見た目によらずカバは走る速度が非常に速いことで知られていますが、その勢いは体重2トンの巨大を宙に浮かせるほどだったことが明らかとなりました。
英・王立獣医科大学(RVC)はこのほど、カバが全速で走るとき、4つ足のすべてが「宙に浮いている」ことを発見したのです。
研究者によると、カバが全速で走っている時間の約15%は4つ足が地面から離れていたといいます。
これは「カバも空を跳べる」といっていい発見かもしれません。
研究の詳細は2024年7月3日付で科学雑誌『PeerJ』に掲載されました。
目次
- 研究者「カバは危険すぎて調査が難しい」
- MAXスピードに達すると「4つ足が宙に浮く」!
研究者「カバは危険すぎて調査が難しい」
カバは大型だと体重2トンを超える巨大な哺乳類です。
アフリカを原産地とするので、私たちが野生のカバを見る機会はそうありません。
動物園で会えるカバは大抵、水の中にプカプカ浮かんでいるだけなので、とても温厚そうに見えますよね。
しかし野生のカバは予想以上にキレッキレで、現地の人々が最も恐れる動物の代表格となっています。
でっぷりとした体格に似合わず、陸上での走るスピードは時速30キロに達し、水中だと時速60キロで移動できるのです。
原チャリと同じくらいのスピードですから、カバに目をつけられると生身の人では絶対に逃げ切れません。
ですから現地のガイドさんたちもカバには絶対に近づかないように注意しています。
実際、カバに近づきすぎてボートが転覆させられたり、約1トンの力でカバに噛まれて死亡したケースも起きています。
こうした危険性ゆえに、カバの生態を詳しく調べることはとても難しいものでした。
研究主任のジョン・ハッチンソン(John Hutchinson)氏も「彼らは信じられないほど危険なため、研究対象とするのが困難で、これまで生態調査を進めるのに苦労してきました」と話します。
特にカバは日中の多くを水の中で過ごすので、陸上でどのように走るのか、そのメカニズムがよくわかっていなかったのです。
そこでハッチンソン氏らはカバの陸上での走りを細かく観察する調査をスタートしました。
MAXスピードに達すると「4つ足が宙に浮く」!
ハッチンソン氏は手始めに、カバの走りに関する先行研究を調べてみましたが、満足のいく答えは見つかりませんでした。
そこで氏は指導学生の一人で、同チームに参加しているエミリー・プリングル(Emily Pringle)氏をイギリス北部ノース・ヨークシャーにある動物園「フラミンゴ・ランド・リゾート(Flamingo Land Resort)」に派遣しました。
この施設ではカバも飼育されており、彼らが走り回れる広いスペースも設けられています。
プリングル氏はカバが厩舎(きゅうしゃ)と水飲み場を走って往復する様子をビデオ撮影し、実験室に持ち帰りました。
これと別にハッチンソン氏は、インターネットに投稿されているカバの走行映像をかき集め、プリングル氏が撮影した映像と合わせて、延べ32頭のカバによる169件の走行データを収集することに成功しています。
ハッチンソン氏はそのデータを1フレームごとに分解して、カバが走っているときのメカニズムをつぶさに調べました。
余談ですが、動画データをフレームごとに調べる作業は「本当に地獄だった」とハッチンソン氏は話します。
「気が遠くなりそうな作業で、あらゆる仕事の中でも一番嫌いなものの一つです。本当につまらない作業で、苦痛でしかありません」
研究者がここまで言うのだから、本当に大変な作業だったのでしょう。しかし研究者たちはこうした気の遠くなるような作業の末に、重大な発見をします。
なんと、カバが全速力に達したとき、4つの足がすべて宙に浮いている瞬間があることを発見したのです。
これは実にシンプルな発見ではありますが、これまで誰も知らない事実でした。
具体的に見ますと、カバの走り方はどのスピードでも「トロット」という走法だったといいます。
トロットとは対角線上にある2本の足(例えば、右前足と左後ろ足)をシンクロさせて交互に動かす走り方で、4つ足の動物が小走りをするときに見せるものです。
これがもっと速くなると、ウマやチーターが見せるような「ギャロップ」という走り方になります。
ギャロップで4つ足が宙に浮くことは誰もが知っていますが、カバがトロット走行で4つ足のすべてを地面から離すことができる事実は初めて明らかになりました。
ハッチンソン氏によると、カバが全速力で走っている時間の最大15パーセントは4つ足が地面から離れていたとのことです。
また同じトロット走行で走る巨大哺乳類には「ゾウ」がいますが、彼らの4つ足が地面から離れることはありません。
そう考えるとカバの走行速度がいかにすごいかがよくわかります。
しかしゾウやカバと肩を並べる大型哺乳類の「サイ」はカバよりも速く走ることができると考えられています。ただし、サイの場合はギャロップ走行もできるため、トロット走行のみで4つ足を地面から浮かすほどの速度で走るカバは、やはりすごいと言えるでしょう。
これを踏まえてハッチンソン氏は「カバの運動能力はゾウとサイの中間に位置している」と述べました。
今回の成果は、カバのような大型哺乳類が陸上でどのように走るかの科学的理解を大きく向上させるものです。
またハッチンソン氏はこの知見について、体に異変があったり、歩行困難を起こしているカバを診断するのにも役に立つでしょうと話しました。
とりあえず、カバも空を”跳ぶ”と結論してよさそうです。
参考文献
RVC research discovers hippos’ability to become airborne
https://www.rvc.ac.uk/research/research-centres-and-facilities/structure-and-motion/news/rvc-research-discovers-hippos-ability-to-become-airborne
Hippos might fly: UK research discovers animal can get airborne
https://www.theguardian.com/world/article/2024/jul/03/hippos-might-fly-uk-research-discovers-animal-can-get-airborne
元論文
Footfall patterns and stride parameters of Common hippopotamus (Hippopotamus amphibius) on land
https://peerj.com/articles/17675/
ライター
大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。
他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。
趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
編集者
ナゾロジー 編集部