ついつい夢中になって長時間ゲームを遊んでしまったという経験は多くの人にあるでしょう。
こうした長時間プレイを続けると、肩や腰の痛み、頭痛など身体の各所に不調がでてきます。
確かに遊びとは言え長時間同じ姿勢を続けるゲームは、体に多くの負担を掛けることが予想できます。では具体的に何時間連続でプレイしていると体に痛みがでてくるのでしょうか?
豪クイーンズランド大学(University of Queensland)は今回、長時間のゲームプレイが与える”身体的負担”に与える影響を調査しました。
その結果、1回に連続して3時間以上のゲームをする習慣があると、目の疲れや体の痛み、頭痛といった物理的な痛みが生じやすくなることがわかったのです。
ゲームプレイに関しては主に心理的な影響を調査した研究が多いため、身体的負担に焦点を当てた今回の研究はありそうでなかった珍しい報告です。
研究の詳細は2024年2月27日付で学術誌『Computers in Human Behavior』に掲載されています。
目次
- 「ゲームのプレイ時間」と「体の痛み」の関連性を調査
- ゲームは「1回あたり3時間まで」が肝?
「ゲームのプレイ時間」と「体の痛み」の関連性を調査
これまで、ゲームの健康問題に関する研究の大部分は、心理面および行動面への影響に偏っており、依存症や行動障害への懸念ばかりが強調されてきました。
実際、WHO(世界保健機関)は2019年に、ゲームの過剰利用により自分をコントロールできなくなり、日常生活に支障をきたす「ゲーム障害」を国際疾病分類(※)に正式に含めると発表しています。
(※ 国際疾病分類とは、WHOが作成する国際的に統一した基準で定められた病気および死因の分類のこと)
ゲーム障害の兆候としては、例えば、
・プレイ時間が大幅に長くなった
・夜中まで続けてしまい、朝が起きられなくなった
・ゲームのことが絶えず気になる
・他のことに興味を示さなくなった
・注意されると怒りっぽくなる
・利用時間や内容について嘘をつく
・課金が多くなる
などが挙げられます。
ゲーム障害になると、気分の落ち込みやイライラ、食欲低下、生活リズムの乱れなどが生じます。
その一方で、ゲームの過剰利用が身体に与える物理的な悪影響についてはほとんど見過ごされてきました。
そこで研究チームは、1回でどれくらいゲームをプレイする習慣があると身体の痛みが発生するリスクが高まるかを調査しました。
本調査では、アメリカ・イギリス・カナダ・オーストラリアの4カ国から日常的にゲームを利用する955人が参加しました。
そのうち男性は45%、女性が55%で、年齢は18歳〜94歳と幅広い層を対象としています。
参加者はまず、過去1年の間に1回あたり3時間以上のゲーム利用をどのくらいの頻度で行ったかをアンケート調査で回答しました。
回答項目は「全くない」「月に1回か、それ以下」「毎週あるいは毎日」の3つです。
これと別に、1回あたり6時間以上のゲーム利用の頻度についても質問しました。
また、ゲーム利用への依存度を評価する「ゲーム障害尺度(IGDT-10)」にも回答してもらい、参加者のゲーム障害の程度を評価しています(サンプルはこちら)。
それから、過去1年の間に経験した身体の健康問題(頭痛・肩こり・腰痛・疲労、その他、各部位の痛み)についても詳しく回答してもらい、さらに「プロゲーマーになりたい意思があるか」に「はい/いいえ」で答えてもらいました。
では、その結果を次に見てみましょう。
ゲームは「1回あたり3時間まで」が肝?
データ分析の結果、参加者のほとんど(80%)は毎日ゲームをしており、そのうちの大部分の人は数時間単位のプレイを毎日あるいは毎週していました。
具体的には、1回あたり3時間以上を毎週プレイする人は27.5%、1回あたり3時間以上を毎日プレイする人は16.2%となっています。
さらに、そのうち1回あたり6時間以上を毎週プレイする人は19.2%で、1回あたり6時間以上を毎日プレイする人は9%いました。
また、参加者の17.9%が過去1年間に「ゲーム障害」に分類すると評価され、プロゲーマーになることを望んでいた人は全体の21.7%を占めています。
そして最も重要な点として、参加者のかなりの割合がゲーム習慣に起因する身体問題を経験していることがわかりました。
過去1年間で、46.1%が眼精疲労または目の痛み、45.4%が手指または手首の痛み、52.1%が背中または首の痛みを経験しています。
チームが、ゲームの利用時間と身体問題との関係性を分析したところ、1回あたり3時間以上ゲームをプレイする習慣が毎日あるいは毎週ある人は、3時間未満の人に比べて、身体の痛みを経験するリスクが有意に高くなることが判明したのです。
興味深いことに、3時間以上になると身体問題の発症リスクは変わらず、1回に6時間以上ゲームをするからといって、痛みを経験するリスクがさらに増加することはありませんでした。
どうやら「1回あたり3時間まで」が肝のようです。
しかし、研究主任のダニエル・スティエパノビッチ(Daniel Stjepanović)氏は「たった3時間の連続プレイで身体問題の発症リスクが増加したことは、私たちにとって驚きでした」と話します。
これと別に、「プロゲーマーになりたい」という願望は身体問題のリスク増加とそれほど有意に関連していませんでした。
ところが「ゲーム障害」の存在はより顕著な影響力を示し、ゲーム障害の程度が深刻な人ほど、身体問題の発症リスクも高くなっていたとのことです。
以上の結果は、1回でどれくらいゲームをプレイすると身体に痛みが生じやすくなるかを調べた研究として貴重な成果となりました。
チームの見解によると、「1回あたり3時間まで」がセーフティラインと見られます。
その一方で、スティエパノビッチ氏は「この調査は日常的にゲームをプレイする人に焦点を当てているので、ゲームをたまにしかしない人にも同じ結果が当てはまるかどうかはわからない」と述べています。
ゲームのプレイ頻度との関連は今後の課題となりそうですが、3時間以上夢中で遊んでしまうようなゲームに出会ったときは注意が必要かもしれません。
またゲームプレイでこのような影響が出るということは、デスクワークにおいても似たような傾向は存在する可能性があります。
肩こりや腰痛が気になるという人は、連続3時間以上同じ姿勢を取らないように気をつけてみるといいかもしれません。
参考文献
Excessive gaming causing health issues
https://www.uq.edu.au/news/article/2024/03/excessive-gaming-causing-health-issues
Extended hours of video game play linked to negative physical symptoms
https://www.psypost.org/extended-hours-of-video-game-play-linked-to-negative-physical-symptoms/
元論文
Extended hours of video game play and negative physical symptoms and pain
https://doi.org/10.1016/j.chb.2024.108181
ライター
大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
編集者
海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。