衝突安全試験に広く利用されるダミー人形に比べ、THUMSは人体の形状や強度を精密に再現したモデルであるため、衝突による傷害がより詳細に解析できる。また、コンピューター上のシミュレーションであるため、さまざまな衝突パターンを模した解析を繰り返し行なうことができ、衝突実験にかかる開発期間や開発費を大幅に抑えることが可能となる。
現在THUMSは、100以上の国内・海外の自動車メーカーや部品メーカー、大学、研究機関などでクルマの安全研究に使用されており、シートベルトやエアバッグ、歩行者事故時の傷害を軽減する車両構造など、さまざまな安全技術の研究や開発に活用されている。
また、自動車アセスメント機関による将来的なバーチャル安全性能評価試験の導入計画において、THUMSの活用が検討されている。
THUMSを無償公開することで、より多くの方にとって、クルマの安全研究に利用可能となると共に、ユーザー自身でTHUMSに改良を加え、その成果を他のユーザーと共有するなど、利便性が向上する見込みだという。
今回のTHUMS無償公開にあたり、先進技術開発カンパニー・葛巻清吾フェローは次のように語ってい。
「THUMSは2000年の誕生以来、改良を重ね、貪欲に人体構造の再現とバリエーションの充実に努めてまいりました。今やトヨタの安全技術・車両開発に不可欠な技術として確立されています。今回、THUMSの無償公開に踏み切ったのは、より多くのユーザーにご活用いただき、自動車業界全体でのクルマのさらなる安全性向上、そして交通事故死傷者ゼロの安全な社会の実現の一助になれば、との思いからです。自動運転車など将来のモビリティ社会を想定した開発の現場で広く活用いただけることを期待しています」
なお、無償公開の開始にともない、(株)JSOL(東京都中央区)および日本イーエスアイ(株)(東京都新宿区)を通じて行なってきたTHUMSのライセンス販売は、2020年中に終了する。
完成年 発表内容 詳細・備考
1997年 (株)豊田中央研究所と共同開発に着手
2000年 THUMS Version 1リリース 骨をモデル化
2005年 THUMS Version 2リリース 顔面の骨を精密にモデル化
2008年 THUMS Version 3リリース 脳を精密にモデル化
2010年 THUMS Version 4リリース 内臓を精密にモデル化
2011年 Version 4に別体格モデルを追加 大柄男性および小柄女性
2015年 THUMS Version 5リリース 全身の筋肉をモデル化
2016年 Version 4に子どもモデルを追加 3歳児・6歳児・10歳児
2019年 THUMS Version 6リリース 内臓モデルに筋肉モデルを追加
2020年 THUMSの無償公開