TEXT●安藤眞(ANDO Makoto)
1998年から2012年まで生産され、一世代限りで姿を消してしまったクルマ。その名前からわかるとおり、205の後継機種として作られたコンパクトハッチバック車だ。
日本デビューの試乗会が箱根で行われたので、長尾峠に行ってみたら、まさに「長尾峠スペシャル」と呼びたくなった。コンパクトなボディは狭い道幅とタイトコーナーをものともせず、ガードレールギリギリまで寄せられるし、エンジンブレーキを強めに効かせてコーナーに進入すると、リヤがピクピクと滑りたがる危なっかしさが、なんとも楽しいクルマだった。
700kg前後の軽量ボディに550ccの2ストローク3気筒エンジンを搭載したモデル。車重の軽さと2ストロークエンジンならではのパンチを生かし、滑りやすいヒルクライムでも弾むようにして登っていった。
ドアは窓枠のないハーフメタルで、屋根はもちろん幌。幌は傘のようなものなので、雨が降らなければ外しておくのがデフォルトだ。フロントガラスはフレームごと前に倒すことができ、クローズドのオフロードコースでこれを倒して走れば、それはもう自然との一体感は満点だった。
その代わりオンロード走行はからっきしダメ。高速道路は70km/h以上、出す気にはならなかったけれど(スピードメーターの目盛りが90km/hまでしかなかった)、それでもあおられないのがSJ30だった。
クルマの性能がどうこうというより、人生最初に手に入れたクルマだから。
7万kmぐらい走っていた中古車だったけれど、ひび割れていたダンロップSPを、出たばかりのハイグリップタイヤ、ダンロップ・ゼラに交換し、ステアリングをモモのφ360mmに交換したら、免許取り立ての自分にとっては十分なスポーツカーになった。
パワステも付いていないクルマだったけど、その分だけロードインフォメーションが生々しく伝わってきた。アンダーステアの強いクルマだったけれど、むしろ荷重移動で曲がることを覚えるには絶好だった。トランスミションはリンケージ無しのタイプだったため、シフトレバーは長いものの、シフトフォークを手づかみで動かしているようなダイレクトさが気持ちよく、ヒール&トゥが決まったときの、まったく抵抗なくレバーが吸い込まれる感覚が病みつきになった。
初恋の人が素敵に思えるようなものかも知れないけれど、「運転を楽しんだ」という点では、人生最高のクルマだったことは間違いない。
『運転が楽しいクルマ・ベスト3』は毎日更新です!
クルマ好きにとって、クルマ選びの際に大きな基準となるのは、
「運転が楽しいかどうか」ではないでしょうか。
とはいえ、何をもって運転が楽しいと思うかは、人それぞれ。「とにかく速い」「速くないけど、エンジンが気持ち良い」「足周りが絶品」などなど、運転を楽しく感じさせる要素は様々です。
本企画では、自動車評論家・業界関係者の方々に、これまで試乗したクルマの中から「運転が楽しかった!」と思うクルマのベスト3を挙げてもらいます。
どんなクルマが楽しかったか。なぜ楽しいと感じたのか。それぞれの見解をご堪能ください。
明日の更新もお楽しみに!