TEXT:近田 茂(CHIKATA Shigeru)
*本記事は2008年10月に執筆したものです
ダウンサイジングの潮流は何も大型トラックに限られたことではない。2トンクラス・トラックの人気モデルとして知られるいすゞエルフ。そのエンジンもダウンサイジングと共に進化を果たしている。先代の4HL1エンジンとの比較で排気量は4.8〜3ℓへ約30%ダウン。にもかかわらず出力トルク共に約80%向上。しかもエンジン単体重量で100kgもの軽量化が達成されている。トラックの場合、軽量化努力はそのまま積載性の向上をもたらし、商品力をも左右するだけにこの差は侮れない。厳しくなる排出ガス規制への対応と共に、より高効率なエンジン開発が求められるのである。
まず乗用車用エンジンと大きく異なっているのは、常用する負荷が大きいことである。またエンジンを新開発しても基本的にはおよそ四半世紀に渡って使用される。単なる耐久性のみならず、長期にわたって通用する高い商品力が求められるのである。
また大型用エンジンでは、高速道路網の伸びと共に深夜の高速便が活躍し、メーカー各社はパワー競争を展開。当然排気量はどんどん拡大した。60年代を起点にすると90年代には排気量と最高出力は3倍にまで跳ね上がり、いすゞの最高峰ではV10の30ℓで600ps/210kg-mを誇った。しかし世の風向きが変わり、輸送効率や燃費率に環境問題がクローズアップされるや、トラックのディーゼルエンジンは、一気にダウンサイジングの方向へと軌道修正されたのである。
■ 4JJ1-TCS
気筒数/配置 直列4気筒
ボア×ストローク 95.4×104.9mm
総排気量 2999cc
カム方式 DOHC 16バルブ
圧縮比 17.5
最高出力 110kW(150ps)/2800rpm
最大トルク 375N・m(38.2kg-m)/1600rpm
EGR装置 クールドEGR
噴射装置 電子制御式コモンレールシステム
過給機 VGSターボチャージャー+インタークーラー
排出ガス規制 平成17年度規制
搭載車 エルフシリーズ
平成17年規制をクリアしたいすゞの4JJ1型は、次世代を見据えたD-COREの思想を導入。具体的な手法として最適な燃焼と、高過給、そして低フリクション化が徹底された。コンパクトなDOHC 16バルブヘッドにはローラーロッカーアームを採用。ダウンサイジングにより各ムービングパーツを動かす重量負担も軽減されている。インタークーラー付きVGS(可変ノズル式)ターボを装備し過給により筒内圧力を高めることで、高い燃焼効率を得ているのが大きな特徴である。
単純に言えばこれまで以上に強い燃焼圧力が得られる。さらに軽量化やフリクションロスの徹底的な低減策により、エネルギー損失が減らされている点も大きいだろう。結果的に先代エンジンとの比較で1200回転以上全ての回転域でパワー・トルク共に大きく向上した。また低速配送を行なう実用燃費で15%以上の燃費向上も果たしているのだ。今後さらに強化される規制対応については、NOx専用触媒の利用や尿素の活用など様々な方策の研究開発がなされているが、現在エルフは世界120カ国以上で流通している商品だけに、インフラの違いを考えると必ずしもひとつの方法に的を絞ることはできないと言う。
■ 6UZ1-TCS
気筒数/配置 直列6気筒
ボア×ストローク 120.0×145.0mm
総排気量 9839cc
カム方式 OHC
圧縮比 17.5
最高出力 279kW(380ps)/2000rpm
最大トルク 1765N・m(180kg-m)/1400rpm
全備乾燥質量 ―
EGR装置 ワンウェイクールドEGR
噴射装置 電子制御式コモンレールシステム
過給機 VGSターボチャージャー+インタークーラー
排出ガス規制 平成17年度規制
搭載車 ギガシリーズ
次世代D-COREコンセプトで開発された6UZ1型は、燃焼状態を改善する一方で、熱損失とフリクションロスの徹底低減化が図られた。コモンレール式高圧噴射の最高圧は160MPa。ソレノイドバルブを使用した噴射ノズルは放射状の6孔式で、燃焼室形状とともに、その噴射の角度や形状などの最適化が徹底された。最大で5回に分けて多段噴射し、騒音やPMの低減、燃費向上にも貢献する。大容量2系統化したEGRも流量は無段階に最適制御される。
排気量を小さくしても高出力を稼ぐためにはターボ化が必須要件である。各社がターボ化に転換を図ろうとした当初は発進時のトルク感に勝る大排気量のNAを支持するプロドライバーも多かった。しかし、改善熟成の進んだ現在では直6ターボが主流。排気量は13~16ℓ程度。最高出力も500ps前後(トルクは220kg-m)に落ちついてきている。この結果、およそ1t以上あったエンジン単体重量は、200kg以上の軽量化を達成し、積載性能と商品力の向上に大きく貢献した。現在はI-CAX(いすゞ・クリーン・エア・ソリューション)のキーテクノロジーを掲げ、燃焼の最適化と触媒による後処理技術を総合的に電子制御、緻密で最適な統合制御を図ろうとしている。