地球から132億光年先で太陽質量の1000万倍以上という観測史上最古となる超大質量ブラックホールが発見されました。
従来の理論では超大質量ブラックホールは、巨大なブラックホールが融合しながら少しずつ時間を掛けて形成されると考えられています。
そのため宇宙誕生の約4億7000万年後にはすでに超大質量ブラックホールが存在しているという事実は、従来の理論では説明することができません。
しかし米ハーバード・スミソニアン天体物理学センター(CfA)によると、今回の発見は2017年に発表された新しいブラックホール形成理論で予言されている「アウトサイズ・ブラックホール(Outsize Black Hole)」に一致するといいます。
それは一体どんなブラックホールで、どのように誕生するのでしょうか?
研究の詳細は、2023年11月6日付で科学雑誌『Nature Astronomy』に掲載されています。
目次
- 史上最古のブラックホールを発見
- 新しい理論で予言されていたブラックホールと特徴が一致する⁈
史上最古のブラックホールを発見
今回の超大質量ブラックホールは、アメリカ航空宇宙局(NASA)のチャンドラX線観測衛星とジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)を用いた観測により、地球から約35億光年の場所にある銀河団Abell 2744の方向で発見されました。
ただし超大質量ブラックホールはAbell 2744の内に存在するわけではなく、その遥か後方に位置する「UHZ1」という銀河の中で見つかっています。
今回の観測はこの銀河団Abell 2744を利用した重力レンズ効果によって観測されていて、非常に遠方の初期宇宙を観測することに成功したのです。
そんなUHZ1は地球から約132億光年先にあり、その内側から非常に強烈なX線を放つ超大質量ブラックホールが検出されました。
こちらはチャンドラのX線画像とJWSTの赤外線画像を重ね合わせたものです。
四角で囲った中に、超大質量ブラックホールの光とその親銀河であるUHZ1が写っています。
これまでの研究で、非常に強烈なX線は超大質量ブラックホールが成長しつつあるサインであることが分かっています。
そしてチームは、このX線の明るさから超大質量ブラックホールの重さが、少なくとも太陽1000万個分から最大で1億個分に相当すると推定しました。
この質量は、親銀河UHZ1にある全ての星を総合計した重さと同等だといいます。
過去に見つかっている超大質量ブラックホールの重さは一般に、親銀河にある星の総合計の10分の1程度しかありません。
この点からもUHZ1にあるブラックホールは異常な大きさであることが伺えます。
その一方で、ある問題点が指摘されました。
チームの推定では、この超大質量ブラックホールが形成されたのはビッグバンの約4億7000万年後です。
通常ブラックホールは巨大な恒星が寿命を終えて、自らの重力により崩壊することで誕生します。
そして従来の理論では、超大質量ブラックホールはこうしたブラックホールが融合を繰り返しながら徐々に成長して形成されると考えられているのです。
ただ、このようなブラックホールの成長速度には物理的な限界があり、宇宙誕生後のわずか4億7000万年内に、これほど巨大なブラックホールが存在することを説明できません。
しかし、今回の観測は132億光年先に超大質量ブラックホールが確かに存在していることを示しています。
この謎に答えられるのは、新しい理論で存在が予言されていた「アウトサイズ・ブラックホール(Outsize Black Hole)」でした。
新しい理論で予言されていたブラックホールと特徴が一致する⁈
アウトサイズ・ブラックホールとは、本研究主任の一人で米イェール大学(Yale University)の天体物理学者であるプリヤンヴァダ・ナタラジャン(Priyamvada Natarajan)氏が2017年に提唱した新しいブラックホール形成理論から予測されていた天体です。
この理論では、超大質量ブラックホールが恒星質量ブラックホールの融合の繰り返しではなく、広大なガス雲の重力崩壊によって誕生する非常に巨大なブラックホールをスタート地点にして成長していくと仮定されています。
この場合、恒星質量ブラックホールの融合よりも遥かに速く、超大質量ブラックホールの形成が進むことになります。
ナタラジャン氏によれば、ガス雲を”種(タネ)”とすれば宇宙誕生後の数億年内でも超大質量ブラックホールは誕生しうるというのです。
では、その具体的なプロセスを下図を参考に見てみましょう。
まず、左上の1番は広大なガス雲と銀河が互いに接近する様子です。
ナタラジャン氏の説明では、銀河からの放射によってガス雲の中での星形成が妨げられ、新たな銀河になることができず、その代わりにガス雲が重力崩壊を起こしてブラックホールの形成に転じるという。
2番はガス雲の中心部で重力崩壊が始まる瞬間で、3番はそれをズームアップしたものです。
そして4番で小さなブラックホールが産声をあげ、5番で周囲の塵やガスを取り込んでブラックホールと降着円盤(赤い光の部分)が成長。
さらに成長したブラックホールは接近する1番の銀河を飲み込んで、6番の超巨大なアウトサイズ・ブラックホールとなるのです。
アウトサイズ・ブラックホールはその後も、塵やガスを飲み込んで成長を続けます。
これは木を成長させる際に、種から育てるか、苗木から育てるかのような違いだと言います。
ナタラジャン氏によると、今回の超大質量ブラックホールが、その親銀河とほぼ同じ質量になるという質量比などの特徴が、ガス雲による重力崩壊のブラックホール形成の予測と特徴が一致すると話しています。
そのため今回の発見を受けて、「これがアウトサイズ・ブラックホールの存在を証明する初の成果であり、一部のブラックホールは巨大なガス雲によって形成され得ることを示す最良の証拠になると考えている」と述べました。
ただ、その真相を確かめるには更なる追加調査が必要です。
宇宙の始まりや超大質量ブラックホールの起源について、人類はまだまだ知らないことだらけなのでしょう。
参考文献
NASA Telescopes Discover Record-Breaking Black Hole https://www.nasa.gov/missions/chandra/nasa-telescopes-discover-record-breaking-black-hole/ UHZ1: NASA Telescopes Discover Record-Breaking Black Hole https://chandra.harvard.edu/photo/2023/uhz1/ Telescopes spot the oldest and most distant black hole formed after the big bang https://edition.cnn.com/2023/11/07/world/most-distant-black-hole-webb-chandra-scn/index.html元論文
Evidence for heavy-seed origin of early supermassive black holes from a z ≈ 10 X-ray quasar https://www.nature.com/articles/s41550-023-02111-9