今年の夏ごろからか、あまり聞きなれない航空会社の名前を国内外の様々な航空券紹介サイトで目にするようになった。



決まって話題になるのは、驚異的な料金の安さ。主に日本や中国発の北米、欧州行き等の長距離路線が、総額4万円台で頻繁に出てくるのだ。告知は一切なくゲリラ的に販売されるので、多くは認知が広がる前に売り切れてしまう。





「青い空を飛ぶ白鷺」のロゴが印象的なその航空会社の名前は、厦門(アモイ)航空。台湾のちょうど対岸の大陸側にある、厦門という都市を拠点に350本の路線を運航している。1984年に設立され、現在は中国南方航空の傘下でスカイチームに加盟している。



中国に馴染みがあるか、航空会社に詳しい人であれば聞いたことや利用したことがあるかもしれないが、一般の人にとってはほとんど未知の会社だろう。



今回筆者は厦門航空の驚異的な安さの秘密を探るべく、航空券を実際に購入してアメリカに行ってきた。購入した航空券の旅程は以下の通りだ。



MF816 東京/成田(14:55)〜厦門(18:45)


MF845 厦門(09:30)〜深セン(10:50/12:50)〜シアトル(09:25)


MF846 シアトル(11:55)〜深セン(18:15/20:15)〜厦門(21:30)


MF815 厦門(09:10)〜東京/成田(13:45)



料金は購入時のレートで2人で約8.9万円、1人あたり4.4万円程度。





料金の内訳を見て驚いた。この航空券の運賃(ベースフェア)は1人6,000円程度で、残りは税金や燃油サーチャージが占めていた。東京からシアトルまで往復で6区間も搭乗しているので、運賃はほぼ無料といってもいいぐらいの金額である。



筆者が最初にこのような航空券を見てから約半年間コンスタントに見かけているので、何かのミスによる突発的なエラー運賃ではないように思える。おそらく空席があって今後売れる見込みが薄い路線であれば、運賃を可能な限り下げてでも乗ってもらおう、というスタンスなのだろう。記事最後では、このような航空券の探し方について解説しているので参考にしてほしい。



本レポートでは厦門航空の搭乗記に加えて、アメリカ西海岸を縦断してきた旅の様子もお届けする。厦門航空に限らず、アメリカ旅行の参考として読んでいただければ幸いである。


旅の始まり。目指すは厦門。




11月15日 MF816 東京/成田(14:55)〜厦門(18:45)



厦門航空は中国国内線以外はオンラインチェックインができないので、当日空港でチェックインする必要がある。



アメリカ線はエコノミークラスでも受託手荷物は23キロまでのものが2個までと、非常に気前がいい。機内持ち込み荷物は5キロまでとなっているが、LCCのようにそこまでシビアではないようだ。





座席は標準的なエコノミークラスの幅間隔で、特に狭いという印象は受けなかった。乗客は圧倒的に中国人の比率が高く、日本人でこの路線に乗っていた人はそこまで多くなかった。各座席にディスプレイはなかったものの、4時間50分という比較的短めのフライトなので全く気にならない。





搭乗してしばらくするとピーナッツとお水がもらえた。ちなみにこのピーナッツは各フライト、デフォルトでついてくるようで、往復で6回もいただいてしまった。





機内食は牛肉料理とライス、サラダ、フルーツ、ケーキのものを選んだ。牛肉には少し甘めのタレがかかっており、日本人の口にも合いやすく美味しい。





ビールを頼むと、中国で広く飲まれている雪花ビールが出てきた。少しぬるめだったが、あまり周りで頼んでいる人がいなかったのでイレギュラーな注文だったかもしれない。


トランジットで厦門観光




厦門空港では厦門航空の専用カウンターで、トランジットホテルを無料で用意してくれた。ホテルはとても綺麗で、朝食もついていた。



カウンターでホテル名の書かれた紙をもらえるので、それをタクシーの運転手に見せれば中国語が話せなくても自動的にホテルに着く。タクシーの初乗りは160円程度で、ホテルまで乗っても200円程度なので使いやすい。





夕食はホテル近くの商店街の屋台で食べることにした。せっかく来たので異国的な体験をしたいという人のニーズに、まさにドンピシャで応えてくれるようなローカル感の強い屋台を見つけた。屋台の前には軽く行列ができていたので人気であることは伝わってくる。





注文したのは焼きそばのような炒麺という麺料理と、鳥の爪部分(鶏足)の串焼き。炒麺は卵と野菜と豆腐が入っており、塩胡椒が強めでビールが飲みたくなる。鶏足の方は初めて食べたが、正直どの部分を食べていいか分からなかった。


厦門からシアトルへ。充実のサービスに感動




11月16日 MF845 厦門(9:30)〜深セン(10:50)



深センまでは1時間20分のフライトだったので、特に何かあったわけではないが、しっかり忘れずにピーナッツが出てきた。





厦門からシアトルまでは途中深センで降機して、同じ飛行機に再び乗り込む。このタイプの乗り換えの場合、通常の乗り換え客と導線が異なるので、迷ってしまうことがある。



厦門航空では飛行機から降りた瞬間に、非常に分かりやすい首から下げるタイプのトランジットタグをもらえる。要所要所でスタッフが道案内をしてくれたので、全く迷うことなく乗り換えゲートに行けた。





11月16日 MF845 深セン(12:50)〜シアトル(09:25)



深センからシアトルまでは12時間40分のフライト。今回の旅で最も長い区間だ。搭乗すると枕と水と靴下がもらえた。スリッパではなく靴下がもらえるところが少しユニークだが、サンダルで来る乗客がちらほらいたので需要がありそうだった。





ディスプレイは全席にあり、ほとんど日本人がいないのにも関わらず日本の映画が10〜15本程度あった。就航国の映画を満遍なく揃えているようで、中国語が分からなくて楽しめる工夫がある。





機内食は2回出たがどの選択肢を選んでも中華だった。本場の中華料理によくある八角の味付けが強いものではないので、外国人でも食べやすい。筆者はビーフンのような麺料理を頼んだが、品数もバラエティ豊かで飽きることがない。付け合わせの煮卵はよく味が染み込んでいた。



事前に配られていたメニュー表とは全く違うものが出てくるのだが、どれを頼んでもハズレがないので気にしなかった。



シアトル着、マーケットと薄いコーヒーにアメリカを感じる。




シアトルではパイク・プレイス・マーケットを訪れた。シアトルのガイドブックには必ず載る有名なスポットで、服などの日用品や雑貨、魚市場など様々なお店が集結している。



ここを利用する地元の人も多いようで、シアトルの生活を垣間見ることができる。頭上のネオンサインもおしゃれで歩いていて楽しい。





偶然歩いていて見つけた「The hart and the hunter」というカフェへ。ハリボテ感がなくてセンスが良い内装が写真映えしそうだ。期待通り、アメリカンコーヒーの味は薄くて、中華料理に慣れた味覚をアメリカモードにリセットしてくれる。


ポートランドまでBoltバスで移動。破天荒なシートに遭遇。




シアトルからポートランドまではバスで3時間30分程度。3,000円という運賃の安さと時間の良さから、Boltバスを利用した。





乗り込んだ瞬間異様な光景を目撃した。半分ぐらいのシートがズタボロなのである。他の乗客は特に違和感を感じる様子もなく、涼しい顔で座っているのだが、これでクレームが出ないレベルなのだろうか。



日本の水準からすると絶対にあり得ないので、この旅の行く末も、この会社の行く末も、少し不安になりながら乗車していた。車内ではWi-Fiがあるのだが、下り0.2MB程度の実力しかないのでおまけ程度のものである。


暮らすように旅する。ポートランドは粋な街。




ポートランドではAirbnbで一軒家の物件を貸切で予約した。この「でかさ」にも関わらず、一人3,000円というリーズナブルな価格だ。





ポートランドは、地元の人が自分達の手で作ったものを持ち寄るファーマーズマーケットや、いたるところにある多彩なフードカート、ドーナツとコーヒーが魅力的な街だ。





ふらりと入った雑貨店のプレートにあった「美しいものがありすぎて、あなたを泣かせてしまうかもしれない」というフレーズ。コンセプトから作り込んだ店がたくさんあり、顧客に媚びずに自分達が良いと感じるものを作るという方向性を感じる。




(写真はポートランドのシンボル的コーヒーチェーン「Stunmtown」)



確かにドカンとインパクトがあるような観光名所はないが、この街に流れる"粋"な雰囲気の中で生活をする心持ちで過ごせば、飾らないポートランドの良さが分かってくる。


まるでディズニーの乗り物!念願のアラスカ航空に搭乗




11月17日 AS1602 ポートランド(18:50)〜サンノゼ(20:38)



トライシーでの最近のトレンドは「アラスカ航空」にマイルを加算することである。同社のマイレージプログラムである、マイレージプランを利用するとJALの航空券を激しくお得に発券できるのだ。



トライシーでは、その破壊的なコストパフォーマンスの高さを「アラスカ砲」と呼んで親しんでいる。この記事で解説するには複雑すぎる内容なので、興味のある方は以下の記事を読んでみてほしい。



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今回はそんなアラスカ航空で、ポートランドからサンノゼまで移動した。機内は紫と青色のライトで照らされており、なんとなく東京ディズニーランドの「スペースマウンテン」のような雰囲気を感じる。





1時間50分ほどの短距離路線だが、クッキーと飲み物がもらえた。





乗っていて少し気になったのは、ディスプレイを操作するリモコンに「ケーキ」のボタンがあったことだ。これを押すとどうなるのか大変気になったが、本当にケーキが運ばれてきても困るので押さなかった。


シリコンバレーはIT企業の街




サンノゼに到着したのは夜だったので、空港近くのIN-N-OUTというハンバーガーチェーンでテイクアウトした。実は今回の旅ではほぼ毎日ハンバーガーを食べていたのだが、この店のチーズバーガーが一番美味しかった。





宿はまたもAirbnbで予約した一軒家の物件。大きなデッキスペースの奥にはプールとジャグジー、さらに果樹園がある。



サンノゼといえばシリコンバレーなのだが、立地条件からしておそらく数億円はしそうな家だと思う。「うちのWi-Fiは5Gより高速だ」というオーナーのジョークも、シリコンバレーらしくて笑えた。





シリコンバレーにはAppleやGoogle、Facebookなどの名だたるIT企業がオフィスを構えており、紹介がないと内部には入れないのだが、一般観光客向けに見学できるスペースも用意されている。



昨年できたばかりのAppleの本社施設「Apple Park」にある、ビジターセンターという施設では、最新のApple製品や限定グッズが販売されており、誰でも入れる。筆者が訪れた際には、一般客向けに大スクリーンで音楽編集講座をやっていた。





併設のカフェもあり、休憩するのにも最適だ。


夜行バスでロサンゼルスへ




ロサンゼルスからシアトルまでは、Greyhoundというバス会社の夜行を利用した。23:15発という時間帯だったが、バス停付近のSan Pedro Square Marketには深夜まで営業している酒場も多く出発前の時間を過ごすのに最適だ。





前述のBoltバスと比べると、シートもしっかりしており安心できる。乗っていて特に不満は感じなかったが、客層が若干悪い印象を受けたので、貴重品の管理には注意した方が良いだろう。



乗車の2時間前にオンラインチェックインをしなければならないという、意図がよく分からない関門があるため、現地でネット回線を持っていないと利用しづらいかもしれない。


キックスケーターだらけのサンタモニカ




ロサンゼルスのダウンタウンから電車で1時間ほど行ったところに、サンタモニカという海辺の街がある。街から海に突き出した「サンタモニカ・ピア」と呼ばれる桟橋沿いには、たくさんの飲食店やテーマパーク等が軒を連ねている。





桟橋の一番先端にあるメキシコ料理のレストラン「Mariasol」では、太平洋に沈む夕日を眺めながら食事ができる。



注文したModeloというメキシコのビールは、コロナビールをもっと飲みやすくしたようなスッキリとした味わいで、スルスルと飲めた。夕日が沈む海の向こうには、数日前に過ごした厦門があるのかと思うと感慨深い。





直近1、2ヶ月でサンタモニカの景観は大きく変わった。市がシェアードモビリティ試験への参加を表明したのが8月30日。その後電動キックスケーターシェアサービスのBird、Jump、Lime、Lyftが続々と同市で営業を開始し、現在は街中に大量のキックスケーターが溢れている。





(手前からUber、Lyft、Bird、Limeのキックスケーター)



使い方はキックスケーターについているQRコードをアプリで読み込み、使い終わったら好きな場所に放置するだけ、というシンプルな仕組み。1〜2ドル程度で使えるので短距離の非常に便利で、筆者もアメリカで実際に利用してみたが、革新的なサービスだと感じた。


Flixバスでラスベガスへ この旅で一番快適なバス会社




ロサンゼルスからラスベガスまでは、Flixバスで移動した。事件現場のようなシートのBoltバス、旅行者には若干利用ハードルが高めのGreyhoundバスと比べると、全てにおいてレベルが高い印象を受けた。



Flixバスはドイツの会社で、筆者はミュンヘンでも一度利用したことがある。チケットは今回乗った3社の中で唯一Passbookに対応しており、QRコードのみで乗車できる。





座席幅はそんなに他のバスと変わらないのだが、シートはとても綺麗で、運行区間にもよるかもしれないが客層も良い。唯一他のバスと比べて不便なのは、ドリンクホルダーがないことだ。



ただドリンクホルダーがないことで車内で飲食をする乗客が減って衛生的に良いという見方もあるので、一概にデメリットとも言えない。



これは完全に運転手起因なのだが、アナウンスの最中に乗客と軽くジョークの掛け合いをするタイプの方で、車内からは度々笑いが起きていた。しかし筆者含め英語が母国語ではない外国人にとっては、大事な情報を聞き逃してしまいそうになって少しハラハラした。


最終目的地ラスベガス 贅の限りを尽くした眠らぬ街




ラスベガスに着いたのは夜9時ごろ。時差を感じる暇もないハイペースな旅をしてきて疲労が溜まっているはずだが、この街にくると目がさめる。



ラスベガスのメイン通り「ストリップ」には、どこを見ても眩しいぐらい、沢山のカジノやお店が集結している。予算の心配など微塵も感じさせない豪華な建造物は、カジノというビジネスがいかにお金になるのか、世界中にアピールしているようだ。





映画「ラスベガスをぶっつぶせ」の舞台にもなった、「プラネット・ハリウッド」のカジノを訪れた。



カジノ初心者の筆者は、ブラックジャックのやり方をネットで検索した上で、試しに15ドル賭けてみた。配られた2枚のカードの合計がちょうど21で喜んでいたが、どうやらポーカーのテーブルだったようで、あっという間に15ドルが消滅した。



ラスベガスに行かれる方はブラックジャックとポーカーの区別ぐらいはつけてから臨むことを激しくオススメする。


Spirit航空で再びシアトルへ戻る




11月17日 NK896 ラスベガス(13:40)〜シアトル(16:27)



日本に向けた飛行機はシアトルから出発するので、今まで飛行機とバスを乗り継いではるばる南下して来た区間を一気に引き返す。



ラスベガス空港の搭乗ゲート前には、スロットが置いてあった。余った通貨を使って気軽に遊べるが、土壇場で熱が入りすぎて飛行機を乗り過ごさないように注意したい。





搭乗したSpirit航空は米国のLCC。受託手荷物は別途追加料金を支払わないと利用できないので、必要な場合は事前に追加しておかなければならない。無料で持ち込めるのは3辺合計100cmまでの手荷物1つまで。



今回の旅では受託手荷物に課金しなかったため、機内持ち込み荷物制限の範囲内に全荷物を収めるようにした。





機材はエアバスA320で座席は3-3配列だったが、乗客はまばらだった。機内サービスはないが、スナックや飲み物を注文することができる。





筆者は日清のカップ麺を頼んだ。アメリカでは基本ハンバーガーとピザしか食べていなかったので、いつもより美味しく感じた。


厦門航空の爆安運賃はこう探す


今回筆者が利用したのは、東京〜シアトル往復の厦門航空。シーズンにもよるが、総額4万円台という料金は概ね他社の半額程度だろう。



このような運賃を探すには、複数の旅行会社や航空会社の料金を横断的に検索できる「Skyscanner」を使うのが便利だ。出発地と目的地を入力して期間指定なしで検索してみると、該当区間のフライトでの最安価格が表示される。





もちろん常に見つけられる訳ではないが、2018年12月現在往復4.8万円で同様の航空券を探すことができた。厦門航空はシアトルの他にも、ロサンゼルやニューヨーク、欧州ではパリ等にも就航しているので、他の就航地についても検索してみるとお得な運賃が見つかるかもしれない。


厦門航空で行く、アメリカ縦断の旅を終えて



(アメリカ大統領のマスクを被って観衆を沸かせるパフォーマー。サンタモニカ・ピアにて。)



「安い運賃には裏がある」。そう思われがちだが、厦門航空に関しては終始非常に満足度が高いフライトだった。確かに直行便と比べると経由が多く時間がかかるが、経由地にも観光できるので時間に余裕ある場合はメリットにもなる。



往復ともに厦門ではトランジットホテルを無料で用意してくれ、どちらも衛生的で綺麗なホテルだった。機内食は美味しく、機内のエンタメも充実していて、不満を感じるような箇所はほぼ見当たらなかった。



世界中の航空会社の安全性を格付けしている「AirlineRatings」によると、厦門航空は直近5年間全て満点の7点という評価を得ており、安全面でも安心できそうだ。





8日間という短い期間ではあったが、シアトル、ポートランド、サンノゼ、ロサンゼルス、ラスベガスと、アメリカ西海岸の主要都市を巡って来た。筆者が前回米国を訪れたのは約2年前だが、当時と比べてもよりITサービスによって生活が便利になっているのを感じた。





UberやLyftのタクシー相乗りや、LimeやBird等のキックスケーターシェア、シアトルでは話題のレジなしコンビニ「Amazon Go」等、様々なサービスを実際に体験して、どれも使い勝手の良さに驚いた。




(シリコンバレーのFacebook 本社前にて、筆者。)



きっかけはただ厦門航空が安いというだけだったが、実際に行ってみると日本では体験できない発見があって面白い。百聞は一見に如かず、読者の皆さんも興味があれば実際に足を運んでみては。

情報提供元: Traicy
記事名:「 8日間のアメリカ縦断旅 “北米往復、運賃6,000円”の謎の航空会社を検証せよ【レポート】