「モテる男性のタイプ」は、時代によって移り変わります。
しかし、なぜ「モテるタイプ」は特定の形で定まらず、時間とともに変化していくのでしょう? そもそも、「好み」は人それぞれ異なるはずなのに、「モテるタイプ」が時代ごとに固定化されていくプロセスも不思議です。
この人間における「モテるタイプ」の変化は、動物の世界でも見ることができます。
同じ動物種であってもメスの好みはそれぞれで、時間の経過に伴い変化するのです。
なぜこうしたことが起こるのでしょう? この問題に米国の研究者らが、数学的モデルを用いて挑みました。
このモデルによると、メスが特定のオスを選択すると、そのオスの特徴が集団内で広まります。しかし、時間が経つとその「際立った特徴」だったものが一般化され、その結果、魅力が減少します。これが原因で、メスの好みが切り替わる可能性があるのです。
研究の詳細は、2023年10月3日付の『PLOS BIOLOGY』誌に掲載されています。
目次
- メスの「好み」が時とともに変わる理由はわかっていない
- メスは「他の女子」に選ばれしオスを選ぶ傾向がある
- 「モテ男」の特徴が一般化されると「モテなくなる」
メスの「好み」が時とともに変わる理由はわかっていない
「性淘汰(せいとうた)」とは、繁殖に成功する個体が選ばれるという自然の選別過程を指します。
この中で、一方の性がもう一方の性を選ぶ形態の性淘汰は「配偶者選択」と呼ばれます。動物界では一般的に、メスがオスを厳選することが多いです。
その主な理由は、オスは精子の提供だけで済むのに対し、メスは卵を産む、子を育てるといった多くの労力を必要とするからです。質の低いオスと交尾すると、メスにとってのコストが高くつくのです。
性淘汰は、性的選択によって起こる進化のメカニズムでもあります。メスの選り好みの結果、オスはメスを引きつける特徴を持つように進化することがあります。
この進化で有名な例は、クジャクの長く美しい尾羽です。この尾羽は生存には不利ですが、メスへのアピールとしては非常に有用です。
ただし、メスがオスを選ぶのは、クジャクの尾のような目立つ特徴だけでなく、他の遺伝的に有利な生存能力、繁殖能力も考慮されます。
性淘汰は多様な形で現れ、その理論もさまざまに展開されています。しかし、これまでの性淘汰の理論では、「同じ種でありながらオスの特徴が多様である理由」や、「メスの好みが個体によって異なり、また時間とともに変わる理由」を説明することができませんでした。
この問題を明らかにするため、米国フロリダ州立大学(Florida State University)の研究者たちは、数学モデルを用いてシミュレーションを行いました。
その結果、動物がどのように交尾相手を選ぶのか、そしてなぜ同じ種の個体でも好みが異なるのかを説明しました。
メスは「他の女子」に選ばれしオスを選ぶ傾向がある
この研究で用いられた数学モデルは、新たに提唱された「推測される魅力(Inferred Attractiveness)仮説」に基づいて作られたものです。
「推測される魅力仮説」とは、メスが他のメスの交尾相手選びを観察し、その情報に基づいて自分自身の交尾相手を選ぶという仮説です。具体的には、以下のようなプロセスが含まれます。
- 若いメスは、経験豊富なメスがどのオスを選ぶかを観察し、「オスの魅力」についての一般的な見解を学ぶ
- 若いメスは、「選ばれしオス」と「選ばれなかったオス」を比較し、どの特徴や特性が選ばれしオスの際立った魅力であるかを学習する
- 若いメスは、その後の交尾選択で、学習した特徴・特性に最も合致する相手を選ぶ
例えば、「経験豊富なメスが赤い羽のオスと一緒にいるのを見た若いメスは、赤い羽を持つオスを交尾相手に選ぶ可能性が高くなる」というのがこの仮説です。
ただし、このプロセスが完璧に機能した場合の問題点は、すべてのメスが赤い羽のオスを選んだ場合、すべての個体の羽が赤色に近くなり、色の多様性が失われる可能性があることです。
これでは、メスの好みが時間とともに変わる現象を説明できません。多様性がなければ、メスは好みを移ろわせることができなくなるからです。
そこで研究者らは、この問題に対処するために、現実世界で起こり得る要素をモデルに追加しました。それは「若いメスが経験豊富なメスの選択理由を間違って解釈する」という事象です。
たとえば上の図では、経験豊富なメスは「赤い羽」に魅力に感じてオスを選びましたが、観察する若いメスは「長い尾」が魅力的だと学習しています。
研究チームは、数学モデルに「若いメスが間違いを犯す可能性」の考慮をくわえ、シミュレーションを行いました。
すると、現実世界と同じように、メスの好みが時とともに変わることが確認できたのです。
さて、これは「なぜ」起こったのでしょう?
「モテ男」の特徴が一般化されると「モテなくなる」
メスが他のメスから学び、同じ特徴(例:赤い羽)を持つオスを選ぶと、その特徴は集団内で広まります。その結果、他の特徴(例:青い羽)は減少していく傾向があります。
しかし、メスが珍しい特徴(例:青い羽)を持つオスを選びはじめると、他のメスもその行動を真似し始めます。この影響は大きく、シミュレーションでは、マイナーな特徴が短期間でメジャーな特徴を上回ることも確認されています。
さらに時間軸を長くとった観察では、マイナーだった特徴が増えすぎて「一般化」することで、メスにとっての魅力が減ることが確認されています。
メスは他の女子と同じタイプを好きになることで「モテ男タイプ」を形成しますが、魅力に思えていた特徴が珍しくなくなると、他のタイプに心が移ってしまうのです。
ゆえに一つの特徴が集団内で支配的になることはないようです。
言い方を変えると、「メスの移り気のためにオスは多様であり続け、多様であることによってメスの新たな嗜好を満足させている」と言えます。
本研究は、あくまでも数学モデルを用いたシミュレーションに基くものですから、現実世界がどうであるかは、実際に長期に観察しなければわかりません。
ただ言えることは、もしあなたが「現代のモテ男タイプ」に合致していなかったとしても、悲観する必要はないということです。
数世代後には、あなたの「珍しい」特徴や特性が、評価される時代が来るかもしれませんから。
あなたが悪いのではなく、ただ時代に合っていなかったというだけなのかもしれないのです。
参考文献
New study by FSU biologist challenges old ideas about choosing mates –Florida State University News https://news.fsu.edu/news/science-technology/2023/10/03/new-study-by-fsu-biologist-challenges-old-ideas-about-choosing-mates/元論文
Inferred Attractiveness: A generalized mechanism for sexual selection that can maintain variation in traits and preferences over time | PLOS Biology https://journals.plos.org/plosbiology/article?id=10.1371/journal.pbio.3002269