TEXT●世良耕太(SERA Kota)
とかく同一モデル内上位グレードに目がいきがちだ。そりゃ上位なんだから「いい」に決まっている。じゃあ、ベーシックなグレードはダメなのかというと、そんなことはなかったりする。代表例がマツダCX-3だ。
ディーゼルエンジン搭載車のみで2015年に登場したCX-3は、2017年に2.0L直4ガソリンエンジン仕様(最高出力110kW<150ps>/最大トルク195Nm)を追加。2018年5月にはディーゼルエンジンの排気量を1.5Lから1.8L(85kW<116ps>/270Nm)に変更した。
ディーゼルエンジン搭載車の力強さときたら感涙ものだ。力強いだけでなく燃費もいい。しかし、なかなか値が張る(249万2600円-)のも事実。そこに救世主的な存在として2020年5月に追加されたのが、1.5L直4ガソリンエンジン搭載車(82kW<111ps>/144Nm)だ。価格は189万2000円(15S)から、である。オートエアコンや本革巻きステアリングなど、装備が充実した15S ツーリングでも199万1000円(2WD、AT)で、200万円を切る。
乗ってみると、「これで充分」といより、「実はこれがいいんじゃないか」と感じるくらい、まとまりがいい。発売から数年を経る間に熟成が進んでいるのもあるのだろう。クルマの動きはしなやかだ。発売当初は後席の硬い乗心地が気になったものだが、15S系は目くじらを立てるほどではない。1.5Lガソリンエンジンは取り立ててエンジン回転を高めることなく、乾いた排気サウンドをともないながらCX-3を軽々と走らせる。取り回しや使い勝手も含めてバランスのとれた1台だ。
マセラティの最新ミッドシップスポーツカーである。車両価格がいくらかは知らないが、いくらであろうと、このクルマには価値がある。なぜなら、量産車で初めてプレチャンバー・イグニッション(PCI)を適用したのだから。
マセラティ自ら公言しているように、630psの最高出力を発生する3.0LV6ターボエンジンが採用したPCIは、F1由来のテクノロジーだ。燃料流量規制が導入された2014年以降のF1は、エンジンの熱効率を高めることが高出力化につながることになった。熱効率向上=高出力化のキー技術がPCIで、2014年にメルセデスが初めて適用。次いで、フェラーリ、ルノー、ホンダの順に適用して、燃料を無駄使いしない健全なパワー競争を繰り広げている。
技術の詳細はリンク先でご確認いただくとして、「F1と同じ最先端の燃焼技術が入っている」というだけで、マセラティMC20はどんな値段であろうとお買い得である。
MIRAIも決して安くはない(710万円〜860万円)。だが、技術の内容を考えれば、お買い得だ。なにしろ、燃料電池車なのだから。高圧水素タンクに充填してある水素と大気中の空気に含まれる酸素を反応させ電気を取り出すという、まるで実験装置のようなハイテク機器がクルマに搭載され、上下左右前後に揺すられる過酷な環境で、勝手気ままなドライバーのアクセルペダルの動きに応じてせっせと化学反応を行ない、電気を作っているのである。冷静に考えたらとんでもないことだ。
実験段階では1台ウン億円と言われたものだが、技術の進化と量産効果でゼロがふたつも減ったのだから、お買い得と言わずして何と言おう。卵が先か、鶏が先かの話で、燃料電池車が普及しなければ、水素インフラの整備も進まない。だから、トヨタは2代目ミライにも出血大サービスなプライスタグをつけている。モーターがもたらす極めて高応答で静粛性の高い走りや、コーナーを攻めるのが楽しくなる車両運動性能面のまとまりの良さも、このクルマの魅力だ。
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