まるで子供がデタラメに生み出した落書きのようです。
地球上にかつて実在した「ロンギスクアマ」という生き物は、とびっきりヘンテコな見た目をした爬虫類でした。
体は普通のトカゲと同じなのに、背中からアイスホッケーのスティックのような棒状突起がいくつも生え出ていたのです。
この姿から”史上最もおかしな見た目をした爬虫類”と称されています。
ロンギスクアマとは一体どんな生き物だったのでしょうか?
目次
- 背中に生えた「スティック状の突起」の謎
- 羽毛の起源か?用途はなんだったのか?
背中に生えた「スティック状の突起」の謎
ロンギスクアマ(Longisquama)は、恐竜が出現する前の三畳紀(約2億5190万〜2億130万年前)前期に生息した絶滅爬虫類です。
その化石は1970年に、旧ソ連の古生物学者であるアレクサンドル・G・シャロフ(Aleksandr G. Sharov)の率いるチームによって、中央アジアのキルギス南部にあるマディゲン累層で発掘されました。
この地層は三畳紀の湖畔や川沿いにあった森林環境を保存しており、当時の昆虫や爬虫類、魚類の化石が出土しています。
ロンギスクアマの化石は、保存状態の悪い骨格が1点と不完全な印象化石(葉っぱや羽毛などの輪郭だけ残った化石)が数点見つかっているだけです。
そこから研究者らは、本グループの唯一の種として「ロンギスクアマ・インシグニス(Longisquama insignis)」を正式に記載しました。
属名のロンギスクアマは「長い鱗(うろこ)」を意味し、種小名のインシグニスは「目立つ」を意味します。
その名の通り、ロンギスクアマは非常に目立つ棒状の突起を持っていました。
本種の全長は5〜10センチと見られていますが、背中に生えた突起は全長よりも長いものだったのです。
こちらがその印象化石の写真。
これらの棒状突起はアイスホッケーのスティックやゴルフのパターのように先端が湾曲した形になっていました。
一時期は「こんなものが爬虫類の背中から生えるわけないので、植物の葉っぱがたまたま一緒に化石化しただけではないか」との意見もありましたが、この説は2012年にはっきりと否定されます。
この植物のような突起の一つ一つは確かに鳥の羽毛に似ており、中央には羽軸のような構造もあって、それが背骨に結合していた証拠が見つかったのです。
その一方で、突起の材質は明らかに羽毛とは違い、また鱗というよりも皮に近いことがわかってきました。
これと並行して、「棒状突起は二列に並んでいたのではないか」と推測する研究者がいました。
これは「ロンギスクアマの突起が空を飛ぶために使われていた」と考えたかったからです。
二列に並んでいれば、それが左右に展開されることでトンボの翅(はね)のようになります。
とはいえこの説を推す研究者たちも、ロンギスクアマの羽がトンボのようにパタパタと可動したとは考えられなかったため、現生するトビトカゲのような滑空用に使っていたのだろうと推測しました。
その仮説をもとに復元されたロンギスクアマがこちらです。
トカゲとトンボが悪魔合体したみたいですね。
この仮説ものちの研究ではっきり間違いだったと否定されています。
ロンギスクアマの突起はあくまでも一列しか並んでいなかったのです。
しかしそうなると、ロンギスクアマの突起が何のためにあったのかますます訳がわかりません。
そこで研究者はこれと別に「羽毛の起源だったのではないか」との仮説も立てています。
羽毛の起源か?用途はなんだったのか?
今日の鳥類に受け継がれている「羽毛」は、鳥類型恐竜において初めて誕生したとするのが現在の定説となっています。
そのシナリオはこうです。
まず、初期の獣脚類(Tレックスやヴェロキラプトルを代表とする肉食グループ)において「恒温性能」が進化し、その体内の温度を守る断熱材として羽毛が誕生しました。
そしてこれらの羽毛が徐々に大きさや複雑さを増していく中で、滑空のための機能を獲得するに至ったのです。
「恒温性能の誕生」について詳しく知りたい方は、こちらをご参照ください。
その一方で、一部の古生物学者は「ロンギスクアマの突起は多くの点で鳥の羽に似ているため、羽毛を最初に獲得した恐竜と共通の祖先を持っていたのではないか」と考えるようになりました。
そしてロンギスクアマは恐竜よりも先に誕生していたことから「羽毛の真の起源はロンギスクアマにこそあったのではないか」と。
確かにロンギスクアマの突起は鳥の羽によく似ていたため、そう考えられてもおかしくありません。
しかしこの仮説も、ロンギスクアマの突起の材質が羽毛とまったく違うこと、ロンギスクアマのグループは鳥類型恐竜の系統とは大きくかけ離れていることなどから、これまた明確に否定されています。
ではロンギスクアマは何のために棒状突起を生やしていたのか?
今のところ最も有力なのは「求愛や威嚇のための装飾だった」という説です。
おそらく、オスがメスに求愛したり、あるいは他のオスのライバルと競い合う際に使われた可能性があります。
他方で、この突起は明らかに悪目立ちするものだったはずです。
この形質がその後の爬虫類に受け継がれていないところを見ると、天敵に見つかりやすく、種の存続にとって不利に働いたと考えられます。
残念ながら、ロンギスクアマはもうこの世にいませんが、その生きた姿を見ることができれば、とても素晴らしい眺めだったでしょう。
参考文献
This Ridiculous Reptile’s Hockey-Themed Decor Might Change What We Know About Feather Evolution
https://www.iflscience.com/this-ridiculous-reptiles-hockey-themed-decor-might-change-what-we-know-about-feather-evolution-74408
The odd little reptiles of the Triassic forests: Longisquama
https://eartharchives.org/articles/the-odd-little-reptiles-of-the-triassic-forests-longisquama/index.html
元論文
The ‘feathers’of Longisquama
https://doi.org/10.1038/35044204
ライター
大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
編集者
海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。