地球から約100光年離れた恒星・HD 110067の周りを公転する6つ子の系外惑星が発見されました。
しかもこの6つ子たちは、隣り合う惑星同士の公転周期がすべて「尽数関係」にあったのです。
尽数関係とは耳慣れない言葉ですが、意味はシンプルで、天体同士の公転周期が2:3、3:4のように簡単な整数比で表されることを指します。
系外惑星は今までに5000個以上見つかっていますが、その中で3つ以上の惑星が尽数関係にある惑星系は両手で数えるほどしかないという。
今回のように6つの惑星がすべて尽数関係にある惑星系は、きわめて貴重な発見です。
研究の詳細は、東京大学大学院 総合文化研究科、米シカゴ大学(University of Chicago)らにより、2023年11月29日付で科学雑誌『Nature』に掲載されています。
目次
- 「トランジット法」で系外惑星を発見!
- 系外惑星は6つ子だった!しかも全てが尽数関係に
「トランジット法」で系外惑星を発見!
かつてピタゴラスは、琴の弦が整数比であるときに音が調和して和音を作るという音程の基礎理論を発見しました。
そして彼はこれが宇宙をも支配する法則であり、惑星軌道は整数比で構成され惑星たちが起動を巡るとき宇宙には調和した音楽が鳴り響くと考えたそうです。
そんな数学的に美しく調和した星系が発見されたようです。
今回の舞台となる恒星・HD 110067は地球から約100光年の距離にあり、太陽の約8割の質量と半径を持っています。
この恒星に対して、アメリカ航空宇宙局(NASA)の宇宙望遠鏡TESSは、2020年3~4月と2022年2~3月にかけて明るさの変化を調査するトランジット法の観測を行いました
トランジット法とは、食(惑星が通過によって主星が隠れること)を利用して、遠くの直接見ることができない系外惑星を発見する手法の一つです。
ある惑星が主星の手前を通過すると、照明の前を人が横切るのと同じように、主星の見かけ上の明るさがわずかに暗くなります。
その減光を利用して系外惑星を見つけるのがトランジット法です。
そしてTESSの観測により、約9.11日と約13.67日の周期で主星の前を通過する2つの系外惑星が発見されました。
ところがTESSのデータを見ると、この2つ以外にもトランジットによる減光がいくつも起きており、他にも惑星が存在することが明らかとなりました。
しかもそれらの惑星たちは全て、数学的な美しいつながりがあったのです。
公転周期が「尽数関係」になっていた
研究チームは、他の系外惑星の存在を特定すべく、トランジットの形(減光の深さと継続時間)に注目しました。
惑星の通過によるトランジットは毎回同じ形をしているので、それによってそれぞれの系外惑星を見分けることができるのです。
そしてチームはTESSのデータから、別の2種類のトランジットが2020年と2022年に1回ずつ観測されていたことを見出しました。
観測を行った結果、2種類のうちの1つは約20.52日の周期で主星の前を横切っていることが判明したのです。
これで系外惑星は3つ目となります。
チームは3つの惑星の公転周期(9.11日、13.67日、20.52日)から、隣り合う惑星の公転周期の比がそれぞれ2:3になっていることに気づきました。
つまり、公転周期が互いに「尽数関係」にあったのです。
尽数関係にある天体は太陽系内にもあり、例えば、木星の3つの衛星であるイオ・エウロパ・ガニメデは、それぞれの公転周期の比が1:2:4になっています。
3つ以上の天体が尽数関係にあるものは非常に珍しく、ほとんど発見例がありません。
ただHD 110067の場合は3つ子で終わりではありませんでした。
先に見つかった2種類のトランジットのもう一方を調べてみると、約30.79日の周期で公転する4つ目の系外惑星が見つかったのです。
これは約20.52日で公転する惑星との周期比が見事に2:3になります。
さらに、これら4つの惑星には互いに共鳴し合う兄弟が他にもいたのです。
系外惑星は6つ子だった!しかも全てが尽数関係に
チームは2022年のTESSデータから、新たに2つのトランジットの存在を見出しました。
この2つはそれぞれ1回しかトランジットが見つかっていないため、正確な周期が分かりません。
しかし、先の4つの惑星がすべて尽数関係にあることを踏まえると、これら2つも尽数関係にあると考えるのが自然です。
そこでチームは、5つ目の惑星の周期は4つ目の惑星(約30.79日)に対して尽数関係をもち、さらに6つ目の惑星の周期は5つ目の惑星に対して尽数関係をもつと仮定しました。
そして1:2、2:3、3:4、4:5、5:6と様々なシナリオを想定しつつ、追加観測をした結果、見事に5つ目の惑星の周期は4つ目の惑星(約30.79日)に対して3:4となる約41.06日、そして6つ目の惑星の周期は5つ目の惑星(約41.06日)に対して3:4となる約54.77日であることが判明したのです。
以上から、HD 110067を公転する6つの系外惑星はすべて尽数関係を持つという驚異的な結果となりました。
こうした惑星系では、原始惑星円盤の中から複数の惑星が兄弟姉妹のように誕生しますが、その公転軌道はちょっとした要因で簡単にズレてしまうため、これほど美しく規則的に共鳴している惑星系はきわめて珍しいです。
この6つ子たちは、その成長時に軌道を乱すような障害にまったく遭わなかった可能性が高いと見られます。
こちらは6つ子の惑星の公転イメージを動画にしたものです。
またチームによると、6つの惑星は地球の1.9~2.9倍の半径があり、質量測定の結果、そのサイズの割には軽い(体積密度が低い)ことから、水素の外層を持つサブネプチューン(地球より大きく海王星より小さいサイズのガスや氷などから構成される厚い大気を持つ惑星)であると考えられています。
公転周期からも主星(太陽)に近い惑星なのは明らかなので、この点(太陽に近いサブネプチューン)も興味深い部分でしょう。
なお、7つ目以降の惑星の存在も示唆されており、今後の調査次第では、さらに兄弟の数が増えるかもしれません。
参考文献
共鳴し合う6つ子の惑星を発見――全ての隣り合う惑星の公転周期が尽数関係を持つ惑星系HD 110067――
https://www.u-tokyo.ac.jp/focus/ja/press/z0109_00101.html
Scientists discover rare 6-planet system that moves in strange synchrony
https://news.uchicago.edu/story/scientists-discover-rare-6-planet-system-moves-strange-synchrony
元論文
A resonant sextuplet of sub-Neptunes transiting the bright star HD 110067
https://www.nature.com/articles/s41586-023-06692-3
ライター
大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。
他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。
趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
編集者
海沼 賢: 以前はKAIN名義で記事投稿をしていましたが、現在はナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。