超大陸とダイヤは深く結びついていました。
英国のサウサンプトン大学(Soton)で行われた研究によって、超大陸の分裂が引き金となり、ダイヤモンドが地上に出現していたことが示されました。
ダイヤモンドの多くはキンバーライトと呼ばれる冷えたマグマと一緒に産出するのですが、研究者たちが10億年にわたる噴火データを調べたところ、超大陸が分裂する時期になるとやや遅れてキンバーライトを含む噴火が起きていたのです。
このことはダイヤモンドの地上への出現が、超大陸の終焉と深く関連していることを示しています。
いったいなぜ、超大陸が割れると地下のダイヤモンドが地上に現れるのでしょうか?
研究内容の詳細は2023年7月26日に『Nature』にて「Rift-induced disruption of cratonic keels drives kimberlite volcanism」のタイトルで掲載されました。
目次
- 超大陸の死がダイヤモンドを地上に出現させたと判明!
- 超大陸が分裂すると「大陸の底」が落下する
超大陸の死がダイヤモンドを地上に出現させたと判明!
ダイヤモンドは膨大な圧力と高温に晒された炭素よって作られています。
ダイヤモンドが作られるような高温高圧は地球のかなり深い場所に限られていますが、ダイヤモンド鉱山の多くは人類が採掘できるような地球表層に存在しています。
生成場所と存在場所の食い違いが起きる主な原因は、ダイヤモンドが存在する大深度から地上に向けた超高速のマグマ噴出が起きたためです。
噴出が高速になる理由は、マグマの通り道が極めて細いからです。
ダイヤモンドを含むマグマの通り道は深い場所ではわずか直径数メートルの細い管ですが、地上に近づくにつれてニンジンの下から上に進むようにマグマが拡散し、直径数百メートルの巨大な噴火口が一瞬で形成されます。
結果、ダイヤモンド鉱山の多くは、上の図のように漏斗状に採掘が行われています。
またこのとき、マグマの通るパイプの管部分にはキンバーライトと呼ばれる、火成岩が形成されます。
そのためダイヤモンド鉱山の多くでは、ダイヤモンドはキンバーライトと一緒に産出されます。
上の図では、キンバーライトに埋もれる形でダイヤの結晶がみえています。
そのような激しい噴火が起こる場所としては通常、プレートが衝突したり生成される火山地帯やハワイのような火山のホットスポットが思い起こされるでしょう。
しかし火山の多い日本やハワイには、ダイヤモンド鉱山はありません。
それどころか、ダイヤモンドの産地を調べると、その多くがプレートの端からかなり離れた大陸の内陸部などに存在していることがわかります。
さらに興味深いことに、ダイヤモンドと一緒に産出するキンバーライトの成分を調べたところ、通常の火山噴火とは全く異なるパターンを示していました。
研究者たちの言葉を借りると「化学的に噴火の臭いがまったくしない」とのこと。
つまりダイヤモンドとキンバーライトを含むマグマは、通常の火山とは異なる仕組みで、分厚い大陸プレートの底から上に向けて一気に噴出したのです。
しかし、なぜダイヤモンドを含むマグマは一般的な火山地帯ではなく、大陸の底から高速で飛び出して来るのでしょうか?
謎を解明するため、サウサンプトン大学が目をつけたのが超大陸の分裂でした。
研究者たちは過去10億年にわたる大陸移動を追跡し、キンバーライト噴火が起こった時期を比較しました。
すると驚いたことに、多くのキンバーライトの噴火が超大陸が分裂した2600万年後に、大陸内部で起きていたことが判明したのです。
上の動画では、キンバーライトの噴火が起きた位置を点で示しており、超大陸が裂けていく場所から少し内陸の位置で、噴火が起きていることが示されています。
この結果は、超大陸の分裂がダイヤモンドが地表に出現するためのトリガーになっていたことを示しています。
しかし、なぜ超大陸分裂直後ではなく、2600万年ものタイムラグがあったのでしょうか?
超大陸が分裂すると「大陸の底」が落下する
なぜ超大陸の分裂から2600万年後にダイヤモンドを含むキンバーライトの噴火が起こったのか?
謎を解明するため、研究者たちはコンピューターモデルを用いて、超大陸の分裂によってプレートの下で何が起こるかを調べてみました。
すると上の図のように、地下からのマグマの吹き出しで大陸プレートが引き裂かれると、地下のマグマで激しい対流が発生し「大陸の底」にあたる薄い色の部分が流れによって砕かれ、次々に水飴のように沈み込みを起こしていることがわかりました。
沈み込んでいく大陸の底には、炭素源となる炭酸塩と二酸化炭素が豊富に含まれており、既にダイヤモンドの形成が進んでいたと考えられます。
また加熱された大陸の底は上向きの流れに乗り、しばしば地表に向けた爆発的な噴火を起こします。
この爆発的な噴火が起こると、地上に向けてたマグマがダイヤモンドごと噴出し、後のダイヤモンド鉱山となるのです。
また上の動画では対流の連鎖が一瞬で起こるようにみえますが、実際には非常に長い月日がかかるプロセスであり、2600万年ものタイムラグの原因となっています。
これまでの研究では、最近のキンバーライトの噴火が1万1000年前のタンザニアで起きたことが知られていますが、それ以外のほとんどは1億4600万年前から6600万年前の間に起きたと考えられています。
王家の宝石や結婚指輪などに使われるダイヤモンドが、超大陸の分裂に端を発する奇妙な噴火によって地表に現れたという事実は、実に興味深いと言えるでしょう。
もし今後、ダイヤモンド鉱山が漏斗状になっている理由を人に聞かれたら、対流する「大陸の底」と「ダイヤモンドがちりばめられた細いパイプ」の話をしてあげるといいかもしれません。
参考文献
New geology study cracks the code of what causes diamonds to erupthttps://phys.org/news/2023-07-geology-code-diamonds-erupt.html
元論文
Rift-induced disruption of cratonic keels drives kimberlite volcanismhttps://www.nature.com/articles/s41586-023-06193-3