くどいようだが、かつてのディフェンダーは純然たるワークホースとして生まれた。英国王室が領地を巡るのにも使われるディフェンダーは、大げさに言えば英国植民地政策を支えた陰の立て役者ではなかろうか。世界の僻地を移動し、管理するのに、ディフェンダーというピースは欠かせなかったはずである。実際、英国圏の国に行くと、新旧のディフェンダー(ランドローバー)が実にたくさん走っている。
その偉大なるオフロードカーの名前を受け継ぎ、新世代として担うわけだから、単なる快適なSUVでした...では済まない。ジャガーランドローバーも、モノコックになったことへの世間の懐疑的な目を気にしてか、僻地でのデモ走行の模様を発表したり、新しいディフェンダーのボディがいかに堅牢かをアピールしまくっている。
今回のテストは、オフロードとしては中級のコンディションと言える、林道で行った。この林道は通常、クルマの通りが極端に少なく、さらに昨今の雨量の多さによってかなり荒れている。路面の土は薄いで流され、深い溝が所々にできているような路面だ。
さて、ディフェンダーのパワートレインはサブトランスファー付きのフルタイム4WD方式を採用している。これは1970年代から続く(ディフェンダー系では83年から)、ランドローバー車の伝統と言えるものだ。常に高いスタビリティを発揮させるためには、2WDモードなど要らないというわけだ。まあ、昨今のフルタイム4WDは、路面や走行状況に合わせて前後駆動トルク配分をバリアブルに変化させるので、前輪の断切システムはコストの無駄なのかもしれない。
そして、他のランドローバー車同様に、ディフェンダーも電子デバイスがてんこ盛りだ。トルク可変型4WDにスタビリティコントロール、ヒルディセントコントロールにオールテレイン・プログレス・コントロール、さらには4×4i。この世界に長年いても、どうやって使えばいいのかすぐに理解できない最新装備をふんだんに奢っている。
単刀直入に言えば、こうした電子デバイスの働きを理解し、駆使することができのであれば、熟練と言われるオフローダーたちのドラテクなどいらない。すべて機械がやってくれるからだ。ただ、それが使えなくなった場合に、どうするかなのだが。
ディフェンダーの悪路でのファーストインプレッションは、正直言って少なからずの驚きがあった。まずサスペンションのモードだが、初めはノーマルモードで走ってみた。果たして、そのモードでのロードクリアランスは十分で、かなり岩が転がっている路面でもヒットする気配はない。エアサスをオフロードモードにすると、ロードクリアランスを40mm上げることが可能で、こうなると安心感は十分と言える。
リジッドアクスル式サスペンションだと、車内にガンガン衝撃が入っているような路面でも、さすがはエアサス。柔らかいあたりで、ハーシュネスをうまくいなしていく。これなら長時間悪路を走った時、パッセンジャーの疲労を相当軽減できるはずだ。
ボディ剛性も、まるでラダーフレーム車のようにしっかりしている。ラダフレームの約3倍のねじり剛性は伊達ではない。モノコックボディと言えども、大きな段差の路面を通過してもミシリとも言わない。
エンジンは実に扱いやすい。低回転から過給されるターボエンジンゆえに、急激なトルク変動が発生することもなく、ジワジワと駆動トルクを発揮させたいオフロードでもコントローラブルだ。トランスファーをローレンジに入れれば、それはさらに顕著になる。ちなみにローレンジスイッチを押すと、センターデフがロックされて直結状態になる。仮にそれでスタックしそうになった場合でも、アクティブリアロッキングディファレンシャルをONにすれば、脱出の可能性が高くなる。
ちなみにタイヤは、舗装路志向の強いハイウェイテレーンを履いているが、トラクションコントロールが巧みなのか、ほぼ空転することはなかった。敢えて対角線で空転する走行ラインを選んでみたが、空転は一瞬でおさまり、すぐにトラクションを回復させる。こうしたシーンを目の当たりにすると、泥濘地でもない限りはもうオフロードタイヤなんていらないのかと思う。
独立懸架式サスペンションは、それぞれが独立して上下動するため、リジッドアクスル式のように反対車輪の動きに比例するトラクション(タイヤが路面に押しつけられる力)がまったく期待できない。それなのにこれだけ前進してしまうのは、やはり電子デバイスの恩恵と言わざるを得ない。
オフロード走行に不慣れなドライバーをサポートする装備として、4×4iが挙げられる。車両のピッチ、作動中のオフロード運転システム、車両のロール、ホイールのスピン状態、ディファレンシャルロックの状態、サスペンションの動き、そして周囲の状況映像などの情報を、モニターに映し出してくれる装置だ。エキスパートにはいらない装備と言えそうだが、こうしたものが与えてくれる安心感、ワクワク感もオーナーには嬉しいだろう。
ジムニーであればそこそこ走り甲斐のある林道だったが、ディフェンダーは難なく走ってしまうため、実のところ拍子抜けだった。つまり、それはこのモデルが優れた悪路走破性を持っていることに相違ない。
日本でも徐々に広まりつつあるが、世界では「オーバーランド」という旅のスタイルが流行中だ。クルマで世界中を旅して、車中泊をしながら好きな場所を巡るのである。オーバーランドに出かける人は、何もオフロードエキスパートばかりではないし、アクティブな外国人のことだから免許取り立てなんてドライバーでも出かけてしまうかもしれない。そんな時、新型ディフェンダーのようなオフロードSUVであれば、ストレスフリーで旅を続けることができることだろう。
しかし、一方で面白みは大きく減ったと言わざるを得ない。日本だと、クルマで泥遊びをするなど物好きのすることだと思われるかもしれないが、実は海外でのオフローディングはアッパークラスの遊びである。自然の中で己の技術と頭脳を駆使してドライブすることが、多忙を極める人々の心を掴んでいるのだ。
そういった類いの人から見れば、何でもやってくれる電気仕掛けのクルマはつまらないし、何より僻地でのエレクトロニクスの故障は命取りだと考えるはずである。実際、世界を旅するイギリスのある富豪は、新型ディフェンダーに失望して、自分で旧型ディフェンダーそっくりなクルマを開発してしまった。新型ディフェンダーは果たしてどうなのか? という問いの答えは、このことで十分に分かってしまう気がする。
ジャガーランドローバー社は、将来的にコマーシャルモデルの生産もしていくとしているが、どうやらPHVモデルの登場の方が先になりそうだ。そもそもコマーシャルモデルを出すとしても、どんな価格になってしまうのか...。
新型ディフェンダーは魅力的ではあるが、はっきり言えば少々泥の香りがするレンジローバーだ。あの粗野で、冒険的で、かわいげのあるディフェンダーは過去のものとなってしまったのである。しかし、ジムニーがそうであったように、ディフェンダーもユーザー層が入れ替わっている。きっと21世紀のオーナーたちにとっては、面倒なプロトコルが必要なオフローディングなどもはや過去に産物に過ぎないのかもしれない。
ランドローバー・ディフェンダー主要諸元
■ボディサイズ
全長×全幅×全高:4995×1995×1970mm
ホイールベース:3020mm
車両重量:2240kg
乗車定員:5名(試乗車はオプションの3列目シート装着のため7名)
最小回転半径:5.3m
燃料タンク容量:90L
■エンジン
形式:水冷直4列気筒ターボ
排気量:1995cc
ボア×ストローク:83.0×92.2mm
最高出力:221kW(300ps)/5500rpm
最大トルク:2400Nm/2000rpm
■駆動系
トランスミッション:8速AT
■シャシー系
サスペンション形式:Fダブルウイッシュボーン・Rマルチリンク
ブレーキ:Fベンチレーテッドディスク・Rベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:255/65R19
■車両本体価格
589万円
※オプション総額:227万2880円