例えば今回紹介する三菱ミニカは前開きドアを採用した初代の人気が高いものの、2代目以降はめっきり姿を見かけない。というのもスバル360やホンダN360の人気が突出していたことや、中古車としての人気があまり高くなったせいもある。だからこの日、ミニカの姿を見かけて迷わずオーナーの鈴木さんに声をかけたのだ。
鈴木さんとミニカの出会いは今から40年ほど前のこと。親戚の家で乗っていたクルマだったそうだが、鈴木さんのお母さんが買い物用として譲ってもらうことになる。それが小学2年生の時のことで、以来長く鈴木家のアシとして活躍してきた。ところが鈴木さんが中学2年生の時に乗らなくなってしまう。けれど廃車になる運命を避けることができた。というのも、鈴木さんが気に入っていて、将来自分で乗るつもりだから「保管して欲しい」と頼んだというのだ。だからナンバープレートも古い「群」ナンバー。なんとも心温まるエピソードなのだ。
三菱らしいしっかりした作りや合理性、それにデザインがお気に入りだそうで、できるだけオリジナルのまま乗り続けていくという鈴木さん。これまでトラブルらしいトラブルといえばキャブレターのダイヤフラムが損傷したくらいで、あまり深刻な事態になったことはないという。それも長く乗り続けられてきた理由の一つかもしれない。また、鮮やかなボディカラーは過去に一度、全塗装をしているそうだ。 ちなみにミニカは1969年にフルモデルチェンジして2代目になり、車名がミニカ'70になる。1971年にはミニカ71へ、同年9月のマイナーチェンジでミニカ72へ、さらに翌年にはミニカ73と毎年のように車名を変えた。
初代から継承したエンジンは空冷と水冷の2種類があり、どちらも2ストローク方式。水冷の2G10型エンジンはシングルキャブレター仕様で28ps、ツインキャブレター仕様が38psとリッター当たり100psを超える高性能ぶりだった。シングルキャブがレッドエンジン、ツインキャブがゴールドエンジンと名付けられ、ゴールドエンジンだとシリンダーヘッドやエアクリーナーが金色に塗装されていた。
2ストロークエンジンは今や4輪だけでなく2輪でも絶滅寸前になった。特に4輪の場合、1970年代に段階を経て厳しくなった排出ガス規制に適合させるのが困難だったため、早い時期に姿を消している。ガソリンにオイルを混合させて燃焼と潤滑を同時に行うため、排出ガスをクリーンにするのが構造上難しいのだ。このミニカ72もエンジンルームの運転席側に2ストロークオイルを入れるタンクがある。 ミニカは1972年のフルモデルチェンジで3代目になると、2ストロークエンジンから4ストロークエンジンへと切り替わる。そのため、古い2ストロークエンジン車が敬遠されたともいえるわけで、残存数が少ない理由の一つでもある。だが鈴木さんは現車のほかに部品取り用のミニカも所有されているそうだから、まだまだ現役で走り続けられることだろう。