今回の新型変速機である9速AT「JR913E」は、そのJR710Eの高機能改良版だと信じて疑わなかった。遊星歯車の構成はおそらく大きく変わらず、ブレーキ/クラッチの締結制御を高度に変更することで9速を創生していると踏んでいたのである。ところが、取材が始まって開発陣の口からは「じつは違うんです」との言葉が発せられた。訊けば、ダイムラー社のステップAT「9G-TRONIC」を基礎としているという。
当時、日産とダイムラーはパワートレイン戦略で技術提携を図っていた。その流れで日産側にも9速ATを仕立てるとなった際に9G-TRONICが俎上に載せられたという。しかし奮っていたのはジヤトコのエンジニア勢、9G-TRONICを徹底的に分析し、社内基準や市場特性などと照らし合わせてさらなる最適化を図った。結果、4つの遊星歯車機構/6つの締結要素は9G-TRONICをそのまま用いながら、各部の徹底的なリファインを施すこととなった。
走行時のNVHや将来のハイブリッドトランスミッション化までを踏まえて歯車の仕様を見直し、変速比も変更。結果、レシオカバレージ(再低速段÷最高速段の値)は9G-TRONICよりわずかに小さくなったが、静粛性に優れた変速機にすることができた。また、JR710Eに対しては本体全長は同等、ベルハウジングなどを含めた総全長/重量では減らすまでの仕様としている。
当然、ドライバビリティの向上にも努めている。ステップ比を小さくしクロースレシオ化を図り、そのための変速速度は可動部の軽量化、油路の短縮化、油温の最適化などを積み重ねることで実現した。燃費/伝達効率の向上にストレートにつながるロックアップ制御については、スリップ量をJR710Eより減少させ、発進加速時にはダイレクトなフィーリングを醸し出している。ロックアップクラッチを締結したことによる振動騒音対策としては、トルクコンバータ内にペンデュラムダンパを装備、NVHにうるさい北米の顧客も満足する性状としている。
同機については『モーターファン・イラストレーテッド』Vol.169で牧野茂雄さんが詳細にレポート。ぜひお手にとってご覧ください。