/pnas.2405334121
ライター
大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
編集者
海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。