もともとトヨタのSUVラインアップは、マーケットに応じて、きめ細かく車種設定がなされていて、一分の隙もない商品構成ができあがっていた。そのなかで、唯一といってもいい「隙」がB-SUVだったのだ。
トップのルノー・キャプチャーは約22.3万台、2位のダチア・ダスターは22.0万台、3位のVW T-ROCも20.8万台を販売している。
・キャプチャーとダスター(ともにルノーグループ)を合計すれば約44.3万台(ダスターはプラットフォームが一世代前でいわば廉価モデルだが)
・プジョー2008とシトロエンC3エアクロスを合計すれば約27.7万台
・VWのT-ROCとT-CROSSを合計すれば約31万台
TOP10にトヨタはいないのだ。
TOP11以下も見てみよう。
ここまで広げてもトヨタはいない。
そして、そもそもこのB-SUVのマーケット規模はどうなんだろう?
トータルでBセグSUVの2019年の欧州市場規模は240万台。これは2018年から16%アップの数字だ。
一方、ヤリスが属するサブコンパクト(Bセグ)の欧州の市場規模は2019年が約299万台。BセグSUVの240万台より大きいが、2018年比ではマイナス6%となっている。
未曾有の事態となっている新型コロナウイルスの流行で世界の自動車市場が大混乱に陥っているが、「もしコロナ禍が起きなかったら」を仮定し、BセグSUVがこのまま「+16%」で成長し、サブコンパクトが「-6%」で減少したとすると、
2020年
BセグSUV 278万台
サブコンパクト281万台
と拮抗する。つまり、BセグSUVは、コンパクトハッチの人気の高い欧州市場でも急速に受け入れられているということだ。人々は、ルノー・クリオよりキャプチャーを、プジョー208より2008を、VWポロよりもT-ROC/T-CROSSを選ぶようになってきているということである。
となると、トヨタ・ヤリスにはヤリスクロスがなくては勝負にならないということになる。
トヨタは、欧州でヤリスクロスを「15万台以上」生産したい(=販売したい)と言っている。さらにいえば、B-SUV市場でシェア8%以上をとりたいと明言している。
2019年の市場規模を考えれば8%は、約19.2万台。目論見通りマーケットが成長すれば22.2万台以上となる。
要するに、このクラスでTOPを狙う!と言っているのだ。
ヤリス(1.5ℓ直3+THSⅡ)のデータは
NEDCモードで64g/km
WLTPモードで86g/km
だから、やはりSUVモデルであるヤリスクロスの燃費はそれなりに悪化はする。
B-SUVに関してはAWDであることはさほど重要視されない。つまりFFモデルが主力となるはずだ。となれば、ヤリスクロスが目論見通り20万台前後売れれば、95g/km以下であるわけだから、その分メーカー平均値を下げてくれるということになる。
となると、下げた分、CO2排出量が多い、高級・大型車(つまり利益率が高い)を売ることができるということになる。
英国の調査会社JATOによると2019年の欧州の自動車メーカー別CO2排出量平均はこうなっている。
2019年の欧州におけるメーカー別CO2排出量平均
1:トヨタ 97.5g/km
2:シトロエン 106.4g/km
3:プジョー 108.2g/km
4:ルノー 113.3g/km
5:日産 115.4g/km
6:スコダ 118.1g/km
7:セアト 118.1g/km
8:スズキ 120.6g/km
9:VW(フォルクスワーゲン) 121.2g/km
10:キア:121.8g/km
11:フィアット 123.7g/km
12:オペル/ボグゾール 124.9g/km
13:ダチア 125.6g/km
14:ヒュンダイ 126.5g/km
15:フォード 128.5g/km
16:BMW 129.0g/km
17:アウディ 130.3g/km
18:ボルボ 133.8g/km
19:マツダ 135.4g/km
20:メルセデス・ベンツ 140.9g/km
トヨタはレクサスブランドを入れても99.0g/kmだから、テスラ (0g/km)を除けば、もっとも95g/kmクリアに近い自動車メーカーだ。
95g/km規制にはさまざまなルールが設定されている。そのなかに「マニュファクチャラー・プール(Manufacturer Pools)」という考えがある。これは簡単にいうと、グループ一緒の計算でもいいですよ、という意味だ。VW、セアト、スコダのCO2オフセットをアウディやポルシェに使えるというわけだ。
トヨタでいえば、このマニュファクチャラー・プールにレクサス、スバル、マツダも入る。このプール全体で95g/km以下にする必要があるのだ。BセグコンパクトハッチバックよりもCO2排出量は多いがその分価格も高いB-SUVが90g/km以下で20万台売れれば、そのインパクトは非常に大きい。
新型ヤリスクロスが担う使命は、そのボディサイズよりはるかに大きいのだ。