今、スペインで最もホットな女性モデル、アイタナ・ロペス(Aitana Lopez)さんは、月に1万ユーロ(日本円にして約157万円)を稼ぎ出し、SNSでも人気のインフルエンサーです。
しかし実は彼女、この世には存在していないのです。少なくとも私たちと同じようには。
アイタナ・ロペスは何を隠そう、AIによって産み落とされた仮想空間上の人物なのです。
AIが作った仮想のタレントが広告費を荒稼ぎする、そんな時代はすでに訪れているようです。
目次
- アイタナ・ロペスは誰が創り出したのか?
- 有名俳優にナンパされたのがきっかけ?
アイタナ・ロペスは誰が創り出したのか?
アイタナ・ロペスの物語は、スペインでデザイナーをしているルベン・クルス(Rubén Cruz)氏がビジネス上の苦境に立たされていた2022年の夏に端を発します。
クルス氏は実際のモデルやインフルエンサーを起用して広告写真などをデザインする仕事をしていましたが、クライアントが急激に減り、多くの仕事がキャンセルされてしまいました。
クルス氏はこう話しています。
「仕事内容を分析したところ、多くのプロジェクトは、私たちの問題でキャンセルされたわけではありませんでした。
その原因のほとんどは広告のデザインではなく、広告に起用したモデルやインフルエンサーたちにあったのです」
クルス氏によると、エゴが強く、気分屋で、大金を稼ぎたいだけのモデルやインフルエンサーたちの気まぐれに振り回されて、彼らの仕事は立ち行かなくなっていたのだと言います。
そこでクルス氏は自身が創設したAIモデルエージェンシー「The Clueless」のチームと協力し、仮想上の女性モデルを創り上げることにしました。
それがアイタナ・ロペス(Aitana Lopez)だったのです。
技術革新が急速に進んでいる昨今では、AI(人工知能)を使うことで、本物の人間と見紛うばかりにリアルな人物を簡単に生成することができます。
また一度創った同じ人物をベースに、髪型や服装、ポージングを変えながら画像生成することも可能です。
アイタナに個性を持たせる
しかし、単に美しい女性の画像を作るだけでは、モデルとして人々の興味を引くことはできません。
クルス氏はこれまでの経験から、大衆はセレブやモデルの外見よりもむしろ、その人の私生活や趣味、旅行先をチェックするのが好きであることに気づいていたのです。
そこでチームは、アイタナに特徴的な個性を持たせることにしました。
まず、アイタナの年齢は25歳で、ピンク色の髪型を基本とします。
性格は明るく社交的であり、フィットネスやアウトドアが好きですが、ゲームも趣味という特徴を持たせました。
クルス氏とチームは毎週、アイタナの私生活を創造する会議を行っており、彼女が1週間のうちに何をしてどこに行ったのかを決めて、写真作りを行います。
そして完成した写真を彼女の公式インスタグラム(fit_aitana)に公開するのです。
彼女のインスタグラムは瞬く間に人気を博し、ほんの2週間前まではフォロワー数が約12万4000人でしたが、現在ではすでに21万2000人を超えて増え続けています。
では、アイタナの存在は何をきっかけに人々の間で「バズった」のでしょうか?
有名俳優にナンパされたのがきっかけ?
アイタナのSNSでの存在感が急激に大きくなったのは、ほんの数カ月前、あるラテンアメリカの有名俳優が彼女に送ったメールがきっかけでした。
クルス氏によると「ある日、その有名俳優がアイタナをデートに誘うメールを送りました。この俳優には約500万人のフォロワーがいたのです」と話します。
当然、彼はアイタナが存在しない人物であることを知らなかったわけですが、これを機に人々の間でアイタナの認知度が一気に高まりました。
SNS上ではアイタナがAIによって生成された旨が明記されていないため、今でも毎週のように著名人たちからプレイベートメッセージが届いているそうです。
月に1万ユーロを稼ぎ出す人気モデルに
その結果、アイタナはたった一回のモデル広告で平均1000ユーロ(約16万円)を稼ぎ出す売れっ子インフルエンサーとなりました。
彼女の写真を生成するクリエイターによると、1カ月で1万ユーロ(約157万円)以上の売り上げが出ているという。
またアイタナは実際のモデルのように気分屋でもありませんし、ワガママも言いません。
疲れ知らずで何時間でも働くことができ、おまけに給料を要求しません。
クルス氏のような雇い主にとってはこれ以上ない存在です。
これを受けてチームは、真っ白いショートヘアが魅力的な2人目のAIモデル「マイア(Maia)」の生成も始めました。
名前も適当につけているわけではなく、「AI」の単語を含むように設定されています。
アイタナ(Aitana)もそうです。
このように、世の中はすでにAIインフルエンサーの時代が到来しています。
日本でもグラビア写真集の売れ行きはすでにAIタレントが席巻するようになっているのをご存知でしょう。
とはいえ、AIモデルやタレントを使った取り組みに批判がないわけではありません。
クルス氏の元には「AIモデルの非現実的な見た目の完成度に影響されて、若者たちがその不自然な完璧さを追求することに夢中になってしまうのではないか」とか、「性的に過激なイメージを作って世の中に流通させることに問題がある」などの批判が寄せられているといいます。
今後、アイタナの成功を受けてAIモデルが世界中に現れるのか、それとも人々の批判によってAIの人物生成に歯止めがかかるのか、注目が集まります。
参考文献
This attractive Spanish model makes over $1,000 per ad — and she’s AI generated
https://www.zmescience.com/science/this-attractive-spanish-model-makes-over-1000-per-ad-and-shes-ai-generated/
Who is Aitana Lopez? 25-year-old Spanish AI model who earns $10,000 per month
https://www.wionews.com/trending/who-is-aitana-lopez-25-year-old-spanish-ai-model-created-who-earns-10000-per-month-664292
Meet the first Spanish AI model earning up to €10,000 per month
https://www.euronews.com/next/2023/12/02/meet-the-first-spanish-ai-model-earning-up-to-10000-per-month
ライター
大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
編集者
海沼 賢: 以前はKAIN名義で記事投稿をしていましたが、現在はナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。