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TEXT &PHOTO◎伊倉道男(IKURA Michio)
吾輩はスズキ・ジムニーである。1986年の生まれで、型式はM-JA71Cだ。金属のルーフもエアコンもない。「4WD→2WD→4WD」と手動で切り替えるパートタイムの四輪駆動車である。錆も進み、ボディもあちこちが凹んできているので、ゆっくりと余生を送ろうとしていたが、週に1回、アウトドア・フィールドに出掛けることとなった。
昔話を偉そうにここで書いても意味がない。ただ、誰にでも歴史があり、想い出はあるはずだ。それを楽しむには酒類がかなり有効だ。吾輩はアルコールが苦手なのだが、その雰囲気は大好きである。
言葉もわからない外国のビストロやバール。彼らの言語はただのBGMとなるだけだ。不思議と日本にいても、誰とも話すことがない環境下よりも孤独は感じない。食べ物は周りを見回して、他の客が頼んだものを指差せば良い。グズグズしていると、厨房へ連れていかれることになる。厨房で食材を指差せば、あとはシェフにお任せということになる。
そこが歴史がある店かどうかなんてのはわからない。だが、昔からの当たり前のように使われている照明は赤い光だ。そして赤く照らし出された席で、その光の環境に酔う。昼間と夜は違う時なのだ。
最近キャンプ用として注目を浴びているのが、この灯油のランタン。欠点を挙げると、かなりある。密閉されているわけではないので、移動時に燃料が漏れることがある。燃焼時の匂いも嫌う人がいるだろう。照明能力は極端に低い。
ただコイツには高性能なLEDやコールマンのガソリンランタンにはない魔力がある。ソロでキャンプをしていても、ただ、薪を燃やしたり、酒類を呑んで時間を費やしているわけではない。単純な作業をしながら、心はランタンの光のように揺らいでいるのである。
未来を考えたり、過去を思い出しているのであるが、この灯油ランタンは特に過去に迷い込ませてくれる光、そんな「光」なのだ。確かに「焚き火」にもその要素は多々あるが、燃焼する時に音が出てしまう。また明るさを求めるのなら、コールマンのガソリンランタン。そのかなり大きな燃焼音は、孤独感からは開放はしてくれる。だが、その音で現実の世界へすぐに引き戻されてしまうのも確かだ。LEDの照明は音も出ず、また光を赤く変更はできるのだが、何かが足らない。光が揺らめかないので心も炎に同調せず、揺らめかないのかもしれない。
灯油の匂いに関しては、パラフィンオイルを使用する方法がある。虫除けの成分を含んだもの、アロマの香りを楽しめるもの等が数多く製品として揃えられている。
そうだ、キャンドルのランタンも灯油のランタンと同じような効果がありそうだ。コイツらに炎を灯し、夕暮れを迎える。ランタンやキャンドルの炎を見つめていると、普段は思い出すことのない、「あの人」の仕草に逢えたりするかもしれない。時は流れるが想い出は蘇る。
ー吾輩はスズキ・ジムニーである。型式はM-JA71C。名前はまだないー