TEXT●生方聡(UBUKATA Satoshi)
日本のクーペが輝いていた時代、スタイリッシュなデザインと手ごろな価格に惹かれて、新車で購入したのがS13のシルビア。2代目のホンダ・インテグラとさんざん迷ったあげく、最後は流麗なエクステリアや先進的なインテリア、そしてなによりFRであるのを理由にシルビアに決めた。ただ、当時、大人気のシルビアは納車まで3カ月ほどかかり、MOMOのステアリングホイールやcarrozzeriaのカーオーディオを先に手に入れ、新車が手元に届く日を首を長くして待っていたのは懐かしい想い出だ。
予算の都合でノンターボのQ'sを購入。最上級グレードのK'sみたいに速くはなかったけれど、5速マニュアルを操作して走れば、街中でも楽しかったし、サーキットでは扱いやすいサイズとパワー、素直なハンドリングのおかげで、クルマを操る楽しさを味わうことができた。
お気に入りのシルビアを手放したのは、人生初のオープンカーとなるホンダ・ビートを手に入れるためだった。当時、ユーノス・ロードスターのおかげで、日本でもオープンカーが身近な存在になりつつあり、自分も一度はオープンカーと暮らしたいと思い、どうせならと、新たに登場するビートを衝動買い。
「雨が多い日本では幌を開ける機会は少ない」なんてことを言われたが、実際に所有してみると、雨の日や、夏の日中以外はいつも幌を開けて走れたし、それだけで運転する楽しさは倍増。スピードが出せない街中でも気分が上がるのがうれしかった。ソフトトップは手動、荷物が積めない、ビニール製のリアスクリーンが見にくいなど、不満をいえばきりがないが、ひとたびオープンで走り出せば、全部些細なことに思えるほど、ファンなクルマだった。
おかげでその後、カブリオレを2台購入することになるが、オープンエアモータリングの楽しさを教えてくれたクルマという意味では、出逢ってよかったと思う一台である。
自動車メディアの仕事に携わるようになると、それまで触れる機会がなかったようなモデルを運転できるようになったが、なかでも印象に残っているのがNSX-Rだ。といいながら、運転したときのことはよく覚えていない。エアコンのない広報車のなかで、純粋に走ることに集中した時間が夢のようだったのだ。
鈴鹿サーキットで参加したドライビングレッスンは一番の想い出で、はじめのうちはおっかなびっくり走らせていたNSX-Rが、レッスンが進むにつれてNSX-Rが自分の身体の一部のようになり、スポーツカーを手なずける喜びを知ることができたのは、貴重な体験である。
【近況報告】
20年近く前に、ドイツで工場見学して以来ずっとほしいと思っていたアウディA2をついに入手。左ハンドルのマニュアルで、先進装備とは無縁だが、アナログな運転感覚がとても新鮮で、最近はこのクルマで出かける機会が増えている。