ジェンダーの不平等が問題なのでしょうか?
スペインのアルカラ大学(UAH)で行われた研究により、動画配信サイトTwitchの配信者を男女別で分析したところ、女性配信者は積極的に体の露出を行い、配信のポルノ化を起こしている傾向が示されました。
一方で研究で調べられたサンプルのうち、男性配信者が性的なアピールをしている例は1%未満となっていました。
研究者たちは収益を得る方法として自己を性的な対象として使用する傾向に警鐘を鳴らしています。
自由な表現の場だった動画配信サイトに何が起きているのでしょうか?
研究内容の詳細は2024年2月15日に『Humanities and Social Sciences Communications』にて公表されています。
目次
- 動画配信の収益化が歪みを生んでいる
- 一部の女性配信者たちは自分自身のポルノ化を積極的に行っていた
- ポルノ化レベルが男女の配信者で違う理由
動画配信の収益化が歪みを生んでいる
現在、動画配信サイトは既存のメディア(テレビなど)にとって代わり、人々の娯楽や社会的交流に不可欠なものとなっています。
実際、お気に入りのテレビ番組や芸能人よりも、お気に入りの動画チャンネルや好きな配信者の名前のほうを多くあげられる人も多いでしょう。
動画サイトの人気の秘訣はさまざまですが、1つには高い自由度があげられます。
テレビのように外部からの干渉を受けやすいメディアとは違い、個人が行う動画配信では自分自身の信念に従って自由に発言したり自己表現することが可能です。
ある意味で動画配信は配信者と視聴者の個人的な会話の場としての性質を持っており、究極的には「好きなら見ろ、嫌なら見るな」で片づけられてしまいます。
しかし近年、自由な表現の場だったはずの動画配信に経済的なインセンティブが導入されたことで、配信者間で人気と収益を求める競争が起こり、いくつかの問題が顕在化しはじめました。
その1つが、配信のポルノ化です。
過去のポルノでは主にプロの人々が活躍してきましたが、インターネットの普及により、誰もが自分の体をポルノとして提示する「自己性的対象化」が可能な環境がうまれました。
この状況に動画配信の収益化が重なった結果、自己のポルノ化「自己性的対象化」が加速していきました。
しかし配信者たちの自己性的対象化の研究はあまり進んでおらず、実態把握ができていません。
そこで今回アルカラ大学の研究者たちは、大手動画配信サイト「Twitch」を使って、自己性的対象化の実態把握を行うことにしました。
自由な表現の場だった動画配信サイトは、どのように歪められていたのでしょうか?
一部の女性配信者たちは自分自身のポルノ化を積極的に行っていた
個人レベルのポルノ化「自己性的対象化」はどのように行われているのか?
答えを得るため研究者たちはTwitchから2000個の動画サンプルを収集しました。
サンプル収集は主に「ゲーム」と「現実世界(In Real Life)」に分類されるカテゴリの中で上位の人気を占めるものが選ばれました。
ここで言うゲームとはビデオゲームを行っている様子を配信する「ゲーム配信」を意味します。
また「現実世界(In Real Life)」は配信者たちの現実世界での活動を映すものでサブカテゴリには「雑談」や「ASMR」「お風呂やビーチからの水着配信(Pools, Hot Tubs &Beaches)」などが分類されています。
「お風呂やビーチからの水着配信」はTwitchが近年導入したカテゴリーであり、名前の通り配信者たちが体の露出の多い状態で行われる配信を意味します。
自由な表現の場として成長してきた動画配信サイトでは、ドレスコートも自由となっているため、水着でゲーム配信をしたりコスプレで社会情勢を論じることも可能です。
(※ただVR技術などを使った3D表現やマンガ的な表現を行っている動画は、現実を反映していないとしてサンプル対象として除外されました)
次に研究者たちは配信のポルノ化レベルを測るための指標を作成し、収集された動画の評価を行いました。
たとえば衣服については、露出の少ない衣服は「0点」、胸や肩が露出していれば「1点」、体にぴったりとフィットした服は「2点」、水着や下着姿は「3点」、乳首と陰部をシールなどで隠しただけのもの「4点」というように評価されます。
また姿勢に対しては、座っている性的でないもの「0点」、足を広げたり四つん這いになっているもの「2点」と評価されます。
他にも画面の焦点がどこに向けられているかや口元の様子、猫耳や網タイツなどのコスプレ衣装の着用、性行為の模倣レベルなど、多様な要素で評価されています。
つまり猫耳を装着した状態で水着を着て足を広げて、カメラの焦点を股間にあわせ、性行為を模倣する動きを行った場合、(男女の差別なく)かなりのポルノ化が進んでいる配信と評価されるわけです。
結果、カテゴリごとの男女比が大きく違うことが判明。
さらに女性配信者は男性配信者に比べて、遥かに自己性的対象化が進んでいることが判明しました。
上の図ではカテゴリごとの配信者の男女比を示しています。
ゲームカテゴリや雑談カテゴリでは9割が男性配信者である一方で、「お風呂やビーチからの水着配信」や「ASMR」のカテゴリではほとどが女性配信者で占められています。
また上の表はポルノ化レベルを調べたものになります。
表をみると、(中程度の)性的な配信を行っている男性配信者は全サンプルの中わずか0.43%(5人)である一方、女性配信者は25.5%(190人)に及んでいました。
さらに過剰に性的化された配信では男性配信者は全サンプル中わずか0.17%(2人)に過ぎないのに対し、女性配信者の場合52.21%(389人)と半数以上になっていました。
一方、性的でない配信は男性配信者の99.4%(1167人)でしたが、女性配信者では22.28%(166人)に留まりました。
この結果は、女性配信者たちの77.71%が視聴者を得るために、自分の外見や性的魅力を活用することが多いことを示しています。
一方で男性はコンテンツをゲームや雑談に集中しており、性的なアピールする例は0.6%と極めてまれでした。
研究者たちも「男女の配信者で性的表現レベルにこれほど大きな違いがあったことに驚いた」と述べています。
しかし、なぜ男女でこれほど性的表現に差があるのでしょうか?
ポルノ化レベルが男女の配信者で違う理由
なぜ男女の配信者でポルノ化(自己性的対象化)が大きく違うのか?
1つは単純に需要の問題があげられます。
Twitchの視聴者は全体的に男性に偏っており、サンプルが収集されたカテゴリではさらに極端な配信者の男女比がみられます。
また伝統的に女性の性的魅力は男性よりも先鋭化して表現されており、商業的な需要も高くなっています。
実際、研究では男女の配信者ではスタイルが大きく異なることが指摘されています。
男性配信者の場合、ゲームのスキルや雑談スキルに焦点を当てており、視聴者を引き付けるのに自分の体をみせたり誘惑するケースは非常にまれでした。
一方、過去の研究では、女性配信者では視聴者の獲得において自分自身をアピールすることに頼っており、これが自己性的対象化に繋がっていることが示されています。
また別の動機として配信することで得られる非経済的な利益もあげられます。
これまでの研究により、女性が自分自身を性的対象化する動機として、自己性的化が女性に自信や喜び、自尊心を与えることが示されています。
しかし研究では、女性配信者の自己性的対象化には、強烈な副作用が指摘されています。
複数の研究により、自己性的対象化を行った人物(ここでは配信者)に対して視聴者たちは、性的対象とみなす度合いが高くなる一方で、非人間的な存在として見方を変化させることが示されています。
ごく簡易な言葉で言い換えれば、ポルノ化が進行した配信では、配信者個人の「人格や特性」よりも「エッチな配信を行う人」という認識が強くなってしまうのです。
このような場合、配信に対する評価も、配信者個人の人間としての魅力よりも、どれだけ性的な内容を発信しているかに焦点がシフトしてしまいます。
どれだけ雑談スキルを磨いても、結局は性的な内容でしかみられないとしたら、配信者のモチベーションにとっても深刻な影響となるでしょう。
研究者たちはポルノ化した配信が、デジタル世界での違法な人身売買(性的な動画を配信させられるなど)を助長する要因になりうると警鐘をならしています。
動画サイトにとっても、配信のポルノ化が蔓延した状態はある種のアダルトサイト化であり、娯楽の多様性を失わせる要因となります。
サイト収益の観点からもアダルトサイト化が進んだサイトよりも、YOUTUBEのような多様な娯楽や情報に力を入れた方が最終的な集客力が高くなります。
ただ何をポルノと認識するかは個人レベルの問題であり、線引きは難しい問題です。
猫耳をつけていることや特定の衣服を着ているいることが本当にポルノ化なのかも判断が分かれるところです。
曖昧な根拠で表現の規制だけを強化しても、それは配信の自由度を奪うだけで良い結果には繋がらないでしょう。
研究者たちは今後、調査対象となる分野を広げ、世界的な配信のポルノ化の実態についてより詳細に調べていくとのこと。
個別では判断できない場合でも、今回の研究のように定量的なテストをもとに点数付けすれば、ある程度公平なルールとなるかもしれません。
参考文献
Researchers uncover ‘pornification’ trend among female streamers on Twitch
https://www.psypost.org/researchers-uncover-pornification-trend-among-female-streamers-on-twitch/
元論文
Sexualized culture on livestreaming platforms: a content analysis of Twitch.tv
https://doi.org/10.1057/s41599-024-02724-z
ライター
川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。
編集者
海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。