CBR1000RR-Rの解説と言ったら、MotoGPレーサーRC213V譲りのメカニズム……という話がメインになりがちだが、ここで検証するのは一般公道における使い勝手。サーキットが前提の市販レーサーではなく、ストリートを走るスポーツバイクという視点で、各部を評価してみたい。




REPORT●中村友彦(NAKAMURA Tomohiko)


PHOTO●富樫秀明(TOGASHI Hideaki)

今回試乗したのは上級仕様のSPだが、ホンダはニッシン製フロントキャリパー/マスターとショーワ製前後ショックを採用する、CBR1000RR-Rのベーシックモデルを242万円で販売。ちなみにライバル勢の価格設定は各社各様で、YZF-R1/Mは236万50000/319万円、ZX-10R/RRは210万10000/270万6000/298万1000円。GSX-R1000のベーシックモデルは海外仕様のみで、日本では上位機種のRが215万6000円で販売されている。

サーキットではベストと感じるはずだし、ワインディングロードの印象もなかなか良好。でもRR-Rのライディングポジションは、日常的に使うにはかなりキツい。と言っても現代のリッターSSの基準で考えれば、830mmのシート高は平均的で、ステップだって極端な位置ではないのだが、とにかくハンドルグリップが低いのである。なおアフターマーケットパーツを用いて、ハンドルグリップを数cmほど高くすると、カウルとフロントブレーキマスターシリンダーのリザーバータンクが干渉しそうだが、その問題はステーの見直しでどうとでもなりそう。

リッターSSでタンデムなんてするものじゃない。そう思っていただけに、ビックリした。シャシーが絶大な安定感を備えているからか、RR-Rのタンデムはそれなりにイケるのだ。とはいえ、タンデムライダーのつかみどころは、格納式にして簡素なベルトしかないので、実際の走行中はかなりの不安を感じるらしい。もちろん、メインライダーの腰に手を回せば、その不安は解消されるはずだが、そうすると今度は操安性に問題が出て来るだろう。

先代より数kg重くなっても、RR-Rの装備重量は201kg。だから押し引きは楽勝かと思っていたのだが、低くてタレ角が強いハンドルに力が入れづらいうえに、太くてグリップがいいタイヤを履いているからか、決して軽々ではなかった。ウインカー内臓式のバックミラーは、格納状態と通常の2ポジション式で(微調整は鏡面で行う)、車庫入れや駐車時にはその機構がありがたかった。

高級感が希薄という意見があるようだが、ブラックで統一されたコクピットは個人的には好感触。ヒカリモノや余計な色が存在しないことで、スポーツライディングに集中できる。TFTフルカラーメーターには5種類のレイアウトが存在し、どのパターンも非常に見やすく、どのパターンにも立つ瀬があった。バックミラーの視認性は、可もなく不可もなくという印象。

左スイッチボックスは新規開発。MODE/上下ボタンと左右レバーを介して行う、ライディングモードやセミアクティブサスの設定変更は非常にわかりやすかった。ただし、慣れないうちは中途半端な位置のウインカーを探すことが何度かあった。
フロントブレーキマスターはブレンボのセミラジアル。グリップラバーは1990年代以降のホンダ製スポーツモデルの定番品で、かつてホンダワークスに在籍したバレンティーノ・ロッシは、ドゥカティ/ヤマハでもこのグリップラバーを愛用。
ガソリンタンクは先代より後端の角が立っているようで、減速時に身体のストッパーとして使いやすかった。コーナリング時の外足のフィット感も良好。フレームカバーは熱気の遮断に貢献しているようだ。
ステップの踏み応えも抜群で、クイックシフターはダウン時のブリッピングが絶妙(先代より控え目な印象)。シートの座り心地は、残念ながらいまひとつ……。
リアまわりに荷掛フックやループの類は一切ナシ。試しに手持ちシートバッグ×3を試してみたが、どうにも落ち着きが悪い。こうなってくると、アフターマーケットで販売されている、タンデムシートを外すタイプのシートバッグを使うしかない……と思ったら、なんとホンダ自身がアクセサリーパーツとして、そういう製品を販売していた。しかもタンクバックもアリ!

ブレンボの前後ブレーキは近年のリッターSSの定番で、従来の常識だったφ320mm+10mmとなるフロントのφ330mmディスクも(リアはφ250mm)、すでにパニガーレV4やRSV4が採用しているのだが、それらを上回ると言いたくなるほど、RR-Rのブレーキは素晴らしかった。単に制動力が高いだけではなく、多種多様な電子制御が実にいい仕事をしてくれるので、急激な車体姿勢の変化やロックを微塵も恐れることなく、どんな場面でも自信を持ってブレーキがかけられるのだ。

前後ショックは、セミアクティブ式にして電子調整式のオーリンズNPX30/TTX36。基本的にはサーキット重視の特性だが、アジャスト次第で一般公道にも対応でき、乗り心地は決して悪くなかった。ちなみに、SPの減衰力の基本モードはTRACK/SPORTS/RAINの3種類だが(任意で調整することも可能)、ベーシックモデル用としてホンダが製作したサスペンションセッティングガイドには、標準/コンフォート(乗り心地重視)/スポーツに加えて、2人乗りの推奨設定も記されている。

テールカウル内に収まる車載工具は、2本のL型六角棒レンチのみ。太いほうはメインシート、細いほうはカウルの脱着で使用。他機種と共用の収納袋が、何だか物悲しく思える。もっとも、車載工具が充実していたとしても、このバイクのトラブルに出先で対応するのは難しいだろう。

指定ガソリンは無鉛プレミアムで、燃費は今どきのリッターSSとしては平均的。後半の数値が徐々に良好になっているのは、僕自身の慣れの問題かもしれない(序盤はやたらとアクセルを開けていたような……)。ガソリンタンク容量は16Lで、④を基準とする航続可能距離は294.4km/Lだが、現実的には200kmを超えた時点で給油を考えるべきだろう。ただし燃料残量が3.5L以下のリザーブモードになると、RR-R走行可能距離を正確に表示してくれるので、つい無理をしたくなる。

評価項目は、上3つがスポーツ性能で、他5つがツーリング性能。現代のリッターSSはいずれも同様の図形になりそうだけれど、RR-Rはエンジンとハンドリングに、ツアラーとしても通用しそうな資質が感じられる。とはいえ、燃費や航続距離、乗り心地、積載性などを考えると、やっぱりロングランに適したバイクではない。

キャラクターは市販レーサーだが、現在のホンダはCBR1000RR-Rの快適性を高めるアクセサリーパーツとして、タンク/シートバッグに加えて、ハイウインドスクリーンとETC2.0キットを販売中。また、レーシーなイメージに磨きをかける、カーボン製フロントフェンダー/エアボックスカバー/インナーリアフェンダー/アンダーカウルも存在し、この4点はRC213V-S用と同じ手法で製作。

車名(通称名):CBR1000RR-R SP


型式:2BK-SC82


全長×全幅×全高:2100mm×745mm×1140mm


軸間距離:1455mm


最低地上高:115mm


シート高:830mm


キャスター/トレール:24°/102mm


エンジン種類/弁方式:水冷4ストローク並列4気筒/DOHC 4バルブ


総排気量:999cm³


内径×行程:81.0mm×48.5mm


圧縮比:13.2:1


最高出力:160kW(218PS)/14500rpm


最大トルク:113N・m(11.5kgf・m)/12500rpm


始動方式:セルフスターター


点火方式:バッテリー&コイル(フルトランジスタ点火)


潤滑方式:ウェットサンプ


燃料供給方式:フューエルインジェクション


トランスミッション形式:常時噛合式6段リターン


クラッチ形式:湿式多板


ギヤ・レシオ


 1速:2.615


 2速:2.058


 3速:1.700


 4速:1.478


 5速:1.333


 6速:1.214


1・2次減速比:1.630・2.500


フレーム形式:ダイヤモンド


懸架方式前:テレスコピック倒立式 オーリンズNPX Smart EC


懸架方式後:スイングアーム オーリンズTTX36 Smart EC


タイヤサイズ前後:120/70ZR17 200/55ZR17


ホイールサイズ前後:3.50×17 6.00×17


ブレーキ形式前:油圧式ダブルディスク


ブレーキ形式後:油圧式シングルディスク


最小回転半径:3.8m


車両重量:201kg


使用燃料:無鉛プレミアムガソリン


燃料タンク容量:16L


乗車定員:2名


燃料消費率国交省届出値:21km/L(2名乗車時)


燃料消費率WMTCモード値・クラス3-2:16km/L(1名乗車時)

2008年頃に一念発起し、サーキット通いと草レース参戦を始めた、2輪雑誌業界23年目のフリーランス。当初のサーキットにおける愛機はカワサキZRX1200ダエグだったものの、後にトライアンフ・デイトナ675に乗り換え、数年前からはヤマハTZR250を愛用中。どうして排気量が徐々に小さくなっているかと言うと、走り込むうちに、身の丈を知ったからである。

情報提供元: MotorFan
記事名:「 ライポジ・タンデム・取り回しetc. 一般道での使い勝手を入念チェック‼|CBR1000RR-R SP 1000kmガチ試乗③