増税に関するニュースは、日本でも日々話題に上がっており、無駄な支出を見直さず増税に走る政府に批判の声を上げる人も多く見られます。
しかし、税金には国の収入以外の目的で導入されるものがあります。
それが、関税やたばこ税など、消費の抑制を目的に導入される税です。
実際喫煙者の中にも、たばこ税の増税をきっかけにたばこをやめられたという人も多いでしょう。
そのためこの考えが拡張され、糖分や塩分など自分の意志では摂取を控えることが難しい食品に課税対象を広げることで、国民の健康を守る方法が検討されており、すでにいくつかの国で導入されています。
そこでイギリスのインペリアル・カレッジ・ビジネス・スクール(Imperial College Business School)に所属するエリサ・ピネダ氏ら研究チームは、高脂肪・高塩分・高糖分(HFSS)食品への課税の影響を調査した20の研究を分析し、そ課税の効果を検討してみました。
すると実際HFSS食品への課税は国民の健康に貢献できることが示されたという。
こうした事実があるのならば、今後世界で不健康な食品への課税が進んでいくかもしれません。
研究の詳細は、2024年2月26日付の学術誌『Food Policy』に掲載されました。
目次
- 砂糖に課税して国民の健康を守る「砂糖税」
- 「高脂肪・高塩分・高糖分」食品への課税と健康食品への補助金が効果的
砂糖に課税して国民の健康を守る「砂糖税」
近年は脂肪や糖分を過剰に含んだ食品が増えてきました。
生物の脳は高脂肪・高糖分の食品に対して報酬系のドーパミンが活性化しやすいため、最近の研究でも頻繁に摂取しているとやめられなくなることが示されています。
当然、商品としては売れやすくなるため企業も進んでハイカロリーな食品を販売していくようになります。
世界肥満連合(WOF)は、こうした流れに対して何らかの措置を講じなければ、2035年までに、世界人口の半数以上が肥満または過体重になると警告しています。
特にこの影響を受けやすいのが子供たちで、子供の肥満問題が顕著に増加していくと考えられています。
WHOは、高血圧や高血糖、肥満および過体重など、日々の食生活が原因となって死亡する人の割合は、世界全体の死亡率の19%を占めると報告しています。
健康的な食事をするよう人々を助けることは、今や世界的な課題だと言えるのです。
この課題に対処するため、「砂糖税」と呼ばれる課税の仕組みが登場してきたことをご存じでしょうか。
その名の通り、砂糖が多く含まれる食品や飲料に対して、砂糖含有量に応じて課税し、その消費を抑制するというものです。
「ただでさえ税金の支払いで苦しんでいるのに、砂糖にまで税金を課すなんて、そんな馬鹿な話があるのか」と感じるかもしれませんが、実は、この砂糖税は様々な国で既に導入されています。
しかもそれらの国々の中には、砂糖(つまり糖分)だけでなく、塩分や脂肪にも課税してきた国があるのです。
では、高脂肪・高塩分・高糖分(HFSS)の食品に対する課税は、どのような結果をもたらしたのでしょうか。
今回、ピネダ氏ら研究チームは、世界中で導入されたHFSS食品に対する課税を調査し、それらを扱った20件の研究結果を分析することにしました。
「高脂肪・高塩分・高糖分」食品への課税と健康食品への補助金が効果的
過去数十年にわたり、50を超える国や地域で、砂糖入り飲料への課税が行われました。
一方で脂肪や塩分、糖分の高いHFSS食品に課税してきた国は16カ国(メキシコ、アメリカ、カナダ、オランダなど)のみです。
そこで今回、ビネダ氏ら研究チームは、それらの国々の課税を扱った20の研究を総合的に分析しました。
その結果、HFSS食品に対する課税が、国民を健康に導く可能性があると分かりました。
例えばメキシコでは、チョコレートやシリアル、ポテトチップスなど、生活必需品ではない高カロリー食品に8%の課税が課せられました。
その結果、課税対象食品の売り上げが、スーパーマーケットで18%、小売店で最大40%減少しました。
また当然ですが低い税率を課すよりも、高い税率を課す方がより効果的に、不健康な商品の消費を減少させることに繋がっており、中途半端な課税はあまり意味がないことも示されました。
これはたばこ税を見ても分かる事実でしょう。
またこの課税に対する反応は所得レベルによって違いがあり、低所得層の反応がもっとも大きかったという。
ただピネダ氏は、単にHFSS食品に課税するだけでは、低所得者層へダメージを与えるだけだと話します。
HFSS食品は安い食品に多いため、単に課税するだけだと国の食品全体の価格が上がるだけで終わってしまう可能性が高いのです。
そこで彼女は、国民の健康を本当に守るためには、この課税による税収を健康的な食品(糖分や塩分、脂肪の少ない食品、全粒穀物食品、果物や野菜ベースの食品など)に対する補助金にあて、価格を下げることが鍵になると述べています。
実際、20の研究を分析した結果、課税と補助金を組み合わせた場合に、HFSS食品の売り上げ、購入、および摂取量が特に減少していました。
イギリスでは、ソフトドリンクに砂糖税を課したことにより、対象製品の平均砂糖含有量が、2015年から2020年にかけて46%も減少したといいます。
この実績と、今回の研究結果を考えると、「課税対象をHFSS食品(健康食品への補助金を含む)にまで拡大することには、大きなメリットがある」と言えるでしょう。
企業側も売れる以上は、高カロリー食品の生産をやめることは難しく、消費者もたとえ不健康とわかっていても安く美味しい食品の消費をやめることは難しいでしょう。
肥満の解消は個人の意志で対処するのが難しい問題です。
これを課税によって自然と高カロリー食品の消費を減らし、その税収で健康的な食品が安く買えるようになるなら、たとえ増税とはいえ賛成する人は多いのではないでしょうか。
参考文献
Taxing unhealthy food helps cut obesity, says global study
https://www.imperial.ac.uk/news/252678/taxing-unhealthy-food-helps-obesity-says/
元論文
Review: Effectiveness and policy implications of health taxes on foods high in fat, salt, and sugar
https://doi.org/10.1016/j.foodpol.2024.102599
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。