ここで調子に乗り、クラッチを切ってハンドチェンジでギアを1速に入れ動かそうとする。と、ガクンという衝撃とともにエンスト。クラッチワイヤーが伸び切っているようだ。ここで気を落とさずエンジン下にあるクラッチワイヤーを調整して再度チャレンジすると、なんと普通に動かすことができた。とはいえ、フロントブレーキは全然効かないし、リヤブレーキも甘い。というか、ワイヤーは全交換しなければダメっぽい雰囲気だ。
これで気分はだいぶラクになった。エンジンはバラさなくてもいいからだ。では、懸案のフロア補修へ進もう。このサビ穴をなんとかしなくては、岩石オープンさながら、足が路面に届いてしまうだろう。
フロアは裏からも手当てしないといけないし、ベスパは鉄ボディなので重い=作業性が悪い。ワイヤー交換だけでなくブレーキシューも交換だろうし、どうせならステムベアリングの状態も確認したい。ということで、今回は全バラにすること決定だ!
まずはフロントから進めよう。ヘッドライトのカバーを外すのと同時に、ホーンが収納されているノーズカバーを外そう。どちらもプラスチック製品なので、割ったりしないように注意しながら外す。でも、ノーズカバーは上側がすでに割れていた…。
お次はハンドル下からボルトを抜いてヘッドライトカバーを外す。上にパカッと外れてくれるが、メーターやイグニッションが結線されているので要注意。写真を撮ってどの線がどこに繋がっていたかメモ代わりにするのだ。いやぁ、それにしても汚い。それに見たくもないものを発見してしまった。ハンドル下から外したボルトの頭だけがボディ同色になっていた。そうなのだ、おそらく中古車として売る時に軽く塗装を上塗りして見てくれを良くしたのだろう。う〜む、頭が痛いが、これでキレイなボディと裏腹に、フロアが異様にサビているのも納得だ。
あまりに汚いのでハンドルも分解しようと試みた。まずハンドルバーはアクセルワイヤーを外して、ワイヤーが入るプラ製の丸いベースから大きなピンを抜いて外す。これでハンドルバーが抜ける。が、左の写真をよくよく見て欲しい。ハーネスがハンドルバーの隣を通っている。これを抜こうとハンドルスイッチのカバーを外した。それが右の写真で、スイッチの基盤に各ハーネスがハンダ付されていて引き抜くことができない。これではハンドルを分離することができない。どうしよう…。
悩んでいても始まらないので、エンジン側をフリーにする。まずエアクリーナーケースを外して、キャブからアクセルワイヤーとチョークワイヤーを外しておく。また、エアクリに隠れて見てないが、奥に燃料ホースがあるので、こいつも外しておくこと。
次にエンジンからシリンダーカバーとフライホイールカバーを外す。シリンダーカバーは空冷効率を高めるためのものでプラ製。フライホイールカバーは金属で、ここを外すと下にあるシフトワイヤーのカバーも同時に外れるのだ。
まぁ、左の写真をご覧いただきたい。ベスパは混合の2ストエンジン。よって走ると汚れが付着する。それを放置していると、写真のようにオイルが埃やドロと混ざりあって固形化してしまうのだ。それにしても、よくこうなるまで放置したものだ。ひとまず今回はエンジンをボディから落とすだけなので、ワイヤーを外すため上側だけ軽く拭き取る。
シフトワイヤーは車体前方側にあるナットを緩めると外しやすくなる。その上でワイヤーのタイコをシフトベースから外すのだが、案の定タイコがもげるようにワイヤーが切れてしまった。交換した過去があるのかどうか疑わしい。
この作業をするなら、キックレバーは外してしまうとラクになる。また、シフトワイヤーはエンジンにボルトとステーで固定されているので、これも外してしまおう。
キャブから燃料ホースを外したので、お次は燃料タンクを外す。上にあるボルト4本を外せばフリーになるが、シート下にある燃料コックからゴムの輪っかを外しておくこと。タンクを持ち上げながら、同時にコックをボディから抜かないといけないからだ。これが知恵の輪のようで、なかなか面倒臭い。
燃料タンクが無事に抜けたと思ってボディに手をつくと、何やらグニャッとした手応えが。手を上げてみると、何やら溶けたゴムが糸を引いている。確かこのベスパにはリヤボックスがついていた。外した状態で譲り受けたのだが、どうやらボックスのステーをここで固定しつつ、緩衝材としてゴムを挟んでいたのだろう。ソイツが経年で溶けたのだ。まぁ、汚い…。
溶けたゴムにやる気を奪われそうになったが、作業を続ける。外した燃料タンクの状態を確認しつつ、燃料ホースをボディから引き抜く。燃料コックの付け根からガソリンが漏れていないか、必ずチェックしよう。またボディから燃料ホースを引き抜いたのだが、これが完全に硬化していて弾力ゼロ。くの字に曲がったまま無理やり抜いたが、ホースは要交換だ。
写真でタンクの右に写っているのがフライホイールカバー。ザラついたシルバー塗装が部分的に剥がれサビも出ている。これも再塗装するか思案中。また赤いドライバーの間にあるのがシフトベースのプレート。金属製でサビも出ているしオイル汚れが激しい。キレイにするだけで疲れそうだ。
続いてリヤフェンダーを外す。左の写真がそれで、プラ製なのだがすでに割れていた…。おまけに手で簡単に外れる。裏を見れば2カ所あるツメが1つ失われていた。これも新品に交換かと頭が痛くなる。
フェンダーを外したら、ボディの鉄部分へ当てるようにしてジャッキアップ。これだけだと不安定なので、ウマ(リジッドラック)に置き換えるといい。この状態で長いマフラーカッターを外し、ナットを外すことでリヤタイヤを抜くことができる。
マフラーを外したら、いよいよエンジンを外そう。マフラーはボディにボルト留めされているので外し、エキパイ側の金属バンドを緩めて外す。だが、カンタンには抜けないのでゴムハンマーで叩いて抜いた。ガンと大きな音がしたが気にしない。
お次はボディを貫通しているアクスルシャフトを抜く。普通のバイクと同じ感覚で、ベスパの場合はエンジンごと後輪が上下動するのだ。これを外したらエンジン下に板を置いて落下に備える。今回は車輪がついた台車で構えた。最後に燃料タンクがあったボディ後ろ側に手を入れ、リヤショックのナットを外す。これでエンジンは下に落ちるのだが、なんと構えていた台車が転がってしまいエンジンが直接床にドンと落ちてしまった…。
落ちてしまったものは仕方ない。気を取り直してエンジンを外そうとするも、アクスルシャフトが収まる部分がフロアと干渉する。これまた知恵の輪のようにグリングリンして抜こうとしていたら、ドカ〜ンという音とともにボディが横倒しになってしまった! 嗚呼、一生の不覚…。
この手の作業に失敗は付き物だが、なんとかボディだけの状態にすることができた。この状態だとボディをひっくり返すのもラクなので、フロア補修がやりやすくなった。ということで横倒しにしてみると、フロアの裏は表から見るよりサビが進行している…。頭が痛くなってきた。
フロアからセンタースタンドとリヤブレーキペダルを外すと、フロアだけの状態になる。改めて観察すると、これはもうダメかもしれないと思うくらいサビが全面に進行している。通常ならサビだらけのフロアを切断して、新たにパネルを溶接するもの。その上で再塗装するのがベスパのレストアなのだが、筆者は知っている。パネルを溶接により切り継ぐと、もとの鉄板に熱が入る。その上から塗装をしても、熱が入った鉄板は再びサビが発生するのだ。
とはいえ、このフロアを放置することはできない。次回からは素人仕事だが、フロアのサビ取りと補修を行う予定だ。