世界中のメーカーがラインナップするSUVだが、スズキ・ジムニーのオフロード性能は一、二を争う。約150万円から購入できるスモールカーが、数倍もする価格のプレミアムSUVを上回る走破性を有しているのだから痛快だ。ジムニーがそれを実現できた秘密は、安易に電子制御に頼るのではなく、本格オフローダーとしてあるべき資質を徹底的に磨き上げたことにある。




TEXT:山崎友貴(YAMASAKI Tomotaka)

新型ディフェンダーが捨ててしまったSUVらしい資質とは?

先日、ランドローバー「ディフェンダー」の新型モデルが日本でもデビューして話題を呼んだ。だが、元祖本格オフローダーのひとつであるディフェンダーは、フルモデルチェンジで見た目も構造も大きく変貌してしまっている。

ランドローバー・ディフェンダー

そう言われる要因のひとつがに、ボディ構造がモノコックになってしまってことが挙げられる。乗用車でモノコックのボディ構造というのはスタンダードなものだが、なぜ「本格オフローダーではなくなった...」とファンは嘆息するのだろうか。

一方、ジムニーシリーズがJB64&74に変わった時、昔からのファンは安堵したものだ。先代とその構造が変わらなかったばかりか、部分的には先々代に先祖返りしたというのにだ。「やっぱり、スズキはジムニーの本質を分かっている!」と、開発陣に惜しみない賞賛を贈ったのである。では、ジムニーと新型ディフェンダーの違いとは何なのだろうか。

機能美と使い勝手を追求したジムニーのデザイン

まずエクステリアデザインから考えたい。新型ディフェンダーは、いわゆるレトロフィーチャーと言えるもので、シリーズⅡから脈々と受け継がれたランドローバーの伝統的な形状を踏襲しているように見える。しかし、よく見ると各部の凹凸が多くなり、しかも角が取れたラウンドフォルムを採用している。「それがオフロードと何が関係あるのか?」と言われそうだが、大アリだ。

ジムニーのデザインを見てみよう。二代目ジムニーを彷彿とさせるボディデザインは、潔いくらいスクエアだ。まるで箱である。シエラにしても、オーバーフェンダーを削ぎ落とせば、積み木のようである。実はこの形状にはワケがある。まずボディが四角いと、運転席に座った時に車体の四隅が感覚的に掴みやすくなる。例えば、山肌や樹木が迫っているような狭い道では、そうした障害物との距離感が分かりやすくなり、ぶつけるリスクを減らすことができる。

スズキ・ジムニー

第2にボンネットの水平ラインがまっすぐだから、凹凸のあるオフロードを走った時に、自車がどれくらい傾いているのかが、直感的に分かる。オフロードでは周りの地形が水平ではないことが多いので、どうしてもこうした感覚が重要となる。

プレーンなボディ形状は実用性を重視したものだが、ジムニーの外観上の個性を演出するのにも一役買っている。

インパネも車両姿勢が把握しやすいよう、水平基調のデザインを採用する。

次にフロントウインドウを見てほしい。ディフェンダーのガラス面が寝ているのに対して、ジムニーのガラスは立っている。寝ている方がカッコいいし、空力的にも有利なのだが、ジムニーは敢えて立たせている。これは、ドライバーの視界を極力広く確保し、運転中に瞬時に多くの視覚的情報が入るようしているためだ。

さらに、アクシデントでフロントガラスを割ってしまった場合、湾曲したガラスだとリペアもしにくいし、ガラスも高価になる。ジムニーのように板のようなガラスを使っていると、僻地などで割ってしまった場合に、修理などの対応がしやすいわけである。

現代のクルマとしては珍しいくらい角度が立ったフロントウインドウが目を引く。台形のホイールアーチはタイヤ交換のしやすさも考慮したもの。

もし、オフロードで横転して、激しくボディを損傷したらどうだろう。ジムニーはラダーフレーム構造を採用している。ラダーフレームというハシゴ形の骨格の上に、別に造ったアッパーボディが載っているのである。ラダーフレームは鋼鉄製なので、ちょっとくらいの衝撃で曲がったり歪んだりすることはない。横転や障害物にぶつかった場合、主にダメージを受けるのはアッパーボディで、それ以下のシャシーに大きなダメージを受けなければ走行が可能だ。

ジムニーは今や希少なラダーフレーム構造を継承

新開発のラダーフレーム。クロスメンバーを追加することで、ねじり剛性は先代より約1.5倍向上した。

もしこれが、ボディ全体で強度を保っているモノコック構造だったら、大きく歪んでしまうと自走さえ難しくなる。ランドローバー社は新型ディフェンダーのモノコックボディの剛性に大きな自信を持っているようだが、僻地で事故を起こした場合に生還できないのでは? という疑念がどうしても湧いてしまう。しかし、ジムニーではそれがほぼないのである。

ラダーフレームは、オフロードで飛んだり跳ねたりした時に路面から受ける衝撃を、ハシゴ形骨格で分散・緩和する緩衝材の役割もする。これがモノコックボディであれば、衝撃をボディで受けることになるので、あまりに大きな力であればどこかに歪みが生じてしまう。例えば、サスペンションの取り付け部などが歪んだ場合、やはり自走が難しくなる。

また、主に僻地で使われる場合、モノコックボディは耐用年数が短く、一方のラダーフレーム車は信じられないくらい長持ちする。よく紛争地帯のニュース映像で、オフロード4WDが使われている様が流れるが、とにかく丈夫だから使われているのだ。

タフで悪路走破性に優れるリジッド式サスペンション

丈夫と言えば、サスペンションもだ。ジムニーもそうだが、オフロード4WDのサスペンションと言えば、リジッドアクスル式である。ホーシングと呼ばれる鋼鉄製のケースの中に駆動系やディフェレンシャルギアが収まっているため、仮に岩などにぶつけても簡単には壊れないのである。またアクスルの位置決めをしているリーディングアーム、トレーリングアームも鋼鉄製で、こちらも軽くぶつけたくらいではびくともしない。さらに、大きな路面からの衝撃を、ラダーフレームと一緒になって吸収してくれるのだ。

前後ともに3リンクリジッドアクスル式サスペンションを採用する。

これが、乗用車に多いインディペンデント(独立懸架)式だとそうはいかない。アームやリンクを岩にぶつけようものなら、簡単に歪んでしまう。こうなると、また自走が難しくなる。

リジッドアクスル式には、別な点でもオフロードで有利な性能がある。それはタイヤのトラクションを生み出しやすいということだ。周知の通り、クルマが前に進むには、路面とタイヤの摩擦が重要だ。この摩擦が、トラクションという前に進むための力となる。摩擦係数の低いオフロードでは、このトラクションが非常に重要になってくる。

では、サスペンション形式の違いによるタイヤの動きを想像してみよう。まず、インディペンデント式はぞれぞれのタイヤが独立して、上下に動く。タイヤの上下動は受動的で、路面の凹凸や車両の挙動によってのみ動くのである。これは当然オフロードでも変わらず、仮に岩に乗ったら、岩の大きさ分だけ上に上がることになる。この時にタイヤと路面に生まれる摩擦力は、サスペンションにかかる車両、人、荷物の重さ、つまり軸荷重のみで発生するものだ。タイヤがスリップしたら、理論上はそれ以上のトラクションは得られない。

一方、リジッドアクスルの場合は、左右輪が1本の軸で繋がっている。それ故に、片輪が持ち上がれば、片輪は地面に押しつけられることになる。ヤジロベエと同じ動きだ。この地面に押しつけられる反力によって、タイヤはさらにトラクションを生み出すことになるのだ。これが、μの低いオフロードでは有利になる。

リジッド式サスペンションは悪路での接地性、トラクション性に優れる。

さらにタイヤが上下動する量、いわゆるトラベル量にも差違がある。インディペンデント式は動きの規制はできても、アームの長さ以上に動くチューニングは不可能だ。すべてはアームの長さで決まってしまう。しかし、リジッドアクスル式は違う。理論上は、ホーシングの中心から半分の距離まで動くことになり、それを規制するダンパーやスプリング、スタビライザーさえ変えてやれば、ノーマルよりも動く脚にすることができるのである。これは凹凸の多いオフロードでは、やはりトラクションを生み出すファクターとなるのである。

もちろん、こうした構造がオンロードでは不利になる部分もあるが、これもまたチューニングで改善することはできる。一方、新型ディフェンダーはインディペンデント式を採用しているため、昔からのファンは「大丈夫か?」となってしまうわけなのである。

軽さと小ささもジムニーが世界のオフローダーから愛される要因

ジムニーが本格オフローダーたる理由は他にもあるが、こうした基本的な構造を踏襲しているオフロード4WDはどんどん減っている。これは、製造のしにくさやコスト、重量増による環境性能の悪化などがあるのだが、ジムニーは見事にオーセンティックな形式をすべて踏襲している。いわゆる本格オフローダーと言えるクルマは、ジムニーとジープ・ラングラー、そしてランドクルーザー70系のみになってしまったのは寂しい限りだ。

最後になってしまったが、ジムニーがオフロードで絶対的に有利な資質がある。それは軽さと小ささだ。この唯一無比の資質ゆえに、ジムニーは世界中のオフローダーから愛されていると言っても過言ではない。

情報提供元: MotorFan
記事名:「 世界屈指のオフロード性能、その秘密はどこにあるのか?【スズキ・ジムニー偏愛連載・第6回】