ホンダのWEBサイトにて2020年8月6日に先行公開されたCBR600RRは同月21日に正式発表。9月25日に新発売された。プロダクションレース参戦を踏まえて改めて新開発された、ピュアでエキサイティングなミドルクラス・スーパースポーツである。




REPORT●近田 茂(CHIKATA Shigeru)


PHOTO●山田俊輔(YAMADA Shunsuke)


取材協力●株式会社 ホンダモーターサイクルジャパン

グランプリレッド

ホンダ・CBR600RR.......1,606,000円

カウルを剥ぎ取ると、排気系の取り回しとセンターアップマフラーのデザインが良くわかる。

ステアリングヘッドの高強度も徹底追求された中空アルミダイキャスト製ツインチューブフレーム。
内部構造がリファインされたアルミスイングアーム。150gの軽量化も果たしている。

 CBR600RRは2003年の初代デビューからいわゆるレーサーレプリカ系モデルとして良く知られた存在である。この新型では、ST600チャンピオンライダーの小山知良選手をテストライダーに起用し、先ずはレーシングマシンの開発を先行させて誕生に至ったと言う。


 今回は、終始一貫したCBRコンセプトである “Total Control ” の価値を継承しつつも改めて一から開発する指令を受け、開発スタッフ一同の熱き情熱が注がれて完成された。簡単に言うとエンジンパワー等の1点が優れていてもダメ。総合的に全てのパフォーマンスが高く、かつバランスが巧みに整えられていることを重要視する考え方である。


 ライディングポジションの見直しや、細々と随所で徹底された軽量化設計。パワーアップされたエンジンやエアロダイナミクスの追求。CD値(空気抵抗係数)はクラス最小の0.555 を達成。動的なフロント荷重を増すウイングレットも装備。そして最先端電子制御技術が折り込まれた最強マシンへと生まれ変わった。




 エンジンはボア・ストロークこそ共通だが同弁系を含めた吸排気系が大きく一新されている。電子スロットルを採用したスロットルボディは従来のφ40mm~44mmへ拡大。吸気流入量の増加に伴いポート形状もよりスムーズな流れを追求して新設計されている。


 バルブタイミングも吸排のオーバーラップは共通ながら排気側の開け時期を5°早め、吸気側の閉じる時期を5°遅らせる事で、吸排気効率を向上。大型化した排気系の装備も相まり最高出力は121ps/14,000rpmに向上。最大トルクも64Nm/11,500rpmを発揮する。


 高回転高出力化に伴い、カムシャフト、バルブスプリング、クランクシャフト等、各部品の材質を変更し、耐久性を向上。さらにシリンダーヘッドのウォータージャケットを形状変更。燃焼室センターに位置するスパークプラグにロングリーチタイプを採用し、燃焼室間近にも冷却水通路を設けることで、冷却性能向上策も徹底されている。




 燃料噴射や点火時期等のエンジンマネージメントには、BOSCH製5軸IMU(Inertial Measurement Unit/慣性計測装置)が採用され、車体挙動の様々な動的姿勢を把握推定し、ABS等も含め、巧みな制御が介入することでライダーの操縦をアシストしてくれるのである。


 さらにはライダーのスロットル操作に対するレスポンス(出力特性)が5段階に任意設定できる他、9段階+OFFのトルクコントロール、3段階+OFFのウィリー挙動緩和制御、3段階のエンジンブレーキ制御が、ライダーの好みや走るステージに応じて選択可能。


 またフロントフォークは突き出しを変えてコースに合わせたセッティング変更に対応しているのを始め、前後サスペンションはフルアジャスタブルタイプが奢られている。まさにスポーツ道具として多彩で自由なセッティングを可能としている点も見逃せないチャームポイントである。


 ブレーキは以前に話題となった前後連動制御は踏襲されず、コーナリング対応のABSへ進化。急制動時はリヤリフト(ジャックナイフ現象)を抑制する制御も新採用。電子制御式のステアリングダンパーも標準装備されているのである。



新型を象徴するウイングレット。
前輪の荷重減少を抑制する効果があり、安定性の向上に貢献する。
フレームに抱え込まれて搭載された新4気筒エンジン。リジッドマウントされ車体の剛性メンバーにもなっている。
新エンジンは、より高回転高出力な特性が追求されている。
ABSにもIMUをフル活用する最新の電子制御技術が投入されている。

躍動感のある走り!それを操ると元気になれる。

 試乗車を目前にすると、切れ上がった細い目つきのフロントマスクがなかなか精悍。低く身構え、メカニズムがギュウッと凝縮された塊感と、高い位置に後方まで伸ばされたマフラーエンドのフィニッシュには、若干間延びした印象も覚えたが、フォルム全体からは“鋭い”雰囲気が醸しだされている。


 早速跨がると、少しボリュームアップしたかの様な重厚感を覚えた。サイズ的にはほとんど変わっていないはずだが、タンクを膝で抱え、ハンドルを握った感触からそう感じられたもよう。どこか上質な仕上がりである。


 資料によるとタンク上面を10mm下げ、サーキット等での前屈姿勢をしやすくし、同時に空力特性の向上が図られたという。ライディングポジションは、ステップが踏ん張りやすく、ハンドルは遠過ぎず低過ぎない。


 市街地走行しても視線が低くなり過ぎることが無く、下半身で上体を支えやすい事も相まって、意外と疲れない。ライダーが自然と筋力を活かした乗り方になる感じで、いかにもスポーティである。


 身長168cmの筆者にとっては、まるでオーダーメイドしたかのように、タンク形状と内腿とのフィット感が絶妙。軽くニーグリップするだけで、人車一体になれる感じがとても心地よかった。


 しかも膝位置にはタンクとアッパーカウルの間にあるフレーム部が隙間無くカバーされているが、その部位が末広がり(八の字状)のデザインになっていて、実に都合よく膝を支えてくれる。


 お蔭で急ブレーキ時でも背筋を活かして上体を支える動作がとても楽に行えた。また旋回時に両股を開いて腰を落とす姿勢でも、外足内腿とタンク後部のエッジ部分にグリップし易く、S字コーナーの連続で派手に左右体重移動を繰り返す乗り方も楽に決めやすかった。


 簡単に言うとライディングポジション的に相性がとても良くなっていたのが好印象。これだけでもワクワク、ニコニコと気分が元気になってくるのである。




 エンジンを始動すると、ずっしりと響く低い排気音に驚かされるが、暖気後のアイドリングが1,400rpm程に落ちつくと、それほど煩くはない。


 ギヤを1速のローに入れてクラッチをミートしようとするとアイドリングは自動的に1,600rpmに高まり、スロットルを開けなくてもスムーズに発進してくれる。


 メーターの回転計はブロックが積み重なり伸びていく一般的な表示の他に、かなり敏感に反応するデジタル表示がある。注目して見ると、クランクマスが小さいだけに、100rpm程度の範囲で細かく上下動を繰り返しているのがわかる。


 ラフなクラッチミートではエンストの心配があるので、スタート時には200rpm程回転を高める仕組みが採用されているわけだが、感覚的には低速域でもトルクは十分に太く、発進操作はとてもイージーだ。


 試乗車にはクイックシフターが装備されていたので、発進後はクラッチ操作無しでシフトチェンジが可能。2速へのシフトはタッチが硬い事があったので、クラッチを使う事が多かったが、それ意外は小気味よいシフトワークが楽しめた。


 3,000rpmを超える領域なら、どんな場面でもスロットルレスポンスは十分に強力。ちなみにローギヤでエンジンを5,000rpm回した時のスピードは43km/hだった。


 8,000rpmを超えると衝撃的なパンチ力を発揮。回転は衰えることなく一気に15,000rpmからのレッドゾーンへと向かう。最高出力発生回転数の14,000rpmで120km/hに到達してしまうポテンシャルの凄さは侮れない。


 絶対的なポテンシャルでは1Lマシンに譲る事は間違いないが、テクニカルサーキットを攻めあぐねる1Lマシンを尻目にスイスイと快走する姿が目に浮かんでくるのである。  


 その意味で、ワインディング路でも気持ち良く程良いスポーツライディングが楽しめるCBR600RRのポテンシャルと扱いやすさは好印象。市街地でもその柔軟な出力特性故にストレスは感じられなかった。


 6速トップギヤで100km/hクルージング時のエンジン回転数は5,350rpm。120km/h時は6400rpm 程度である。


 前後サスペンションはシッカリと硬めだが作動初期とボトム近辺の動きにソフトな感触が備わっていて、荒れた路面でも乗り味り心地が良かった。


 また電子制御のお蔭でスロットル操作やブレーキ操作で失敗しにくい安心感も大きく、今回走行したタイトで狭い郊外のワインディング路も軽妙かつ楽しく走れたのである。


 あえて言うと、旋回中のブレーキングでは若干マシンが立つ(起きる)傾向が感じられたが、ビックリする程の物ではない。むしろコーナー手前のブレーキングで車体を前傾させて、走行ラインをクィックかつ積極的にイン側へアプローチする乗り方を許容してくれている感じでもあった。


 フルアジャスタブルな前後サスペンションはオーナーになった後で色々弄り倒す楽しみが大きい。また最先端電子制御技術の投入はライダーの失敗を防いでくれる備えとして心強く感じられた。


 サスペンションや各種モード変更等、色々と選択する組み合わせは膨大なので、自分にとってのベストチョイスを導き出す楽しみも大きい。独自に導き出したデータを基に、各サーキットに相応しいセッティングでスポーツ走行にトライ。自力でラップタイムも計測する。そんなハードな楽しみ方も、何不足無く出来てしまう。


 コンセプト通り、バランスの取れた総合性能の高さが魅力的なのである。

足つき性チェック(身長168cm)

シート高は820mm。写真では両足がほぼベッタリに見えるが、両踵はほんの僅か、地面から浮いた状態である。足つき性に不安は感じられない。

ディテール解説

M字状に口を開けたエアダクトと左右に切れ上がった目つきの細いフロントマスクが精悍。左右に生えたウイングレットは高速時のダウンフォース発生に貢献する。

φ310mmのフローティング・ダブルディスクにはTOKICO製対向4ピストン油圧キャリパーをラジアルマウント。フロントフォークはショーワ製のφ41mm倒立式を採用。

表面積を稼ぐラジアル(湾曲)構造を採用したラジエター。上下分割構造のフルカウルに覆われ、599ccのツインカム水冷エンジンを覗くことはできない。

ほぼ垂直に伸びるシフトのリンクロッド上部にはクィックシフター(オプション設定:26,950円)用スイッチが装備されている。リヤショック上部のアジャスターは圧側のダンパー調節ができる。

CBR600RRらしいスタイルとして定着したセンターアップマフラー。後輪直前から跳ねあげられたデザインで左右ともスッキリしたサイドビューに仕上げられている。

モノショック下部のリンク機構が覗くユニットプロリンク式サスペンション。10段階のプリロード調節と伸び圧それぞれ独立してダンピング調節ができる。

φ220mmのリヤディスクにはNISSIN製のシングルピストン・ピンスライド式油圧キャリパーを装備。タイヤはダンロップ製スポーツマックスのRoadsport2を履く。

フロントフォークの突き出しが多いステアリング回りが印象的。セパレートハンドルはトップブリッジの下にクリップオンされている。電子制御式ステアリングダンパーも装備されている。

ハンドル左側スイッチは左列の下から順にウインカー、ホーン、ディマー&パッシング、人差し指で扱うラップタイマー。そして右列はモード、選択に使う2WAYスイッチ、上がハザードだ。
ハンドル右側スイッチはシンプルに赤いスイッチが一つ。エンジンキルスイッチと始動用スタータースイッチが一つに集約されている。
フルカラーTFT液晶のマルチインフォメーションディスプレイは多くの情報表示やライディングモード切り替え等に活用できる。写真は通常のストリートモード画面だが、サーキットモードにするとデザインが変わり、ラップタイマーも起動する。バックライトは自動調光式、背景も4種類から選択可能だ。

段付きのダブルシートはセパレートクッションタイプ。リヤカウルの両サイドにはマフラー冷却を考慮したエアダクトがあけられている。
後席直前中央のキーロックを解錠するとリヤシートは簡単に脱着できる。全体に浅めだが小物やETC機器が収納できるスペースが設けられている。
伸び圧それぞれ独立してダンピング調節ができる。マイナスドライバーを使用。右が圧側、左が伸び側のアジャスターだ。いずれも右(時計回り)に回すと減衰力が強くなる。圧側は7回転回せる。H側から左に6回転戻した位置が標準。伸び側の調整範囲は5回転半で、H側から4回転と4分の3戻した所が標準。
左右それぞれでスプリングのプリドードを変える事ができる。ボトム付近にある青いリング中央をヘキサゴンレンチで回すことで無段階調節できる。調整範囲は15回転で、L側(左)へ回した後、H側(右)へ4回転半戻したところが標準位置に設定されている。ダンパー調節共々、設定は左右のフォークを揃える。
テールランプと排気口が二階建てとなる独特なデザインのテールビュー。灯火類はライセンスプレートライト(12V5W)を除いて全てLED式だ。

◼️主要諸元◼️

車名・型式:ホンダ・2BL-PC40


全長(mm):2,030


全幅(mm):685


全高(mm):1,140


軸距(mm):1,375


最低地上高(mm):125


シート高(mm):820


車両重量(kg):194


乗車定員(人):2


燃料消費率(km/L)国土交通省届出値:23.5(60km/h)〈2名乗車時〉


WMTCモード値(km/L):17.3〈1名乗車時〉


最小回転半径(m):3.2




エンジン型式:PC40E


エンジン種類:水冷4ストロークDOHC4バルブ直列4気筒


総排気量(㎤):599


内径×行程(mm):67.0×42.5


圧縮比:12.2:1


最高出力(kW [PS] /rpm):89[121]/14,000


最大トルク(N・m [kgf・m] /rpm):64[6.5]/11,500


燃料供給装置形式:電子式〈電子制御燃料噴射装置(PGM-DSFI)〉


使用燃料種類:無鉛プレミアムガソリン


始動方式:セルフ式


点火装置形式:フルトランジスタ式バッテリー点火


潤滑方式:圧送飛沫併用式


潤滑油全容量(L):3.5


燃料タンク容量(L):18


クラッチ形式:湿式多板コイルスプリング式


変速機形式:常時噛合式6段リターン


変速比:


 1速…2.615


 2速…2.000


 3速…1.666


 4速…1.444


 5速…1.304


 6速…1.208


減速比(1次/2次):2.111/2.562


キャスター角(度):24°06′


トレール量(mm):100


タイヤ(前/後):120/70ZR17M/C(58W)/ 180/55ZR17M/C(73W)


ブレーキ形式(前/後):油圧式ダブルディスク / 油圧式ディスク


懸架方式(前/後):テレスコピック式(倒立サス ビッグ・ピストン・フロントフォーク)/スイングアーム式(ユニットプロリンク)


フレーム形式:ダイヤモンド



⚫️試乗後の一言!

日本の道路(交通)環境下では最強を感じさせてくれる。ストレス無く楽しめるハイパフォーマンスマシンだ。

情報提供元: MotorFan
記事名:「 ホンダ新型CBR600RRと身長168cmのフィット感、人馬一体感が素晴らしかった。|試乗レポート