TEXT●伊藤英里(ITO Eri)
PHOTO●MotoGP.com
二輪ロードレースの最高峰であるロードレース世界選手権MotoGPはプロトタイプ、つまりレースを走るために造られたマシンによって争われている。2021年シーズン、MotoGPに参戦するのは6メーカー。スズキGSX-RR、ヤマハYZR-M1は並列、ホンダRC213V、ドゥカティ デスモセディチGP21、KTM RC16、アプリリアRS-GPはV型エンジンを採用している。いずれも4ストローク4気筒1000ccだ。
例年であれば、開幕前までにアップデートが行われたエンジン仕様で1シーズンを戦う。しかし、コロナ禍を鑑みたコスト削減対策として、2021年はエンジンのアップデートが不可となった。これが2021年のMotoGPマシンにおける、大きなトピックスの一つである。ただし、2020年にコンセッション(エンジンの使用可能基数や開発、テストなどの面で優遇される)の適用を失ったKTMは開幕までにエンジンをアップデートでき(以降のアップデートは不可)、コンセッションの適用を受けるアプリリアは2021年シーズン中の開発が可能となっている。
つまり、2021年シーズンのMotoGPでは、スズキ、ヤマハ、ホンダ、ドゥカティは2020年と同じエンジンを搭載したマシン、KTMとアプリリアは2021年のためにアップデートされたエンジン搭載のマシンで争うというわけだ。
今季も2020年に引き続きトレンドとなりそうなのは、ホールショット・デバイスだろう。ドゥカティが2018年ごろから投入し始めたこのシステム。フロントまたはリヤのサスペンションを縮めた状態に固定しウイリーを抑制、トラクションを逃さないようにするもので、2020年には全メーカーが投入した。当初は多くがスタートで使用されていたが、例えば中上貴晶(LCR Honda IDEMITSU)などは2020年のレース中に低速コーナーからの立ち上がりで使用していたことを明かしている。3月上旬に合計5日間の日程で行われたカタール公式テストでも、各陣営がホールショット・デバイスをテストしていた様子だった。
こうした状況で行われたカタール公式テストでは、非公式タイムながらレコードブレイクの最速タイムと最高速が記録されている。テストとレースウイークでは路面の状況が異なるため一概には言えないが、最速タイムを記録したのは、2021年からドゥカティのファクトリーチームに所属するジャック・ミラー(Ducati Lenovo Team)で、1分53秒183をマーク。2019年にマルク・マルケス(Repsol Honda Team)が記録したタイムを0.197秒上回った。最高速も同じくドゥカティで、こちらはサテライトチームライダーのヨハン・ザルコ(Pramac Racing)。2019年にマルケスが記録した352.0km/hを5.6km/h上回る357.6km/hを記録している。
MotoGPの開幕戦、カタールGPは3月26日から28日に開催される。例年とは異なるレギュレーションの中でも進化を続けるマシンと、それを駆るライダーの戦いはもう間もなくだ。