土星のトレードマークはその特徴的な美しい環です。
天文ファンに好きな惑星を聞くと「土星」と答える人が多いようです。
望遠鏡で土星の環を見た時の感動から宇宙や天文に興味を持つ人も多いと思います。土星の環は小さな望遠鏡や双眼鏡でも確認できて、写真撮影の被写体としても手ごろなので、天体観測の初心者からベテランまで人気があります。
そんな人気者の土星にも、多くの謎が隠されています。
この記事では、土星の環がいつ、どのようにしてできたのか、なせ土星だけに立派な環があるのかなど、土星の謎について解説します。また、生命の可能性が示唆されている土星の衛星についても紹介します。
目次
- 美しい大きな環を持つ土星
- 土星の環の正体
- どうして土星にだけ立派な環があるのか?
- 土星の環がなくなる?
- 土星は水に浮く?
- 太陽系で最も多くの衛星を持つ惑星
- 土星の衛星には生物がいるかもしれない!?
美しい大きな環を持つ土星
「環がある惑星」といえば、だれもが土星のことを思い浮かべるでしょう。
「木星型惑星」と呼ばれる、木星、土星、天王星、海王星はいずれも環を持っていますが、望遠鏡でもよく見えるはっきりとした環をもっているのは土星だけです。
実際に望遠鏡で観察すると、その環は土星本体の2倍まで広がっています。望遠鏡では見えないかすかな部分まで含めると、その環は本体の5倍ににも及びます。
土星は、大きさでも引けを取りません。土星は太陽系で木星に次いで巨大なガス惑星で、その直径は地球の約9.4倍、質量は地球の95倍です。
土星は完全な球形ではなく、赤道部分が膨らんだ楕円形をしています。自転軸方向の半径は赤道半径より1割ほど短く、つぶれた球のような形状をしています。この「つぶれ具合」を表す扁平率も太陽系の惑星の中で1番です。
土星がこのような形状になる理由は10時間14分という短い自転周期で高速に自転している上に、1立方センチメートル当り0.7gという太陽系最小の密度であることが原因です。
土星の環の正体
最初に望遠鏡で土星を観察したのはガリレオ・ガリレイです。
ただ、このとき観測に用いた望遠鏡はガリレオが自作したもので、性能が悪く、彼は土星の周りに見えるものが環とは判別できませんでした。
そのため彼は「土星には耳がある」と言ったそうです。これが土星の環であるこを確認したのは、後の天文学者ホイヘンスとされています。
そんな土星の環ですが、現代の望遠鏡では非常に詳細な構造が明らかになっています。
土星の環を高性能な望遠鏡で見ると、美しい縞模様が見えます。環にはレコードの溝のような筋がたくさんあり、A環からF環までの環に分かれています。その幅は約27,500kmにも及び、細かく数えると総計で6,000本に分かれています。
土星の環は、浮き輪のように見えますが、板状に固まっているわけではありません。実際には、小さな氷のかけらが連なって土星の周りを回転しています。これらの粒が太陽の光を反射することで、明るく輝いて見えます。
ではそんな塵の集まりで出来た土星の環に、レコードの溝のような隙間ができたり、妙に細い環ができるのはなぜなのでしょうか?
これは、土星の衛星の重力が環に影響を与えているためだと考えられています。
衛星の重力が環を構成する粒子を引き寄せたり、はじいたりすることで、衛星の軌道に沿ってすきまができます。
衛星同士で挟まれた部分は、両側から衛星に押さえ込まれるため、細かい環が整列した状態となります。このように環を整列させている衛星たちは「羊飼い衛星」と呼ばれています。
どうして土星にだけ立派な環があるのか?
木星・天王星・海王星も環をもっていますが、太陽の光をあまり反射しない暗い岩の塊や小さなチリでできているので非常に淡くあまり目立ちません。
一方、土星の環は光をよく反射する氷でできているため、明るくはっきりと見えます。特に最も明るく見えるA環やB環は、チリなどで汚れていないきれいな氷が多いことが知られています。
土星と他の巨大惑星で環の組成が異なる理由は現在のところ解明されていませんが、興味深い仮説があります。惑星の密度の違いが環の成分の違いに関係しているというのです。
この説では、約40億年前の太陽系の後期重爆撃期に巨大惑星の環が形成されたとしています。
環の材料となったのは、カイパーベルト(太陽系の惑星たちより外側の軌道にある小天体が集まった領域)にある冥王星サイズの巨大な天体だったと考えら得ています。これが土星や天王星、海王星に接近した際、潮汐力によって破壊され、その一部がこれらの惑星に捕獲され、それが現在の環になったのです。
この際、惑星の密度の違いが環の組成を決定したと推測されています。
天王星や海王星は土星と比べて密度が大きいため、惑星の非常に近くを天体が通過する近接遭遇が可能です。この場合は天体には大きな潮汐力が作用します。
一方、土星の場合は密度が小さく質量に対して惑星半径が大きいため、そのようなごく近傍を通過しようとすると土星本体に衝突してしまうのです。
惑星近傍を通過するカイパーベルト天体は内側に岩石核、外側に氷マントルという二層構造をもっていたと想定できます。この場合、天王星や海王星の場合では、岩石核まで破壊・捕獲され、岩石成分も含むリングが形成されます。
これに対して土星の場合は通過する天体の氷マントルのみが破壊されるため、氷が主成分のリングができるのです。
木星についても、土星と比べて密度が大きいためこの説が適用できますが、ガリレオ衛星の影響も考えられます。
木星には大きな4つの衛星(ガリレオ衛星)がありますが、これらの重力によって環の材料となる氷の軌道が変化し、環の形成が妨げられた可能性があります。一方、土星の衛星は木星ほど大きくないため、環の形成に与える影響は小さかったと考えられます。
また土星の環が明るくくっきりと見える理由については、土星の環が比較的最近できたものだという説があります。
土星の環は土星本体の年齢よりもずっと若いというものです。NASAの研究チームは、土星探査機カッシーニが収集した土星の環の観測画像から、土星の環が形成された時期を1億~2億年前と推測しました。これは地球上では恐竜たちが反映していた時代です。
土星自体が誕生したのは、他の惑星と同じく今から約46億年前ですが、カッシーニの観測によると環がそこまで古いことはありえないというのです。
環がつくられた時には氷同士の衝突によって新しい表面が現れますが、時間が経つにつれて氷がチリに覆われてだんだん暗くなっていきます。そのため環が土星自体と同じぐらい古いなら今ほどの明るさを保っていることはないだろうと考えられるのです。
土星の環がなくなる?
土星のシンボルともいえる環ですが、周期的に見えなくなるという現象があります。
土星は約30年周期で太陽の周りを公転しています。土星の公転軌道面に対して環が少し傾いているため、地球と土星の位置関係によって環の見え方が変化します。
その結果、おおよそ15年周期で環を真横から見る時期が訪れ、環がほとんど見えなくなります。これは「環の消失現象」と呼ばれています。環が実際に消えるのではなく、位置関係によって見えなくなるのです。
ちなみに次に環の消失現象が起きるのは2025年です。
土星の環が見えなくなるのは残念ですが、このことから土星の環の秘密がうかがえます。真横からだと見えないということは、その幅に比べて厚みが非常に薄いということです。
土星の環の幅は、望遠鏡ではっきりと見えるA環だけで15万kmぐらいあり、かすかなものを含めると40万kmを超えます。それに対して、厚さはたった数百mしかありません。
土星本体を直径20cmのバレーボールに見立てると、環の幅は60cmを超えます。それに対して、厚さは5000分の1mmしかないことになります。このように超極薄なので、真横から見た時に環が見えなくなるのです。
では土星の環はなぜそんなに薄いのでしょうか? その理由は次のように説明できます。
下の図は土星の環に垂直な方向から見た環のモデルです。土星に近い場所に粒子aがあり、遠い場所に粒子bがありいずれも土星の周りをまわっています。
粒子aは土星に近いためより強い重力が働きますが、土星の周りを速いスピードで回転しているため、回転による遠心力と重力が釣り合っています。粒子bに働く重力は弱いため、aよりも遅い回転速度の場合に遠心力と重力が釣り合います。
粒子aの場合も粒子bの場合も軌道は安定しています。このように粒子の運動エネルギーに応じて安定な軌道が存在するため、土星からの距離のバラツキが大きくなります。これが土星の環の幅が広い理由です。
さて、もし土星の環にもっと厚みがあったとしたらどうなるでしょうか。次の図はその場合の土星の環を横から見たものです。
北側に環A、赤道付近に環B、南側に環Cがそれぞれあったとします。
AはBとCの重力によって赤道側に引き寄せられます。Cも同様にAとBの重力によって赤道側に引き寄せられます。一方、Bに対してAから働く重力とCから働く重力は釣り合っているのでBは動きません。結果としてA~Cの幅が極限まで小さくなります。
ところで見かけ上の問題とは別に、あと1億年ぐらいで土星の環が本当に消えてしまうという説があります。
なぜ、土星の環が消えていくのでしょうか?
それは土星の重力が原因です。環を構成する氷の粒子が、土星の重力によって徐々に土星本体に落下しているからです。
土星の環は氷の粒からできていますが、その氷の粒が環に留まっていられるのは、土星本体からの重力と環の回転による遠心力とが釣り合っているからです。しかし、太陽の紫外線などで氷の粒が帯電すると、力のつり合いが崩れて、氷は土星の磁力線に沿って南北の中緯度地域に落下していきます。
2011年にハワイのケック望遠鏡が行った観測により、土星の環を構成する粒子が土星に降り注ぐペースが明らかになりました。
その研究によると、土星の環は1億年以内に消滅すると予測されています。土星の環の形成自体が数億年前という説と合わせて考えると、土星のような見事な環の寿命は、そもそもそれほど長くないのかもしれません。
このため将来的には土星の環も天王星や海王星のように暗く希薄な環になり、地球から見えなくなるかもしれません。
土星のシンボルでもある環は、遠い未来まで変わらず存在しているように思えますが、意外と近い将来消えてしまう運命にあるようです。
土星は水に浮く?
土星は太陽系で唯一の「水に浮く惑星」です。
土星は太陽系で最も密度が低い惑星で、その平均密度は水の約0.7倍です。つまり、土星を十分に大きな水槽に入れれば、プカプカと水面に浮かぶことになります。
土星が水に浮くほど密度が低い理由は、土星が主に軽い元素の水素とヘリウムでできたガス惑星だからです。
木星や地球などの他の惑星は、密度の高い岩石や金属を多く含むのに対し、土星はガス状の水素とヘリウムが圧縮された構造になっているのです。したがって、土星は唯一の「水に浮く惑星」と言えます。
もちろん土星が入るほどの水槽はありませんが、土星の平均密度と同じ密度の物体を水槽に入れれば、その物体は水よりも密度が低いので水面上に浮かぶことになるのです。
同じガス惑星でも木星は水に浮きません。木星の密度は、水の密度の約1.3倍です。木星は土星の3倍以上の質量があり、その重力で中心部のガスが圧縮されているため密度が高くなっています。
また、天王星と海王星の平均密度も木星と同程度です。木星や土星はほとんど水素やヘリウムなどのガスで構成されていますが、天王星と海王星は内部に含まれる岩石や氷の割合が高いため、密度が大きくなっています。
太陽系で最も多くの衛星を持つ惑星
土星には、2023年までに約150個の衛星が報告されています。
実は、2023年5月にカナダのブリティッシュ・コロンビア大などの国際チームが、土星の衛星を新たに62個発見し、合計で145個になったと発表しました。これにより、土星が木星を抜いて最も多くの衛星を持つ惑星となりました。
なぜ、土星にはこのようにたくさんの衛星があるのでしょうか?
その理由の一つとして、強い重力の影響が考えられます。土星は太陽系で2番目の質量を持つ惑星であり、強い重力を持つため多くの小天体を引き付けておくことができます。
実際に太陽系で質量が最も大きい木星も多くの衛星を持っていることから重力の大きさと衛星の数には関係があることがうかがえます。
土星の衛星の中では、タイタンが直径・質量ともに最大の衛星です。太陽系の衛星としては、タイタンは木星の衛星ガニメデに次いで大きな衛星であり、水星や冥王星よりも大きい天体です。
タイタンは、太陽系で唯一濃い大気がある衛星で、表面気圧は地球の1.5倍です。さらに、太陽系で地球以外に、表面に液体の湖や川がある天体でもあります。ただし、これらの液体は水ではなく、エタンやメタンで構成されています。
その他の土星の衛星は、エンケラドス以外は主に岩石や氷から形成されています。土星の惑星は氷を多く含んでいるため、総じて密度が低いと考えられています。
土星の衛星には生物がいるかもしれない!?
地球以外で生命が存在する可能性が期待される天体として、土星の衛星タイタンが挙げられます。
タイタンは土星の衛星の中で最大であり、窒素やアルゴン、メタンの大気を持ち、メタンやエタンの川や湖が存在することが知られています。
これらは生命が誕生するために必要な条件を備えています。さらに、タイタンの環境は、生命が誕生したばかりの地球の環境に類似していると考えられています。
そして、最近注目を集めている土星の衛星がエンケラドスです。エンケラドスは直径500km程の天体でその内部には液体の水があると考えられています。
エンケラドスの表面は一面氷に覆われています。
この大きさの天体の場合、普通は熱を保つことができないのでその内部は凍り付いています。ところが、エンケラドスの場合は土星の強い重力(潮汐力)によって内部がぐにゃぐにゃと揉まれているような状態にあり、熱エネルギーが生成されています。
これにより内部の氷がとけているかもしれないのです。生命にとって液体の水は欠かせません。逆に、液体の水があれば生命がいる可能性があります。
実際に、エンケラドスの表面からは間欠泉のように水が噴き出している場所が見つかっています。探査機カッシーニの調査によると、エンケラドスの水の中にはアンモニアや有機物などの生命に必要な物質が確認されています。
今のところ、タイタンにもエンケラドスにも生物やその痕跡は見つかっていません。しかし、これからも調査を続けることで新たな発見が期待できます。
実は、タイタンやエンケラドスを調べることは、私たちの地球のことをよく知ることにもつながるのです。タイタンが誕生したばかりの地球に似ているなら、そこから地球誕生のなぞに迫ることができるかもしれません。
また、エンケラドスの水に含まれる有機物に生命誕生の秘密が隠されているかもしれません。宇宙を知ることは地球や私たち自身を知ることでもあるのです。
参考文献
惑星のきほん
https://www.amazon.co.jp/dp/4416617496
惑星科学入門
https://www.amazon.co.jp/dp/406159222X
シリーズ現代の天文学[第2版] 太陽系と惑星
https://www.amazon.co.jp/dp/B09FSPG3BY
ライター
浅山かつのり: 屋号:創造情報研究所。大学で物理学を専攻し、課外活動では天文研究会の会長を務めました。現在はITエンジニアとして働きながら、サイエンスライターとしても活動しています。歴史にも興味があり、史跡めぐりや歴史関係の本を読むのも好きです。
編集者
海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。