強制的にビーガンにさせられるかもしれません。
米国のCDC(アメリカ疾病予防管理センター)はマダニに刺されることで牛や豚など哺乳類の肉や乳製品を食べられなくなる「アルファガル症候群」が増加していることを受けて、医師たちの症例にかんする知識を調査しました。
結果、調査対象となった医師のほぼ半数がアルファガル症候群について知らず、発症した場合に適切な処置を受けられない可能性が示されました。
今回はマダニに刺されるだけでなぜ「肉類」を食べられなくなるのかを解説するとともに、治療法の有無や予防策についても紹介したいと思います。
肉好きやアスリートにとって致命的となるマダニは、いったいどこに潜んでいるのでしょうか?
発表内容の詳細は2023年7月28日にCDCのホームページにて公開されました。
目次
- 刺されると「肉」が食べられなくなるマダニが急加
- アルファガル症候群に治療法が存在しない
刺されると「肉」が食べられなくなるマダニが急加
「孤独の星」の名前を持つマダニに刺されると、哺乳類の肉(牛肉、豚肉、鹿肉など)、乳製品、ゼラチン、一部の薬剤に対してアルファガル症候群 (AGS)という危険なアレルギーを引き起こす可能性があります。
アルファガル症候群として知られるこの症状は、ほとんどの非霊長類哺乳類の肉に含まれるアルファガル(ガラクトース-α-1,3-ガラクトース)に対する免疫の誤反応によって引き起こされます。
通常、人が牛や豚などの非霊長類哺乳類の肉を食べても、体は肉の部品の1つに過ぎないアルファガルには反応しません。
しかし、家畜を噛んだマダニが家畜の肉の部品(アルファガル)を体内に溜め込み、さらに人間を噛むことでアルファガルが体内に入り込むと厄介なことがおこります。
「肉の部品(アルファガル)」は単体では無害ですがマダニの唾液と一緒に入り込むことで免疫系が勘違いを起こして敵と認識し、次回以降にアルファガルを含む哺乳類の肉を食べると、免疫反応が体を駆け巡りアレルギーを起こしてしまうのです。
不良(マダニの唾液)と一緒にやってきたことで何の害もない真面目な学生(アルファガル)も不良の一味とし警察(免疫)に認定されてしまうようなものです。
この症例で最も一般的にみられるのが胃腸症状で下痢や嘔吐などが起こります。
また蕁麻疹が出る患者も報告されています。
しかし反応が激しいとアナフィラキシーを発症する患者もおり、呼吸困難など深刻な状態に陥ることもあります。
今回のCDCの調査ではアルファガル症候群について医師たちがどれほどの知識を持っているかが確かめられていましたが、42%はそもそもアルファガル症候群を知らず、また知っている医師も正確に診断できる自信があると答えたのは35%ほどになっていました。
しかし本当の問題は、もっと別にありました。
アルファガル症候群に治療法が存在しない
最も大きな問題、それは現在のところアルファガル症候群の治癒法がないことです。
そのためアルファガル症候群になってしまった患者は哺乳類の肉や乳製品全般の摂取を避ける生活をはじめることになります。
ただアルファガルは哺乳類ではない鶏肉や魚肉には含まれていないため、ある程度の代用は可能です。
(※なお余談ですが人間の肉にもアルファガルは含まれていません)
また幸いなことに、一度噛まれただけならば症状は5~6年かけてゆっくりと収まっていきます。
これはアルファガルを敵と認識する免疫細胞の記憶がその期間しか持続しないことに起因します。
しかし二度目に噛まれるとアルファガルに対する免疫記憶が一生涯続くようになり、多くの人は二度と哺乳類の肉を食べられなくなってしまいます。
牛肉や豚肉やミルクを愛する人々にとっては残酷な結末と言えるでしょう。
他にも意外なものが食べられなくなることがあります。
薬を包むゼラチンは哺乳類などの動物の皮膚や腱などに含まれるコラーゲンから作られているため、アレルギーを起こしてしまうことがあるのです。
またマシュマロのようなお菓子は哺乳類と無関係に思えますが、乳成分が添加されていることがあるため、アレルギーが起こってしまうことがあります。
他にも哺乳類の肉や乳成分が含まれている食品は多岐に及んでおり、アルファガル症候群になった人は大幅に食の自由を奪われてしまうことになります。
しかもこのマダニは極めて貪欲で、住処となる森林に人間が入ったのを感知すると、近寄って噛みつこうとします。
さらに近年、気候変動にともないマダニの活動期間が増加しており、被害者が増え続けていることも指摘されています。
CDCは現在、米国には50万人ほどのアルファガル症候群の患者がいると推測しています。
研究者たちは、マダニをみつけたらすぐに払い落としたりして、とにかく噛まれないようにすることが唯一の防衛法だと述べています。
参考文献
Health Care Provider Knowledge Regarding Alpha-gal Syndrome — United States, March–May 2022 https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/72/wr/mm7230a1.htm?s_cid=mm7230a1_w Regions Where Ticks Live https://www.cdc.gov/ticks/geographic_distribution.html