シートが薄くなり、リアサスのリンクが本来の形状ではなくなったことで、ノーマルと比べると、快適性と悪路走破性は下がっている。とはいえ、そういう状態でも、テネレ700ローはなかなかの万能性を発揮してくれた。




REPORT●中村友彦(NAKAMURA Tomohiko)


PHOTO●富樫秀明(TOGASHI Hideaki)

ヤマハ・テネレ700ロー……126万5000円

フレーム形式はダブルクレードルだが、ボルトオン式のダウンチューブは、剛性には寄与していない模様。フロントフェンダーの取り付けボルトを通す穴は、外径が大きいブロックパターンタイヤの装着を考慮して、長穴になっている。

ライディングポジション ★★★☆☆

身長182cm・体重74kgの僕の場合、ノーマルでは両足の1/3くらいが地面に届かなかったのだが、ローだと両足のかかとが接地。そしてローの乗車姿勢は意外に快適だったものの、ノーマルのバランスを知っていると、さすがに★×4以上は付けづらい。ローシートのウレタン厚が薄いのは事実だし、リアの車高が低くなった結果として、相対的にハンドルが高くなりすぎているのだから。いずれにしてもノーマルを基準にするなら、ローの乗車姿勢は安定指向で自由度が低く、誤解を恐れずに言うなら、戦う準備が整っていない印象。

タンデムライディング ★★★★☆

タンデムで走り出した瞬間、第1回目で述べた“さらなる低車高仕様”の悪癖が復活した。車体を傾けると切れ込みが発生するし、停止時にはフロントまわりがフラフラ。この問題はリアショックのプリロードを5ノッチ締めて解決したのだが、おそらくリアサスのリンクがノーマルなら、調整は不要じゃないだろうか。

以下はタンデムライダーを務めた、富樫カメラマンの感想。「リアのプリロードをいじる前も後も、乗り心地は快適だったよ。座面がフラットだから落ち着いて座っていられるし、ステップの位置も悪くない。あえて言うなら、グラブバーが欲しいかな」 ちなみに、グラブバー的な効果が期待できる純正アクセサリーパーツ、リアキャリアは3万7400円で、サイドケースステーは4万6200円。

取り回し ★★★★☆

押し引きの印象は体格によって異なりそう。僕にとっては軽めの部類で、この車格なら、林道で転倒しても1人で起こせるんじゃないかと思ったのだが、小柄なライダーの場合は、高めの重心とハンドルグリップ位置が、マイナス要素になるかもしれない。ただし車重は205kgしかないので、現代のミドル/大排気量アドベンチャーツアラーの中では、イージーに扱えるほうだと思う。

ハンドル/メーターまわり ★★★★★

コクピットは旅心をそそる雰囲気。スクリーンの防風効果は絶大とは言えないものの、運動性能を重視する開発陣は、現状以上の大型化は避けたかったのだろう。ハンドルは現代のアドベンチャーツアラーの定番になっているアルミ製テーパータイプで、ナックルガードは嬉しいことに標準装備。ラリーレーサーを彷彿とさせる縦型メーターは、TFTではなくモノクロ液晶で、視認性は非常に良好。バーグラフ式タコメーターは、8000rpmを境にして表示が縦から横に変化。なおメーターの左には、12V電源ソケットが備わる。

左右スイッチ/レバー ★★★★☆

左側スイッチボックスは、MT-07/09やXSR700/900が採用する最新型ではなく、一昔前の大排気量車用。世間で指摘されている、ウインカーの曖昧なタッチを気にしたのだろうか。個人的には親指の移動量が少ない最新型に好感を持っていただけに、ちょっと残念。
グリップラバーは細身のオフロードタイプで、操作感と握り心地はすこぶる良好。専用設計かどうかは定かではないけれど、柔らかいタッチやエンド部の面取りにはヤマハの良心を感じる。ブレンボのフロントブレーキマスターは、5段階のレバー位置調整が可能だ。

燃料タンク/シート/ステップまわり ★★★☆☆

タンクカバーとサイドカバーは、ノーマルシートと純正アクセサリーのラリーシートを前提に形状を決定しているようで、ローシートだとフィット感がいまひとつ。ニーグリップしようとすると、太股の真ん中より下が、空振りするかのような印象だった。メイン部のシートは2本のボルトで固定。この構造はハンドリングを重視してのことかもしれない(フック式のシートは、走行中に結構グラついている)。

ステッププレートはアルミ製の別体式で、幅広のバーに装着された防振用ラバーは、工具を使わずに脱着できる。ブレーキ/シフトペダルはいずれも可倒式。なお左タンデムステップ基部には、日本仕様独自のヘルメットホルダーが備わる。

積載性 ★★★★★

もう少し出っ張っているとベストなのだが、シートカウルの左右に備わる4つの荷かけフックは、ツーリング好きにはありがたい装備。タンデムシートの座面がフラットなので、荷物の安定性も良好。ただし写真のような背が高いシートバッグを装着すると、ローダウン仕様と言っても車高が高いバイクだけに。乗り降りが面倒になる。なお純正アクセサリーとして販売されている、アルミ製トップ/サイドケースの価格は、6万3450円/6万500円×2で、装着時には専用のステーが必要。

シート下に収納スペースはほとんどないものの、キーで取り外せるタンデム側にはETCユニットが収納できる。

ブレーキ ★★★★☆

φ282mm/φ245mmのブレーキディスクはウェーブタイプで、キャリパーは前後ともブレンボの片押し式。パッと見はあまり豪華な装備ではないけれど、制動力は十二分だし、コントロール性も良好。ただし着座位置が低いローの場合は、フロントブレーキのタッチがノーマルほどリニアではなく、利き始めがやや唐突に思えた。ABSは任意で解除することが可能だが、僕の技量ではオフロードを走った際も、その必然性を感じなかった。

■サスペンション ★★★★★

KYB製前後ショックは、お金がかかっているなあ……という印象。単にストロークが長いだけではなく、状況に応じたダンパーの利かせ方が絶妙だし、アジャスターをいじればいじったぶんの効果がハッキリ感じられる。φ43mm倒立フォークはリーディングアクスル式で、トップに伸び側、ボトムには圧側ダンパーアジャスターを装備。リアショックはフルアジャスタブル式で、プリロードは工具を使わずに調整できる。

車載工具 ★★★☆☆

ここ最近のオンロード車の車載工具は、着実に簡素化が進んでいるけれど、オフロード車としての矜持を示すためか、テネレ700は、T30のL型トルクスレンチ、4mmのL型六角棒レンチ、3本のスパナ(17/14、12/10、10/8mm)、ニップルレンチ(スポークホイールの増し締め用)、差し替え式ドライバーを搭載。収納場所はメインシートの裏。

燃費 ★★★★☆

トータル燃費は23.5km/Lだが、④⑤がいまひとつの理由は、ゴーストップが多かったうえに、撮影のために同じ区間を何度も往復したからで、一般的な使い方なら①~③の平均値、25km/L前後になると思う。この数値がいいか悪いかは何とも言えないので、ネットで同じエンジンを搭載するMT-07の数値を調べると、25km/L以上のオーナーが多い一方で、20km/L前後という意見もチラホラ。

テネレ700の燃料タンク容量は16Lなので、一般的なツーリングなら無給油で300km以上走れるはずだが、残量警告の点滅はかなり早い段階から始まるので(公表値は残量約4.3Lからだが、試乗車は残量6L前後で点滅)、それを無視して走り続けるには勇気が必要。

オフロード車然としたキャラクターを考えれば、止むを得ないけれど、整備時に重宝するセンタースタンドは、標準装備ではなくオプション設定で、価格は3万7400円。

主要諸元(ノーマル:標準車高)

車名:Tenere700


型式:2BL-DM09J


全長×全幅×全高:2370mm×905mm×1455mm


軸間距離:1595mm


最低地上高:240mm


シート高:875mm


キャスター/トレール:27°/105mm


エンジン種類/弁方式:水冷4ストローク並列2気筒/DOHC 4バルブ


総排気量:688cc


内径×行程:80.0mm×68.5mm


圧縮比:11.5:1


最高出力:53kW(72PS)/9000rpm


最大トルク:67N・m(6.8kgf・m)/6500rpm


始動方式:セルフスターター


点火方式:バッテリー&コイル(フルトランジスタ点火)


潤滑方式:ウェットサンプ


燃料供給方式:フューエルインジェクション


トランスミッション形式:常時噛合式6段リターン


クラッチ形式:湿式多板


ギヤ・レシオ


 1速:2.846


 2速:2.125


 3速:1.631


 4速:1.300


 5速:1.090


 6速:0.960


1・2次減速比:1.925・3.066


フレーム形式:ダブルクレードル


懸架方式前:テレスコピック倒立式φ43mm


懸架方式後:スイングアーム リンク式モノショック


タイヤサイズ前後:90/90-21 150/70R18


ホイールサイズ前後:2.15×21 4.25×18


ブレーキ形式前:油圧式ダブルディスク


ブレーキ形式後:油圧式シングルディスク


車両重量:205kg


使用燃料:無鉛レギュラーガソリン


燃料タンク容量:16L


乗車定員:2名


燃料消費率国交省届出値:35.0km/L(2名乗車時)


燃料消費率WMTCモード値・クラス3-2:24.0km/L(1名乗車時)
情報提供元: MotorFan
記事名:「 テネレ700ロー1000kmガチ試乗③|機能・実燃費・使い勝手を多角的に分析してみた。