犬が過剰摂取すると危険な食材とは
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犬でも猫でも、あるいは人間でも、ある種の食品を過剰に摂取してしまうと中毒症状に陥ったり、最悪の場合死に至ったりする危険があります。“過ぎたるは猶及ばざるが如し”という言葉の通りで、時に悲しい結果を生み出すのが過剰摂取です。
では犬の場合、過剰摂取すると危険な食品にはどんなものがあるでしょうか?
危険な食材―1.アルコール
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犬にとってアルコールは毒と同じです。人間はアルコールを処理する仕組みが生まれながらに備わっていますが、犬にはまったくありません(猫もアルコールを処理できません)。
そのため、アルコールを飲ませたり不意に飲んでしまったりするようなことがあれば、その時点で命に危険が及ぶことになります。犬にとってアルコールがそれほど危険なのはなぜでしょうか?
アルコールには毒性がある
アルコールはそもそも「毒」と呼べるほどの性質を持っています。アルコールが生活や経済に不可欠なものとなっている人間にとってさえ、「アルコールは毒」と公言してはばからない医師が非常に多くいます。
適量はむしろ健康に良いという研究結果ですら、少人数を対象にした研究内容や細胞実験などのデータが多く、本当の意味でアルコールの健康効果が実証されたわけではありません(諸説あり)。
お酒は世界中で広く受け入れられており、ほとんどすべての国で年齢制限こそあるものの、完全に禁止している国は現在一つもありません。そのような人間の世界ですら、アルコールは体に害を及ぼす可能性の方が大きいのです。
そんな飲み物を、耐性が全くない犬に与えてしまうとその危険性は言わずもがなです。アルコールをそれほど危険にしているのは、肝臓で処理できない毒性です。
アルコールの毒性の原因
アセトアルデヒドは有機化合物の一種で、犬などの動物には毒性のある有害物質です。アセトアルデヒドはアルコールが肝臓で分解されることで発生し、そこからさらに酢酸、水と炭酸ガスへと分解されます。
しかし、アルコールの真の危険性はこれだけではありません。犬はアルコールをそもそも分解することさえ出来ないという点も挙げられます。
アルコールは、ご存知のように神経を麻痺させる作用があり、人間の場合だと幾分ふわっとした感覚や気持ちよく「ほろ酔い」になります。
しかしこれが犬にとっては非常に危険で、犬は直接アルコールの影響を受け様々な感覚器官がすぐに麻痺してしまう危険性が高く、それに至る量も非常に少ないのが特徴です。
人間が急性アルコール中毒になるにはそれなりの量を必要としますが、犬ははるかに少ない量でも生命の危険が生じてしまうことになります。人間と違ってアルコールの影響をもろに受けてしまう犬の場合、すぐに中枢神経系が麻痺してしまい、歩行や呼吸、心臓などの運動が阻害されてしまいます。
後述する致死量や個体差によって差はあるものの、呼吸や鼓動を管理する神経や脳の働きが麻痺すると、当然ながら心肺停止状態に突入してしまいます。急性アルコール中毒のリスクが非常に高く、そこまで至らなくてもアルコールが体内にずっと残ってしまうのが犬の体です。
一般的に致死量とされているアルコール量
以下に、一般的に犬にとっての致死量とされているアルコール量を挙げてみます。すべての個体で確認されている数値ではないものの、この量を飲んでしまうと命にかかわる中毒状態になり得る数値です。
・犬の体重1kg
アルコール度数5パーセント未満110ml
アルコール度数15パーセント未満40ml
アルコール度数40パーセント未満13ml
・犬の体重2kg
アルコール度数5パーセント未満220ml
アルコール度数15パーセント未満80ml
アルコール度数40パーセント未満26ml
・犬の体重3kg
アルコール度数5パーセント未満330ml
アルコール度数15パーセント未満120ml
アルコール度数40パーセント未満38ml
・犬の体重4kg
アルコール度数5パーセント未満440ml
アルコール度数15パーセント未満160ml
アルコール度数40パーセント未満52ml
・犬の体重5kg
アルコール度数5パーセント未満550ml
アルコール度数15パーセント未満200ml
アルコール度数40パーセント未満65ml
度数40パーセントのお酒が13mlといえば、ショットグラス(30~45ml)のさらに3分の1程度であり、これを一気に摂取すると死んでしまうということになります。
しかもこれはあくまで致死量であり、この量に達しなければ命に別状はないというデータではありません。個体差によって、一口飲んだだけで死んでしまった小型犬の話や、一舐めしただけで昏睡状態になってしまった話も決して珍しくありません。
以上のような理由から、犬にアルコールを絶対に与えてはいけません。ふざけてお酒を飲ませてみたり、こぼれたのを舐めて千鳥足になるのが面白くてもう少し与えてみたりして、飼い犬を死なせてしまった方もいます。
あるいは、「甘いカクテル系のお酒の香りにつられて机の上のグラスから飲んでしまった」「自分が飲んで寝ている間に犬が飲んでしまい、目が覚めると目の前で痙攣していた」というようなアクシデント的なケースも実際に聞かれます。
知らなかったでは済まないのが犬の飲酒であり、このような事態を避けるためにも自宅で飲む際は最大限注意を払っていかなければなりません。
余談ですが、猫も同じようにアルコールへの耐性がまったくなく、体重や体格が小さい分死に至る危険性が高まります。しかし、犬のように甘味を感じる味覚を持ち合わせていないため、カクテルや甘酒の甘い香りに誘われて飲んでしまう危険性は少なくなるでしょう。
危険な食材―2.たまねぎ・ねぎ類
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こちらは、アルコールと比べてさらによく知られた危険な食材です。犬はたまねぎやねぎ類を摂取すると最悪の場合死に至る危険性があります。その理由や危険な摂取量を見てみましょう。
たまねぎ・ねぎ類が危険な理由
ねぎ類の植物には、「アリルプロピルジスルファイド」「n-プロピルジスルファイド(ジアリルプロピルジスルファイド)」という物質が含まれています。
あのたまねぎやねぎのツンとする香りの原因物質ですが、これらは赤血球に含まれるヘモグロビンを酸化させ、酸素供給を阻害します。これにより溶血性貧血を起こし、その毒性は加熱しても冷凍しても消えることはありません。
俗にたまねぎ中毒とも言われ、根本的な治療法もない厄介な症状です。付け加えると、ニンニクも同じ症状を発生させるため、同じように注意しなければなりません。
人間の場合、過剰摂取によって障害が発生することもありますが、少ない量で害を受けるような中毒症状は発生しません。
たまねぎ・ねぎ類の致死量
症状の程度は個体によって違い、基本的には体重が重く体格が大きい方が耐性があると言われています。しかし明確な基準や相互関係は決まっていないようです。
一般的に致死量とされているのは、「体重1kgあたり5~10g」です。しかし犬によっては、非常に少ない量でも死に至る危険性があり、あくまで目安的な数値となっています。
体重7~10kg程度の柴犬で、致死量は35~100gということになります。これは、ねぎ1束や大きめのたまねぎを3~5個程度の量で、辛みの強いたまねぎやねぎをこれだけの量食べるのはまず難しいでしょう。
しかし、たまねぎやねぎ類で注意しなければならないのは料理です。
料理に溶けだしている場合も要注意
前述のように、アリルプロピルジスルファイドやn-プロピルジスルファイド(ジアリルプロピルジスルファイド)の溶血効果は、火を通しても無害化されることはありません。そのため、犬はたまねぎやねぎを含んだ料理を与えても死んでしまうことがあります。
カレーやハヤシライスなど、たまねぎが不可欠な料理はもちろん、ハンバーグ、肉じゃが、牛丼、すき焼きや水炊きなどの鍋物、たまねぎを入れたチャーハンやオニオンスープ、たまねぎチップやエキスを含んだドレッシングなども、犬にとっては危険です。
ねぎを少量入れた味噌汁や、ニンニクが効いたギョウザやスパゲティなども同様です。特に、すき焼きやハンバーグなど肉の味や風味が漂う料理は犬の興味を引きやすいため、「机の上や台所で少し目を離したすきに食べていた」というようなケースもあります。
体格や体重が大きい大型犬であれば、中毒症状が発生するまでの耐性も強くなると考えられますが、消化不良や嘔吐などの症状に苦しむかもしれません。
加えて、他の成分も多量に含んだ料理の場合、たまねぎなどを直接食べる場合に比べて中毒発症までに時間がかかることもあります。調理中や食後の休憩時間、残り物の扱いには十分注意してください。