カジノ解禁に向けた議論が進む中、アメリカの大手IRオペレーターであるシーザーズ・エンターテイメントは、7月26日に東京都内でメディア向けの記者懇談会を開催し、同社のギャンブル依存症に対する取組みを紹介した。懇談会ではギャンブル依存症問題を考える会の代表田中紀子氏も登壇し、日本の現状や課題について発表した。
最初に発表した田中代表は、「日本では問題の深刻さに対して、ギャンブル依存症対策に関する研究やノウハウ、資金などの面でまだまだ足りない部分が多い」とし、IR運営者には積極的に協力してもらいたいと呼びかけた。これに対して、シーザーズ・エンターテイメントのジャンジョーンズ・ブラックハースト上級副社長は、同社は依存症などの問題に陥らないようカジノを楽しんでもらう「責任あるゲーミング」を公約としており、業界に先駆けて1980年代からこの取組みを行い、業界や規制当局のモデルとなっていることなどを説明したうえで、日本においても依存症対策に協力していく考えを示した。
シーザーズでは長年に亘って広告やマーケティングへの配慮、教育や啓発活動など包括的な施策を実施してきたが、ブラックハースト氏は対策が効果を生むためには重要な要素が3つあると指摘している。1つ目は、文化や経済状況など現地の事情をよく理解し、現地に即したプログラムを作ること、2つ目は、データや既存の研究などに基づく科学的なアプローチを取ること、3つ目は、田中氏の指摘にもあるようにIR事業者、政府、NGOなど関係者が一丸となって協力することだという。
シーザーズでは、これまでのデータの分析や研究に基づいて現在の依存症対策プログラムを開発している。このプログラムでは「責任あるゲーミング・アンバサダー」と呼ばれる担当者が、顧客に直接アプローチするかどうかを決定し、話しかけることを決めた場合に、心理学等に基づいて策定された手法に則って会話を進めている。この手法では顧客が自ら「自己規制(クレジットカードなどの信用取引を行う権利を無くすこと)」や「自己排除(シーザーズの施設でカジノをプレイする権利を無くすこと)」といったプログラムに参画することを選択する。ブラックハースト氏によると、本人が選択する形をとるほうが再発が少ないという。こうした顧客とのやり取りはITシステムに記録され、シーザーズのどの施設においてもプログラムが実行されるよう情報共有している。この他、顧客と接しない従業員も含め、全従業員に責任あるゲーミングに対する会社の方針についての研修を義務付けている。
ブラックハースト氏によると、日本の成人の生涯ギャンブル依存症発症率は5%で、他の先進諸国の1%以下より高いという。同氏は米国やシンガポールで、責任あるゲーミング対策導入後に依存症の発症率が低下している事例を紹介し、依存症の増加はカジノの有無ではなく、対策が講じられているかどうかが重要だと述べ、日本の状況を理解した上で、既存の研究やデータを活用し、長年蓄積されたノウハウを応用して貢献していけるとの考えを示した。