TEXT &PHOTO◎世良耕太
性能の高さがこんなにはっきりと形に現れたクルマもめずらしい。アウディRS 4アバントは、どの角度で見ても、高い性能を備えていることがはっきりわかる。速そうだし、強そうだ。前後のフェンダーはファットなタイヤ&ホイールを収めるべく、外側に大きく張り出している。しかし寸法を確認してみると、拡幅分は20mmにすぎない。A4アバントの全幅が1845mmなのに対し、RS 4アバントは1865mmだ。真後ろから見たときは数値の差以上の迫力を感じる。275幅のタイヤが与えるインパクトは大きい。
サイドビューも迫力満点だ。タイヤサイズは前後とも275/30R20で、幅広く、大径で、サイドウォールが薄いタイヤがホイールハウスに半ば隠れるようにして収まっている。タイヤチェーンの脱着? なにそれ? という感じだ。ここだけ部分的に切り取ってみれば、レーシングカーと似たような景色である。
インテリアもレーシーなムードで満たされている。「フラットボトム」と呼ぶ、底辺をカットしたDシェイプのステアリングホイールがアルカンターラ地なのはオプションで、通常はレザーだ。上から鷲づかみにするタイプのシフトレバーもアルカンターラ張りだ。試乗車はデコラティブパネルカーボンのオプションも装着しており、インパネやセンターコンソール、ドアトリムがカーボンパネルで埋め尽くされている。シートはダイヤモンドステッチの入ったナッパレザーで、フロントシートの背にはRSのロゴが入る。ラグジュアリーな品格と機能を保ったまま、レーシーなムードを効果的に付加した印象だ。
ボンネットフードの下に収まるのは、2.9LV6直噴ツインターボエンジンだ。V6だがバンク角は120度でも60度でもなく、V8と共通の90度である。その広いバンク角を生かし、2基のターボチャージャーをVバンクの間に搭載する。いわゆる「ホットV」だ。前輪の切れ角を確保するためのレイアウトでもあるし、排気の経路を短くしてタービンの効率と応答性を高めるためでもある。2基のターボチャージャーで加圧された空気は、水冷インタークーラーで冷却される。
オーナーになったあかつきには、化粧カバーを外し、Vバンクに鎮座する2基のターボチャージャー(よく見えるのはコンプレッサー)をじっくり愛でてほしい。鑑賞に値する眺めだし、こういう眺めが好きな人がRS 4アバントのようなハイパフォーマンスカーを所望するのだろう。
このエンジンはアウディの得意芸であるカム駒切り替え機構を搭載している。いわゆる可変バルブリフトシステムで、電磁式のソレノイドピンをらせん状の溝に押し出すことでカム部をスライドさせ、小リフト小開角のカムと大リフト大開角のカムに切り換える仕組みだ。燃費と出力を両立する狙いである。最高出力は450ps(331kW)/5700-6700rpm、最大トルクは600Nm/1900-5000rpmだ。先代RS 4は7速デュアルクラッチトランスミッション(DCT)を搭載していたが、現行RS 4はZF製の8速AT(名機8HPシリーズである)を組み合わせる。
そして、クワトロ(quattro)だ。四輪駆動である。縦置きパワートレーンのRS 4はセルフロッキングディファレンシャルと呼ぶ、遊星歯車機構を用いたセンターデフを搭載(トランスミッションケースの後端に位置)。前2輪、もしくは後ろ2輪がスリップしたら4WDになるのではなく、常時(フルタイム)4WDだ。車両の走行状況や路面コンディションの変化に応じて、前後のトルク配分は変化する。
エアコン操作パネルの下にはアウディドライブセレクトのスイッチがあり、エンジン特性や電動パワーステアリングのアシスト量、トランスミッションの特性、エグゾーストフラップの調整などを切り換えることができる。モードは「オート」「コンフォート」「ダイナミック」「インディビジュアル」の4種類だ。
「ダイナミック」は高速コーナーが連続する箱根の山道ですら、過激な排気サウンドとガチガチに硬い脚が間尺に合わない(満腹時は避けたほうがヨロシイ)。「オート」で充分である。ダイナミックはサーキットでRS 4アバントのポテンシャルを存分に引き出す際の専用モードと捉えるのがいいだろう。箱根の山道など、このクルマにとっては朝飯前であることが、ちょっと振り回してみるとよく分かる。
上限は試していないが、見る者を圧倒する派手なルックスはダテではない。といって下限をおろそかにしているかというとそんなことはなく、日常ユースの相棒として付き合えるだけの快適性を担保している。よく考えたら後席のスペースも充分だし、広い荷室も備えている。アウディRS 4アバントは高い実用性を備えながら、日常走行からサーキットまでカバーする、ダイナミックレンジの広いクルマということだ。
アウディRS4 Avant
全長×全幅×全高:4780mm×1865mm×1435mm
ホイールベース:2825mm
車重:1820kg
サスペンション:F&Rウィッシュボーン式
エンジン形式:V型6気筒DOHCターボ
エンジン型式:DEC型(EA839型)
排気量:2893cc
ボア×ストローク:84.5mm×86.0mm
圧縮比:10.0
最高出力:450ps(331kW)/5700-6700rpm
最大トルク:600Nm/1900-5000rpm
過給機:ターボチャージャー
燃料供給:DI
使用燃料:プレミアム
燃料タンク容量:58ℓ
トランスミッション:8速AT〔ティプトロニック)
駆動方式:AWD
WLTCモード燃費:9.9km/ℓ
市街地モード7.1km/ℓ
郊外モード9.9km/ℓ
高速道路モード11.8km/ℓ
車両価格○1250万円
試乗車はオプション込みで1519万円