TEXT●島下泰久(SHIMASHITA Yasuhisa)
エンジンが気持ち良いクルマということで、真っ先に浮かんだのが旬モノのトヨタGRヤリス。エンジンは直列3気筒1.6Lターボです。
インディカーやWECなどに携わってきたエンジニアが開発に関わったこのエンジン、19年末に乗ったプロトタイプでは、凄まじく高性能なだけでなく回り方の精度感が半端なくて、“本物”に触れているという感触に打ち震えましたが、先日乗った仕様は更に熟成が進められ、低中速域のリニアリティの向上、トップエンドでのヌケの良さ、艶めいたサウンドなどによって、豊かな表情まで感じさせるようになっていました。これを小気味良いタッチの6速MTで操るのは本当、至福の時間と言えます。
続いてはマツダ3のSKYACTIV-X搭載車を。このエンジンの何よりの美点はドライバビリティの良さです。アクセルの踏み加減、戻し具合に応じたリニアな力の出し入れの感触は、これまでの内燃エンジンのクルマとは明らかに一線を画していて、まさに「人馬一体」を感じさせます。マツダ3の意のままに操れるシャシー性能に見合った本命のエンジンはやはりコレでしょう。その点では正直、MTのほうが旨味が活きるのは事実です。
SKYACTIV-X、車両価格はディーゼルのSKYACTIV-Dより値段は高いのに、出力、燃費ともにそれを下回っていることもあり、世間の評価はビミョーですが、私としては、この素晴らしいドライバビリティは十分、この価格を支払うのに値するものだと思います。パワーや燃費にそうするように、気持ち良さのためにお金を払うのだってアリでしょ?と思うんです。
最後の1台は新型シボレー コルベット。搭載するのは伝統のOHVレイアウトを引き継ぐ“スモールブロック”6.2ℓ自然吸気ユニットです。
排気量を活かして低速域からトルク豊かで、しかも自然吸気なので吹け上がりがとにかく豪快、爽快。OHVでありながら7000rpm近くまで淀みなく回り切るこのエンジンにソソられないスポーツカーファンは居ないでしょう。しかも新型はDCTが組み合わされ、その旨味を余さず味わうことができます。
それだけじゃありません。OHVレイアウトはシリンダーヘッドが小さく、エンジンの低重心化に繋がります。それがミッドシップとしては望外のコーナリング時の安定感、スライドコントロールの容易さにも貢献しているんです。
つまりコルベットにとって、単に伝統だからではなく、しっかりと恩恵があるからこそのV8 OHVというわけです。これって痛快じゃないですか?
他にも、自然吸気を貫き、復活したMTとの組み合わせで最高の快感をもたらす水平対向6気筒4.0ℓユニットを積むポルシェ911GT3や、電気モーターのアシストでターボラグを打ち消し、V型6気筒3.5ℓツインターボエンジンの突き抜けるようなパワーと伸びを存分に堪能できるNSX等々、気持ち良いパワートレインはまだまだ沢山あります。次にやる時は10台くらい選んで、1台1台じっくり語りたいですね!
【近況報告】
先日、人生初のディーゼル車を購入しました。その分厚いトルクと燃費の良さにも“気持ち良さ”を感じて、東奔西走の取材の移動でも、じわり歓びに浸っている昨今です。
【プロフィール】
モータージャーリスト。先進技術からブランド論まで幅広くカバーする。2020-2021 日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。YouTubeチャンネル『RIDE NOW』主宰。
『気持ち良いエンジンならこの3台』は毎日更新です!
内燃機関は死なず! 世の中の流れは電動化だが、エンジンも絶えず進化を続けており、気持ちの良いエンジンを搭載したクルマを運転した時の快感は、なんとも言えないものだ。そこで本企画では「気持ち良いエンジンならこの3台」と題して、自動車評論家・業界関係者の方々に現行モデルの中から3台を、毎日選んでいただく。明日の更新もお楽しみに。(モーターファン.jp編集部より)