場所や時間を選ばず、空中に映像を映し出す技術が開発されました。
通常、屋外で映像を映し出すときには、スクリーンとプロジェクタが必要で、設置した場所でのみ映像を見られます。
また、こういったプロジェクタでの映像を見るためには、周囲が暗くなる夜でなければなりません。
しかし、大阪大学レーザー科学研究所の山本教授と石野特任教授らの研究グループは、専用のドローンとプロジェクタ、スクリーンを開発し、いつでもどこでも空中に映像を映し出すことに成功しました。
このシステムは「レーザー空中サインシステム」と名付けられています。
レーザー空中サインシステムはどのような技術により実現したのでしょうか?
目次
- 時間と場所を選ばず空中に映像を映し出す「レーザー空中サインシステム」
- レーザー空中サインシステムの活用方法
時間と場所を選ばず空中に映像を映し出す「レーザー空中サインシステム」
大阪大学レーザー科学研究所が開発したのは、いつでもどこでも空中に映像を映し出すためのシステムです。
特徴①スクリーンとプロジェクタが移動可能
スクリーンとプロジェクタはそれぞれドローンに搭載されていて、空中を自由に移動できます。
これにより、ドローンを飛ばすのに十分な空間さえあれば、通常スクリーンやプロジェクタを設置できないような場所でも映像投影が可能です。
映像が投影されたスクリーン自体を動かすことにより、より動的な映像を楽しむことや、より多くの人に映像を見せるられるようになります。
特徴②透過性スクリーン
スクリーンは透過性で、プロジェクタの反対側からも映像を楽しめます。
通常のスクリーンは上記のように光を通すことはできません。
そのため、スクリーンのプロジェクタ側からのみ映像を見ることができます。
しかし、このスクリーンは光を通す特徴があり、全方向で映像を楽しめるようになっています。
また、透過性スクリーンは水や空気が通り抜けられることから風の抵抗を受けにくく、悪天候のときでも使用可能です。
特徴③輝度と彩度が高く、ピントが合いやすいレーザー光
このシステムで採用されているレーザー光は、明るく色が鮮やかです。
よくあるランプやLED式プロジェクタと比べると10倍~100倍もの視認性(見やすさ)があり、明るい昼間でも問題なくはっきりとした映像を見られます。
また、レーザーは自動で周波数や強さを変化できるようになっていて、プロジェクタとスクリーンの距離が変わってもピントが合うようになっています。
ドローンにより動かして使用することが前提のシステムで、プロジェクタとスクリーン間の距離は変化しやすいのですが、常にはっきりとした映像を楽しめます。
レーザー空中サインシステムの活用方法
Credit:READYFOR,大阪大学
レーザー空中サインシステムには、
- 昼でもはっきりと映像が見られる
- ドローンが走行できる場所であれば使用できる
- スクリーンの前後両方とも映像を映し出せる
といった特徴があります。
この特徴により、さまざまな場面で活用可能です。
①ショーやイベント
娯楽目的の使用方法です。
スクリーンに美しくカラフルな映像を映し出せば、ショーやイベントで活躍します。
こういった映像投影によるショーはプロジェクションマッピングがよく使用されますが、プロジェクションマッピングを楽しめるのは夜間だけです。
このレーザー空中サインシステムがあれば、昼間のイベントやショーでも活用できます。
プロジェクションマッピングとは映像の見せ方にも違いがあります。
プロジェクションマッピングは映像を面に映し出し二次元で表現するのに対し、レーザー空中サインシステムは点の移動により三次元の映像を表現可能です。
このように、鳥が空間を前後左右に立体的に動くような映像を楽しめます。
上記のようなメッセージを投影することも可能です。
サプライズでのプロポーズ、記念日のお祝いなどで利用する方法もあります。
②ニュース速報
彩度と輝度が高く、遠くからもはっきりと見えるようなレーザーを使用していることから、文字を表現することも可能です。
何か重大なニュースが起こったとき、レーザー空中サインシステムで空中に文字を映し出せば、外出中の人にもいちはやく情報を伝えられます。
③災害時の避難指示や救難情報
避難所への経路を矢印で表示すれば、災害時の誘導に役立ちます。
レーザー空中サインシステムは昼間でも映像を見られるため、災害がいつ起きたとしても活用可能です。
また、ドローンで空中を移動できることから、人や車が通れなくなった場所にも映像を届けられます。
④道路での指示
Credit:READYFOR,大阪大学
レーザー空中サインシステムは、標識や注意喚起の役割で使用することも検討されています。
道路上に危険物や落下物があるとき、走行に注意が必要なときに、空中や道路上に文字や画像を映し出し、ドライバーに注意を促すような使い方です。
現在こういった情報をドライバーに伝えるための手段として使用されているものは、標識や電光掲示板です。
これらは同じ場所に固定されていますが、レーザー空中サインシステムであればさまざまな場所に移動して、その場に合った映像を映し出せます。
突然の故障者や落下物、道路工事のときにも役立つでしょう。
レーザー空中サインシステム今後の展望
今後、スマートフォンのようにドローンが個人に普及するようなときが来れば、自分専用のレーザー空中サインシステムを使えるようになります。
そうなると、自分の動きに合わせてドローンを動かし、地図や危険表示を見ながら移動できます。
手元のスマートフォン見ながらの歩きスマホや、目線を外してナビを確認するような危険行為をしなくて済み、道路上の安全性が高まることが期待されています。
参考文献
防災にも活用!レーザー空中サインシステムの実用化へ ―クラウドファンディングを活用し社会実装目指す
https://www.osaka-u.ac.jp/ja/guide/public-relations/press_release/23/02/20230201_01
みんなに届く大空からのメッセージ ドローン×レーザー投影
https://readyfor.jp/projects/104939
ライター
永山めぐみ: 大学ではコンピュータサイエンスと数学を主に学びました。卒業研究はArduinoによるマイコン制御。そのほか、生物学、医学、遺伝学、動物に興味があります。今は2.5人(お腹に1人)の育児中。子どもから大人まで楽しめるトピックを探索します。
編集者
海沼 賢: 以前はKAIN名義で記事投稿をしていましたが、現在はナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。