REPORT●青山 尚暉(AOYAMA Naoki)
PHOTO●平野 陽(HIRANO Akio)
※本稿は2020年7月発売の「ダイハツ タフトのすべて」に掲載されたものを転載したものです。
2020年1月の東京オートサロンで華々しくプレデビューを飾り、大注目されたクロスオーバーモデルのダイハツ・タフトが、いよいよタント、ロッキーに次ぐDNGA採用第三弾として登場することになった。
バックパッカーとピックアップトラックをイメージした、低く構え、ワイドに見える、タフで力強さを感じさせるスクエアなエクステリアデザインは、それだけで唯一無二の存在感、軽自動車としてかつてない魅力を醸し出しているではないか。
グレード展開はシンプル。「Gターボ」、NAの「G」「X」それぞれにFFと4WDの駆動方式を組み合わせるだけ。足まわり、165/65R15サイズの大径タイヤ、クラス最大の最低地上高190㎜は共通。しかも全車に、スカイフィールトップと呼ばれ前方視界の一部となる、ルーフ前方配置のガラスルーフを標準化!電動パーキングブレーキやオートブレーキホールド、ダイハツ最新の先進安全装備=全17種類ものスマートアシスト、LEDヘッドランプ、オートエアコン、バックカメラなどまで全車標準装備。かなり思い切った仕様展開なのだ。
が、通常ならオプション扱いになるスカイフィールトップをなぜ標準化したのか。それはあり、なしの仕様を設定すると2種類の(ボディ骨格)のつくり分けが必要で、ボディ剛性から走りまで変わり、むしろコストアップにつながる。実はこのタフト、ウインドウと同じ方式でボディに接着される4.6㎜厚、重量約5㎏のスカイフィールトップありきで開発された、〝青空標準〟のクルマなのである。
タフトの割り切ったコンセプトを反映した部分はまだある。タントはもちろん、ライバルの多くは荷室の前後長を拡大できる後席スライド機構を備える。が、タフトはあえて固定式だ。理由はまず、操作の簡便化。そして低全高パッケージゆえ、スライド機構を持つとレール分、シート位置が約7㎝高くなることを避けたかったから。さらに想定メインユーザーの若い男性はパーソナルな使用を好む、という調査結果から、前席優先パッケージとして、後席格納による荷室の拡大時に荷物を置きやすいフラットフロアを優先したからだ。後席スライド機構付きの後席を格納すると、レールの高さ分、荷室フロアとの境目に、それなりの段差、角度がついてしまいがちなのだ。
前席優先からか、分厚いクッション感を持つ後席のシート長は他車が490㎜前後のところ、410㎜と極端に短い(ただ、スライド機構を持たないため、取付部剛性で有利。荒れた路面や段差で微振動が伝わりにくいというメリットを確認済み)。
高さ調整可能な荷室フロアをワイパブルな樹脂素材で覆い、前席部分のブラック基調に対して、後席〜荷室部を汚れが目立ちにくくラフに使えるグレー基調としているのも、タフなタフトらしいアイデアだろう。
直列3気筒DOHCターボ/658㏄
最高出力:64㎰/6400rpm
最大トルク:10.2㎏m/3600rpm
WLTCモード燃費:20.2㎞/ℓ
車両本体価格:160万6000円
そんな超個性派、いい意味で割り切ったコンセプトを貫くタフトのライバルとして、ここではハスラー、ek X、そして軽ハイトワゴンの代表としてN-WGNのターボモデルを集め(N-WGNの撮影車両はNAを使用)、さまざまな角度から比較することにした。ターボで揃えたのは、タフトのようなクルマを所有すれば、どこか遠くへ冒険の旅に出掛けたくなること必至で、高速道路や山道では、余裕あるターボがより相応しいと考えたからだ。
それにしても、4台を並べてみると、タフトの個性的なエクステリアデザインが際立つ。ハスラーの横に並べても別次元の斬新さを発散。左右端いっぱいにレイアウトした角形LEDヘッドランプ、オプションのダークブラックメッキパックのガーニッシュ(装着推奨)によって、軽自動車らしからぬワイド感が強調され、男臭く、ワイルドな存在感を醸し出している。
やるな!と思わせるのは、流行りのツートーンルーフを設定せず、ツートーンルーフ風に仕立てていること。「G」グレード限定でスカイフィールトップの前をブラックに塗り、ツートーンルーフっぽく見せている(オプション料金は発生せず!)。
高速走行、遥か遠くへの冒険の旅に出掛けるのに不可欠な最新制御の渋滞追従機能付きACCは、レーンキープコントロールとセットで、「Gターボ」に標準、「G」にスマートクルーズパックとしてオプション設定されている。
タフトの運転席に着座すれば、天地に狭いフロントウインドウの視界とともに、立ったAピラー、運転視界に入るスカイフィールトップによる頭上〝青空〟視界が新鮮・爽快だ。
インパネデザインは冒険心を沸き上がらせる機能的デザイン。差し色は好みが分かれるかもしれないが(カラー変更可)、カモフラージュ柄のシートがこのクルマのコンセプトにぴったり。感動したのは前席の着座感。分厚いクッション感に加え、お尻をふんわり沈み込ませる座面と、背中を包み込むようなシートバックが軽自動車最上級と断言したい上質な掛け心地とホールド性を実現。聞けばロッキーのシートフレームを奢っているのだとか。なるほどである。
シフター手前のスマホを置くのにうってつけのトレーと、その前方にあるふたつのUSBソケットの配置なども絶妙。ピカイチだと思える。
後席に座れば、前席優先パッケージとはいえ、身長172㎝のドライバー&乗員基準で頭上に145㎜(ハスラー160㎜、eKクロス170㎜、N-WGN195㎜)、ニースペースに200㎜(ハスラー最大300㎜、eKクロス最大340㎜、N-WGN最大320㎜:後席スライド位置による)と、他車ほどではないにしても、大人にも不足ないスペースが確保されている。
タフトの荷室は開口部地上高約700㎜と、クロスオーバーモデルとして標準的な高さで、開口部に段差がないため重い荷物の出し入れも楽々。デッキボードの脱着で高さ方向を拡大することも簡単だ。
荷室フロアの奥行きは370㎜固定で、後席使用時に奥行きの拡大はできないが(ハスラーは280〜445㎜に可変)、パーソナルな1〜2名乗車で後席を倒しておけば、4台中唯一、フルフラットになる荷室フロア長は840㎜まで拡大(ハスラー970〜1130㎜/後席スライド位置による)。車中泊対応はウェイク任せで想定外だが、後席背後までの奥行は約1280㎜と長尺物の積載も可能。2名乗車前提なら、タフトの拡大したフラットな荷室スペースは大容量かつ実に使いやすい。
直列3気筒DOHCターボ+モーター/658㏄
最高出力:64㎰/6000rpm[モーター:3.1㎰]
最大トルク:10.0㎏m/3000rpm[モーター:5.1㎏m]
WLTCモード燃費:22.6㎞/ℓ
車両本体価格:165万6600円
さて、ここからは各車の走行性能について。スカイフィールトップ、全自動電動パーキングブレーキ、17種類の機能を満載する最新のスマアシ、 LEDヘッドランプ、自動ドアロック、オートエアコン、ツートーン風ルーフなどを標準装備して 160万6000円(FF)というお値打ち感あるタフトの「Gターボ」で走り出せば、エンジンはD-CVTの制御の良さもあって(NAは旧タイプのCVT)出足から実にスムーズでトルキーに走る。パワステは低速域ではごく軽めだが、操舵フィールのスムーズさはなかなか。速度を上げるほどにしっかりとした手応え、直進感の良さが出てくるから、安心だ。
開発陣が「エクステリアデザインに見合った」と説明する乗り心地は、角が丸められているとはいえ、エアーボリュームの大きい65タイヤでも結構硬め。路面によってはゴツゴツする〝男気〟ある⁉︎タッチを伝えてくる。そこもまた、タフトらしさと理解するべきか?
加速力は想定外に速い、という印象だ。車重がスカイフィールトップ付きでも840㎏と軽く(eK X860㎏、N-WGNカスタム870㎏)、Dassistのパワーモードを使わずとも、伸びやかでトルキーな、高速走行や登坂も余裕の加速力を発揮する。勢い、5000rpmぐらい回しても、不快な振動、ノイズとは無縁。むしろ心地良い。
操縦安定性もなかなかだ。ステアリングを切るとスッとノーズが反応。過敏過ぎず、ダル過ぎない絶妙な扱いやすさ、走りやすさがある。カーブでのロールは、意図的に抑えてはいないというが、それでも安定感、姿勢変化の少なさは文句なし。良路では四輪が路面に張りついたかのようなコーナリングマナーを見せる。その際、シートのホールド性の良さが功を奏し、絶大なる安心感を担保する。ブレーキもコントロール性に優れ、初めて乗っていきなりブレーキを踏んでも扱いやすかった。
余裕ある高速走行で威力を発揮するACCは、タントよりも割り込まれにくい前車との車間距離設定が可能。が、タントより操作をシンプル化したステアリングスイッチは、それ自体は褒められるものの、スイッチが小さ目かつ位置が微妙で、個人的には親指での操作がしにくかった。
ハスラーの走行性能はなるほど、大ヒット作だけのことはある。前席の掛け心地はタフトと比較すると平板に感じられ、足元にパーキングブレーキがあるものの、パワーステアリングは悪路での操作にも配慮した、4台中、最も重めでがっちりとしたフィール。ターボエンジンの吹け上がりも、タフトの爽やかなフィールに対して、こちらはトルクの厚みをより感じさせる濃厚なもの。もちろん、高速走行も渋滞追従機能付きACCもあって楽々、余裕だ。
特筆すべきは構造接着剤を使ったボディ剛性の高さとスペシャルタイヤによる乗り心地の素晴らしさ。上質で、サスペンションがよく動き、段差越えなどでの足まわりからの音、振動の遮断は見事。路面からの入力を一発で収束させ、前後方向のフラット度では軽自動車最上レベルにあると言っていい。ただ、カーブでの車両の安定感、トレース性は文句なしなのに、前席乗員が左右に振られやすい。これは前席まで使った車中泊対応のため、サポート性を犠牲にしているからだ。タフトの絶妙かつ確実なサポート性とは対極にある。
電動パーキングブレーキやオートブレーキホールド、日産のプロパイロットに相当するMIパイロットを装備するeK Xのターボモデルは、前席の掛け心地&サポート性の良さ、荒れた路面でもしっかり感ある終始マイルドな乗り心地とトルキーかつ爽やかに回るエンジン性能、MIパイロットによる高速道路同一車線運転支援技術のレベルの高さが大きな魅力。が、エクステリアに対してインテリアにクロスオーバー感が皆無なのと(eKワゴンと同一)、比較的エンジン回転を高めに使うこと、パワーステアリングのアシストが人工的ですっきりせず、路面によってステアリング振動が大きめに出ることなどが、気になる人には気になるウィークポイントか。
軽ハイトワゴンのN-WGNはもちろん、タフトの直接的なライバルではないが、タフトと乗り比べてみると、軽ハイトワゴンとして全方向にソツのない万能車という印象が持てる。動力性能的にはターボでもジェントルだが、乗り心地、操縦性など、さすがホンダ最新の軽自動車だけにハイレベル。乗り心地もしなやかな足まわりによって路面を問わず、上質・快適そのもの。欠点を見つけにくい一台だ。パドルシフトによってスピードをコントロールしやすいのも美点。とはいえ、ホンダ軽にもそろそろ旬のクロスオーバーモデルの登場を期待したいところではある。
タフトのエクステリアデザインから期待する悪路走破性については、タフトの最低地上高190㎜がクローズアップされがちだが、付加機能はFF/4WDともヒルホールド機能のみ。最低地上高180㎜のハスラーは4WD限定ながらグリップコントロール、ヒルディセントコントロール、スノーモードを装備し優位に立つ。eK Xの最低地上高は155㎜と、標準車のeKワゴンと同一。見た目だけのクロスオーバーモデルということだ。なお、コネクティビリティ機能に関しては、スマホ接続前提ながら、車内Wi-Fi機能やダイハツコネクトを採用するタフトが一歩リードしている。
タフトはコンセプト、デザイン、装備、前席の掛け心地、使い勝手などにおいて、ライバルを圧倒する孤高の存在だと思えたのも本当だ。特に「Gターボ」はアクティブライフを刺激しまくり、日常さえ冒険のフィールドに変えてくれるほどの、大人にもぴったりな超個性派軽だと断言できる。クロスオーバー軽というカテゴリーの中で、これほどまでに斬新で割り切りあるコンセプトを貫き通せたのは、もちろん、ファミリーや子育て世代にタント、車中泊を伴うアウトドア向けにウェイクという盤石の布陣、車種を展開、揃えているからに他ならない。お薦めのボディカラーは3色あるアースカラーだ。
直列3気筒DOHCターボ+モーター/659㏄
最高出力:64㎰/5600rpm[モーター:2.7㎰]
最大トルク:10.2㎏m/2400-4000rpm[モーター:4.1㎏m]
WLTCモード燃費:19.2㎞/ℓ
車両本体価格:166万6500円
直列3気筒DOHC/658㏄
最高出力:58㎰/7300rpm
最大トルク:6.6㎏m/4800rpm
WLTCモード燃費:23.2㎞/ℓ
車両本体価格:129万8000円