旅行を取り巻く環境が激変した、2020年が終わろうとしている。本誌は、他の報道機関同様、日々変化する情勢を追いながら、ときには独立系トラベルメディアとして、独自の切り口で発信を続けてきた。
新型コロナウイルスによって世界は一変した。海外旅行など、失われたものも多かった。その一方で、苦しい中に希望を見出すべく、さまざまな新しいアイデアが産まれていたのも事実だ。
2020年最後の記事は、そんな新しいアイデアにも目を向けながらまとめてみようと思う。
とはいえ、2020年を振り返るにあたっては、中国から広がった、新型コロナウイルス感染拡大により、1月頃から広がった出入国規制を触れないわけにはいかない。
2020年初頭から本誌は、外務省から発信される入国関連の情報を発信していた。当初は各国の出入国制限を発信していたが、制限の数が多くなり、3月12日から制限している国の数をまとめて発信を開始した。
それから日を追うごとに制限する国の数が増加。同時並行的に、日本への入国も制限され、事実上の「鎖国」状況に陥った。
約2週間後の3月23日には、ほぼ全世界的に、日本を含む感染確認国・地域からの入国制限を行った記事を配信した。当たり前のようにできていた「海外旅行」が、事実上できなくなった一部始終は、あっという間だった。
筆者も、1月から3月にかけて、複数回海外に渡航。ペルーでは、コロナウイルスを伝える現地メディアの報道を記録していた。3月には、トランプ大統領が緊急事態宣言を宣言するテレビ放送を、アメリカで滞在していた研究機関で眺めていた。今後海外旅行ができない日々が長く続くとは思わずに。
インバウンド需要が蒸発し、国内の観光産業にも暗雲が垂れ込め始めたのもこの時期。箱根地区で旅館を展開する一の湯が、期間限定で1泊2食3,900円で宿泊できる「まじでコロナウイルス勘弁して下さいプラン」を発売し、話題になった(記事ランキング6位)。同社をはじめ、ホテル・旅館を展開する企業が、国内の観光客向けにユニークなプランを販売することが、例年に比べて特に注目された。
新型コロナウイルスの影響で、当時の安倍首相が4月7日に7都府県に緊急事態宣言を行い、16日には対象を全国に拡大。
「STAY HOME」が叫ばれ、外出が思うようにできない中で娯楽を求める「巣ごもり需要」が爆発的に増えることとなった。
5月1日には「石屋製菓、「白い恋人」など1万円相当のお菓子を5,400円で販売 送料込み、売上の一部を寄付」(記事ランキング4位)、5月3日には「六花亭、マルセイバターサンドなど定番23個詰め合わせ「通販おやつ屋さん」を送料込み3,000円で販売」(同5位)を配信。
いずれも販売しているインターネットサイトは繋がりにくい状況に。ゴールデンウィークの旅行が中止になってしまった人が、せめてもの楽しみを求めていた様子が伺える。東京ディズニーリゾートやUSJも「巣ごもり需要」に応える動きがあったのも印象的だった。
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また、下半期で盛り上がる「Go To トラベル」の第1報(同13位)は、5月27日に配信。国による国内旅行の補助は、時期尚早との意見もあったものの、旅行業界や旅行嗜好者の注目を集めた。
緊急事態宣言が解除された6月から、既報の「Go To トラベル」の詳細が発表になった。日帰り旅行や夜行フェリー、寝台列車利用も支援対象であること(同14位)が報じられると、旅行の選択肢が大きく広がることもあり、盛り上がりをみせた。
Go To トラベルキャンペーンは、7月22日に東京都在住者と東京都への旅行を対象外にして先行開始。当初の滑り出しは緩やかであったものの、海外旅行ができない中、国内旅行が注目された。
緊急事態宣言の影響で冷え込んだ需要を喚起する動きも広がった。
東海道新幹線の利用プランを破格の値段で展開したのはJR東海ツアーズ。「のぞみ利用で東京〜大阪往復1万円以下! 「Go To」と「新幹線ひさびさ旅割引」併用で衝撃価格【コラム】」(同10位)や、「東京〜大阪間往復、実質約7,000円! 「Go To」地域共通クーポン開始で東海道新幹線の旅行がさらにお得に【コラム】」(同8位)は関心を寄せる読者が多かった。
国内旅行者に"夢を与えてくれた"のは西日本のJR3社による「どこでもドアきっぷ」だった。「JR3社の特急・新幹線が1日あたり6,000円で乗り放題 「どこでもドアきっぷ」登場」は、SNSでの反響も大きく、本誌記事の閲覧数ランキングで、年間1位を獲得した。さらに、このきっぷに「Go To」割引を適用できる「まさに神割引?「どこでもドアきっぷ」にGo To適用でさらに半額! JR3社3日間乗り放題で実質9,000円に!【橋賀秀紀のフカボリ!】」(同9位)に。このきっぷの販売は終了しているが、再販を期待したいものだ。
10月1日からは「Go To トラベル」の本格実施。東京発着の旅行の対象除外が解除され、地域共通クーポンの運用が開始された。
当初は、地域共通クーポンについては情報が乏しく、利用の仕方に不明な点が多かった。地域共通クーポンを解説する記事は、8位にランクインした。
秋は台風を除き全国的に気候がよく、紅葉などの季節要素が旅行需要をバックアップ。オンライン旅行会社を中心に割り当てられた「Go To」の給付金枠が上限に達するところも。この状況を解説した記事は関心が高く、3位にランクイン。
順調に「Go To トラベル」のキャンペーンが運用されていたが、秋の深まりと共に感染者数が増加。11月21日に感染拡大地域を対象外にする意向が示された。対象外の旅行に対し、追加徴収を示唆する楽天トラベルについての記事が、記事の年間ランキング2位に入った。
その後、感染拡大に歯止めがかからず、「Go To トラベル」が一斉に停止されたのは周知の通りだろう。2021年1月11日までを予定しているが、再開は不透明だ。2月末までの延長が確定している模様だが、まずは新年に、再開の明るいニュースを聞きたいところだ。
TRAICY(トライシー)のランキングを振り返ると、自由な旅が難しい時期に、夢や希望を求める記事が多く閲覧されたことがわかる。
2021年も、旅行に対して難しい状況が続く可能性は否定できない。その中で、再び気軽に旅する兆しが見える1年になることを願ってやまない。本誌がその一助になれば幸いである。