東海道新幹線における異常時対応力向上のため、JR東海が9月から使用開始した新たな訓練シミュレーターが11月13日、静岡・三島の同社総合研修センターでメディアに公開された。
同社がこれまで使用していた訓練シミュレーターは、主に車両故障への対応に主眼を置いたもの。その他の異常時対応は通常の教材で座学することがほとんどだった。今回新たに導入したシミュレーターでは、地震や土砂流入といった自然災害、列車火災、飛来物、人の接近などの不測の事態をCGで再現し、その対応を訓練できる。
シミュレーターには「対話形式」と「自習形式」の2種類。「対話形式」には、外の様子を再現するモニターと運転席が設置されており、指令・車掌役を担う講師と対話しながら訓練する。運転士の技量に合わせて、講師が任意のタイミングで異常事態を発生させることができるという。
一方の自習形式は、運転台とモニター1台で構成された簡易版。運転士がそれぞれの目的や技量に合ったメニューを選び、個々人で弱点を中心に訓練する。
▲自習形式のシミュレーター。総合研修センターには9台設置されている
今回公開された訓練の一つは、走行中の列車で車内の非常ボタンが扱われたケース。異常を知らせる表示を確認した運転士はすぐに非常ブレーキをかけたものの、モニターに表示された車内防犯カメラの映像により車内火災と確認。指令に報告後、トンネル内での停車を避けるため運転を継続し、しばらく走行してから安全な場所で停車する措置をとった。
JR東海 新幹線鉄道事業本部 運輸営業部運用課の早津昌浩課長は、新たなシミュレーターの導入により「アクシデントが連続的・複合的に発生する難易度の高い訓練が実現できるようになった」と話す。今回公開されたシチュエーションのほか、自動列車制御装置(ATC)などの保安装置が使用できない状況や、1つのホームに複数の列車を停止させるケースなどの特殊対応を含めた全65項目のシナリオが用意されているという。
シミュレーターは総合研修センターのほか、東京・名古屋・大阪の乗務員職場にも配備。当初は5月に導入予定だったが、新型コロナウイルスの影響で後ろ倒しとなり、9月から運用が始まった。導入台数は全箇所合わせて「対話形式」4台、「自習形式」36台で、これまで机上教育を行っていた内容を段階的にシミュレーター訓練に置き換えていくとしている。
▲対話形式シミュレーターで車内火災発生時の対応訓練を行う運転士
▲対話形式シミュレーターで架線に飛来物が付着した際の対応訓練を行う運転士
▲対話形式シミュレーターで運転士と連絡を取り合う指令・車掌役の講師(手前)
▲自習形式シミュレーターで悪天候時の対応訓練を行う運転士