注意欠陥・多動性障害(ADHD:attention deficit hyperactivity disorder)は、「集中力がない」「忘れ物が多い」「うっかりミスが多い」などの特性をもつ発達障害です。
ADHDは主に子供の症状とされていましたが、最近では大人でも多いことが知られています。
そしてADHDの症状は、社会生活を送る上で不利になるものが多く、正しい診断結果と周囲の理解がないとただのいい加減な人物として、精神的に追い詰められてしまうこともあります。
だからこそADHDの早期診断は大切であり、それにより、適切なサポートを早期に受けることが必要なのです。
しかし、ADHDの発覚時期には、男女で大きな差があるようです。
最近、スウェーデンのウプサラ大学(Uppsala University)医学部に所属するシャーロット・スコグランド氏ら研究チームは、ADHDの女性は男性よりも約4年遅く診断されると報告しました。
この診断の遅れにより、女性のADHD患者は、併発する精神疾患の負担が大きくなるようです。
研究の詳細は、2023年11月28日付の学術誌『Journal of Child Psychology and Psychiatry』に掲載されました。
目次
- ADHDで悩み、苦しむ人々
- 女性のADHDは見つけづらい
ADHDで悩み、苦しむ人々
注意欠陥・多動性障害(ADHD:attention deficit hyperactivity disorder)は、多動性や衝動性、不注意を症状の特徴とする発達障害、もしくは行動障害です。
子供では「体を絶えず動かしたり離席したりする」「順番を待てない」「整理整頓が苦手」などの特性が問題とされることが多く、大人になると多動性に関する症状はいくらか収まりますが、「話を集中して聞くことができない」「作業が不正確」「忘れ物や無くしものが多い」など社会生活で不利な特性が目立ってきます。
そしてこれらADHDの症状は、12歳になるまでに出現すると言われています。
ただこれらの特性の多くは、幼い子供に見られる特徴と区別することが難しく、学生になってから、もしくは大人になってから診断されることも少なくありません。
だからと言って、ADHDの人たちが学生や大人になるまで問題を抱えたり、悩んだりすることがなかった、というわけではありません。
むしろ、学校や会社で失敗しやすく、叱られたり、否定的な評価を受けたりしやすい状況が続きます。
また周囲から理解されにくく、自分の感覚や考え、それに伴う苦労を共有する仲間がおらず、心や体の不調を抱えやすい傾向にあります。
こうした背景から、ADHD患者はうつ病になりやすく、学業不振の増加とも関連しています。
そのためADHDは早期に診断されることが好ましいのですが、ADHDの諸症状は病気と言うほど明確でない場合も多いため、なかなか発見しづらいという問題があるのです。
さらに、このADHDの見つけづらさが、男女の間でも異なっているのではないか? という議論があります。
今回研究チームは、こうした男女差の課題をいっそう明らかにするため、ADHD患者を対象にした調査を実施しました。
女性のADHDは見つけづらい
研究チームは、スウェーデンの首都ストックホルムに住むADHD患者8万5330人を対象に、性別、ADHDと診断された時の年齢、診断前後における精神疾患の有無、薬物治療などを調べ、その関係性を分析しました。
その結果、ADHDだと診断される女性の平均年齢が23.5歳であるのに対し、男性は19.6歳であることが分かりました。
女性のADHD診断は、統計調査でみても男性に比べて4年も遅れているのです。
ではなぜ、女性のADHDは発見しづらいのでしょうか?
まずあげられている要因が、ADHD研究の初期段階では、研究対象が主に男性に限定されていたため、診断基準や評価方法が男性の症状に基づいて開発されたという点があります。
女性は基本的に男性ほど活動的ではないため、ADHDの症状における多動性の症状は出にくい傾向があります。これは子供の場合、女子のADHDの発覚を遅れされる原因になるのです。
また「忘れ物が多い」とか「集中できない」などの特性は、女性の月経周期によるホルモンバランスの変化でも起きるため、なおさら女性のADHDを発見しづらくしています。
結果的に女性は、男性に比べADHDであることが発見しづらく、診断の遅れが彼女たちに多くの苦痛をもたらしていると考えられるのです。
このためADHD患者が他の精神疾患を抱える割合も、女性の方が男性に比べて2倍も高いと判明しました。
例えば、不安障害(日常生活に支障が出るほど強い不安を感じる)を抱えるADHD患者の割合は、男性が25.9%なのに対し、女性は50.4%でした。
また気分障害(うつ病や双極性障害など)を抱えるADHD患者の割合は、男性が19.5%なのに対し、女性は37.5%でした。
こうした差も、女性ではADHDであることの発見が遅れ、適切なサポートを受けられないことが要因にあるのではないかと推測されています。
そのため、周囲の人たち(特に親)も、「女性のADHDは見つけづらい」ことを意識して、本人の悩みや特性に目を向けてあげるようにしましょう。
それは悩んでいる人自身においても同様です。
そうすることで、生きづらさを感じて苦しい気持ちを癒やして、サポートして行くことができるかもしれません。
参考文献
Females with ADHD diagnosed 4 years later than males, study reveals
https://www.psypost.org/females-with-adhd-diagnosed-4-years-later-than-males-study-reveals/
元論文
Time after time: failure to identify and support females with ADHD – a Swedish population register study
https://doi.org/10.1111/jcpp.13920
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。