現行モデルと比較してみると、かなり似た形をしていることはわかるが、そのディテールや全体のフォルムには、とある強い意志を感じ取ることができる。
そして同時に、この造形はおそらく現在のフィアット・ラインアップのなかでもっともエレガンスなものといっていいだろう。
……といいつつも、その前にこれまでのフィアット500のデザインから、その流れを見ていこう。
じつはEVとなった新型フィアット500は500という数字の名前でカウントすると4代目となる。このスタイルを周知させた2代目モデルはフィアット・ヌウォーヴァ500 (Nuova 500)と呼ばれていた。
それは先代があったためで、初代のフィアット500は1930年代に誕生している。
そしてトポリーノの後継となったのが、1955年に登場したフィアット600だった。トポリーノ同等の全長で4人が乗れるモデルとしており、その実現のためにRRレイアウトが採用された。
そしてその2年後に600と同様のレイアウトをとりながら、ひとまわり小さいサイズで登場したのが500だ。
あえて名前にヌウォーヴァと付けていたように、フィアットとしても路線変更をし、むしろこちらがトポリーノの後継と捉え直したようだ。
この後、500という名前は1975年に消滅し、1972年より500のユニットを利用して誕生した126というRRモデルが後継と見なされた。そのスタイルは500のオマージュも感じられるモデルとなったが、その後、1980年に初代パンダ、1991年に500の意味のイタリア語であるCinquecento (チンクエチェント)という名前を持ったFFレイアウトの新型車を発表。これらのモデルについても興味深い話題は多いのだが、生い立ちの経緯もやや異なることから今回は純粋に“500”という名前のあるモデルで世代を数えて話を進めたい。
ちなみにフィアットとしては、500の第1世代を最初のRRレイアウトモデル=ヌウォーヴァ (1957年誕生)、第2世代をFF化された現行モデル (2007年誕生)、第3世代を今回のEVモデル (2020年誕生)と捉えている。
ここまででわかることは、「いかに小さく、必要充分な車とすることができるか」が500のコンセプトの中心にあることだ。そこには、シトロエン2CVやルノー4CVや、その後に登場したルノー4などを大きく凌駕する利便性とコンパクトさを追求し続ける姿勢を見ることができる。
じつにコンパクトでありながら、必要最小限のユーティリティ。そして、初代フィアット500トポリーノから貫かれた、ファンな存在。その実現こそがフィアット500が持ち続ける価値だ。
その意志を象徴するかのように、2代目のRRからFF、そしてEVへと変わってきた500だが、その形は誰が見ても変わらないものとなっている。しかし、ここには常に、フィアット・デザインの巧みな努力が見えてくる。
さらに庶民とエレガントを結びつける、イタリアらしさの開花させた。その辺りのデザインの考え方については、デザイン考2で見ていきたいと思う。